
義父が肺炎で緊急入院した日、家族が直面したのは「延命措置を行うか否か」という重たい問いでした。病室の外で交わされたやり取りは冷静なものでしたが、そこには長年連れ添った老夫婦の間にある“微妙な温度差”が表れていました。嫁という立場でそのやり取りを見ていたHさん(山梨県・50代)は、驚きと、思わず苦笑してしまうような気持ちを抱かずにはいられませんでした。
【漫画】「…え?延命希望だったの?」義父の“本音”を聞いてびっくり!(全編を読む)
義父の緊急入院で突きつけられた「決断」
義父が肺炎で倒れたのは、ある寒い冬の日のことです。高熱が続き、呼吸が浅くなってからようやく病院を受診した結果、地元のかかりつけ医から大学病院へ緊急搬送されました。症状は深刻で、そのままICUへの入院が決まりました。
Hさんの夫は県外へ単身赴任中だったため、病院へ駆けつけたのはHさんでした。医師から義母に伝えられたのは、「これから人工心肺のエクモを装着して経過を見たいと思います。体力もかなり落ちているため、危険な状態です。今後、病状が悪化し延命措置が必要になった場合、どうされますか?」という問いかけでした。
その場にいたHさんは、義母の受け答えをはっきりと覚えています。義母は「延命措置は、私はしなくていいと思います」と、静かに答えました。
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その声からは感情的な揺らぎよりも、どこか達観したような印象を受けたといいます。ただ義母は「でも、本人に意識があるなら、本人に確認してください。私はそれに従います」と続けました。
義父の「本音」はまさかの正反対
幸い、義父の容体は数日で回復。人工心肺も外れて、ICUから一般病棟へ移れる状態になりました。義父は明るい調子で話します。
「いやー、死ぬところだったらしい。エクモをつけるときに『延命措置は希望するか』って先生に聞かれてさ。思わず、なんでもできることはやってくれって言ったよ!」
その言葉を聞いて、Hさんは口には出さなかったものの、ICU前で義母が語ったあの言葉が頭をよぎりました。
「…え?延命希望だったの?」
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心の中で思わずつぶやいたといいます。
「嫁」の立場で見た、延命をめぐる不思議な温度差
Hさんはこれまでにも、義母から義父との結婚生活における衝突や、さまざまなトラブルの話を聞いてきました。そのため今回の義母の判断には、長年の関係の中で蓄積された思いが影響していたのかもしれません。
長く連れ添う夫婦であっても、価値観のズレは少しずつ生じるものです。普段は表に出ないその違いが、こうした非常時にふと顔をのぞかせることもあるのだと、Hさんはあらためて実感したといいます。
その後、一般病棟でくつろぐ義父を訪ねたときには、「入院は暇すぎる」と、この夏に行きたい旅行の計画を練っていました。スマホでホテルを予約するほど元気になった姿に、Hさんは思わず笑ってしまいました。
そんな義父の様子を見て、義母は淡々と「私は死なないと思ってた」と言います。その冷静さに、Hさんはまた小さく笑ってしまったのでした。
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延命措置をめぐって家族が見せた“価値観の違い”は、Hさんの記憶の中に、どこかひんやりとした感覚とともに刻まれる出来事となりました。
(まいどなニュース特約・松波 穂乃圭)