
静岡国際が5月3日、静岡県袋井市の小笠山総合運動公園エコパスタジアムで開催された。男子200m予選で鵜澤飛羽(22、JAL)が20秒13(追い風1.8m)の大会新をマーク。9月に行われる東京2025世界陸上参加標準記録(20秒16)を突破した。この種目の突破者は水久保漱至(26、宮崎県スポ協)に次いで2人目で、7月の日本選手権の成績で代表入りが決まる。鵜澤は決勝でも、追い風2.1mで参考記録にはなったが、日本記録(20秒03)に迫る20秒05で優勝。日本人初の19秒台への期待が高まった。
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「後半は脚が回りませんでした」静岡国際の鵜澤は前半から、他の選手を圧倒した。これは昨年までは見られなかった光景だ。昨年は日本選手権はもちろん、学生の大会である関東インカレでも、前半でリードを奪うことはなかった。だが後半だけの頑張りでは世界と戦えない。4月1日のJAL入社式では「今年は前半から突っ込んで、後半も同じくらいで走ることを目指しています」と話していた。
その走りを実行して標準記録を破り、追い風参考だが日本記録に迫った。客観的に見れば間違いなく好結果だが、レース後の鵜澤からは自身に厳しい言葉しか出てこなかった。「決勝は19秒台を出そうと思っていました。追い参で出せなかったらダメですよね。前半行けたのはいいのですが、後半は脚が回りませんでした」
鵜澤は「練習不足」とも話したが、これは自身が望む結果が出なかったから出てきた言葉だろう。「秋頃から冬期にかけて、大学4年間で一番トレーニングが積めた」と、これも入社式の際に話していた。静岡の結果で、練習のやり方に問題が見つかった、ということのようだ。「250mや300mの練習をして、コンスタントに長い距離は走れるようになったんですが、200mをずっとスプリントの状態で走る(トップスピードで走ること)こととはちょっと違うので、まだ力不足です」
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前半のスピードが上がり、フィニッシュタイムも良くなった。トータルの力は間違いなく上がっている。反省の言葉ばかりが出てきたのは、鵜澤の目指すレベルが上がっているからだ。
筑波大の谷川聡監督(52)によれば大学1年時のケガ以降、鵜澤は極限までスピードを出していない。鵜澤はもともと、右脚を上手く使ってカーブのスピードを上げられる選手だった。それが左脚の肉離れをしたことで、右脚の使い方も以前ほどできなくなり、昨年までは200m前半のカーブを抑えるような走りになっていた。ケガをする前は、前半も速く走ることができていた。「右脚でしっかり走るタイプでした。そこがわかった上で、左脚も使える走り方でしたね」
200mを50m4区間に分けると、一番スピードが出ているのは50mから100mだ。直線でさらに加速することは難しいが、カーブでスピードを上げておけば、直線で多少落ちたとしても高いスピードを維持できる。「直線は1回しか加速できませんが、カーブは何度も加速できます。速度が上がるほど難しくなりますが、ちょっと失敗してもやり直せるところがあるんです。カーブの走り方が馴染んでくれば、直線もカーブの感じで走って、残り30mくらいだけ直線の走り方になってくるのがいい」
谷川監督によればスピードスケートも同じだという。小平奈緒選手(2018年平昌オリンピック女子500m金メダリスト)のコーチである信州大学の結城匡啓氏(60)とも、その点で意見が一致している。「鵜澤はカーブをもう少し速く走らないと19秒台も出せませんし、世界との勝負もできません。練習も普段から、カーブでスピードを出す走りをやり始めました」その練習が可能になったのは、「最近やっと体も上手く使えるようになって、ケガもなくなってきた」(鵜澤)からだ。静岡国際レース後の鵜澤は、19秒台が出なかったことで反省材料しか言わなかったが、谷川監督は「(大学4年間で)全体的な力は上がってきました」と評価している。
昨年までの鵜澤の自己記録は20秒23で、日本歴代10位だった。日本記録は末續慎吾(当時ミズノ)が03年に出した20秒03(追い風0.6m)。末續は、その年に行われたパリ世界陸上で銅メダル獲得の快挙を達成した。
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日本歴代2位はサニブラウン・アブデル・ハキーム(26、東レ)が19年にマークした20秒08(追い風0.8m)で、サニブラウンは17年のロンドン世界陸上で7位に入賞した。五輪4大会連続出場の飯塚翔太(33、ミズノ)が20秒11(追い風1.8m)で続き、今回の鵜澤の20秒13は日本歴代4位タイである。
110mハードル元日本記録保持者の谷川監督は、現役時代はミズノ所属で末續の先輩だった。「近いのは間違いなく末續選手ですね。内旋する感じの体の使い方などですが、鵜澤は末續選手みたいに(膨大な量の)練習をしないので、もう少し練習ができるようになったらもっと速くなります」
鵜澤自身も、冬期練習を経て目標を高く設定し直した。「以前は日本記録を超えるのが目標と言っていましたが、訂正したいと思います。日本記録を通過点にできるくらいにしたい。今年一番の目標は世界陸上の決勝で走ることです」19秒台を出して東京2025世界陸上に臨めば、決勝に進出する可能性は大きい。そのとき初めて、自身の走りや取り組みを肯定的に振り返る言葉を、鵜澤から聞くことができるだろう。
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)
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