【SVリーグ女子】佐藤淑乃の涙 今季とファイナルを振り返り「これからも成長できる」

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2025年05月04日 18:10  webスポルティーバ

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 5月3日、有明アリーナ。SVリーグチャンピオンシップ決勝、NECレッドロケッツ川崎は、大阪マーヴェラスに初戦セットカウント0−3、第2戦0−3と連敗を喫し、女王の座を逃している。控えめに言って、完敗だった。

「とにかくボールを落とさない」

 マーヴェラスの"不落"は、揺るぎない牙城だった。サーブで崩し、高いブロックがそびえ、剛柔のスパイクが襲う。常に先手を取ってきた。マーヴェラスは昨シーズン、レギュラーラウンドで1位ながら、ファイナルでNECに敗れていた。今シーズンも44試合を戦ったレギュラーシーズンは1位で、"負けるわけにいかない"という執念が滲み出ていた。

 そんな相手にレッドロケッツはいかに戦ったのか? エースの肖像は象徴的だった――。

「マーヴェラスは完成度が高かったです」

 レッドロケッツのアウトサイドヒッター、佐藤淑乃(23歳)は感情を押し殺すように語っている。ルーキー1年目ながら、昨シーズン限りで引退した古賀紗理那が背負っていた背番号2を受け継いだエースだ。

「自分たちらしさを出すため、今日(2試合目)は挑みましたが......相手のフロアディフェンスで、"決められそうで決められない"という展開になって、苦しかったです。ただ、自分たちがやってきたバレーボールをしっかりと出せる場面もあったので、そこでの頑張りはしっかりと認めて、これからも成長できると思っています」

 会見場に座った佐藤は、そう言ってマイクを置くと、悔しさが溢れ出したのか、両目を赤くはらした。どうにか涙をこらえようとして、再び口元が歪む。止まらない涙を手のひらで拭い、それでも拭いきれず、ジャージの袖を指でつかんで拭った。エースの自負があるからこそ、激しく感情が揺さぶられるのだろう。

 SVリーグで、佐藤は日本人最高のスパイカーと言える。レギュラーシーズンは895得点を叩き出し、全体の3位。上位6人が彼女以外は外国人選手であることを考えれば、どれだけ突出していたか歴然だろう。チャーミングな容姿もあって、チャンピオンシップ決勝でも最大の注目を浴びていた。

【「今後は武器を増やすことが大事」】

「マーヴェラスはリズムよくやっている、という感じでした。最初から先手を取られてしまって。1、2セットと個人個人も声が少なく、目を合わせるプレーも少なく、チームプレーでやりきることができませんでした」

 1試合目に敗れたあと、佐藤は無念そうに語っていたが、彼女自身、本来の出来ではなかった。劣勢のチームを何とかしようとボールを呼んだが、スパイクが決まらない。たとえば2セット目、6−10と離されたところで「もう一回、もう一回!」とトスを呼んだが、渾身のスパイクも止められていた。最大出力の強烈なサーブは会場をどよめかせたが、これもうまく拾われてブレイクを奪えなかった。

「決勝の舞台を楽しみにしていました。気持ちは前向きで、強気だったと思います。でも、プレーがついていかず......熱くなりすぎたかもしれません。ブロックは、自分の前にでかい選手2枚がくるのはわかっていて。自分の癖や強みを全員がわかっているなか、レギュラーシーズンでできるようになった"引き出し"を全部出したかったのですが......。自分のサーブでブレイクを取れたら、チームにはよい流れになるのですが、相手も何が何でも1回で切ってきて」

 2試合目も悪い流れを断ちきれなかったが、佐藤のスパイク決定率は前日よりも上がっていた。15得点は両チームを通じて最多だった。スパイク1本が外国人顔負けの迫力で、彼女なしで決勝まで辿り着けなかったはずだ。

「1年目で決勝の舞台を経験させてもらったこと、チームメイトに感謝です」

 佐藤は関係者からティッシュを受け取り、鼻をかんでからシーズンを総括している。

「今シーズンを通じて、常に自分の前に外国人選手を中心に高いブロッカーが待っているなか、その高さに負けず、ブロックを利用することを武器にすることはできたかなと思います。今後は、自分の武器をひとつからふたつへ、ふたつから三つへとどんどん増やすのが大事で、前衛のオフェンスだけでなく、サーブでも、どんなところでも点を取れるのが必要になってくるかなと」

 女王の栄光を逃したことで、むしろ佐藤の強さは増すかもしれない。

 金子隆行監督も、佐藤の今と未来を信じていた。

「淑乃に関しては、(古賀)紗理那が抜けたチームでやってもらいました。(周りの)期待が大きかったし、いろんな見られ方があると思います。でも、フィジカルを磨き続けて、目指すゴールに突き進んで行ってほしいですね。マーヴェラスも大山(遼)や宮部(愛芽世)のように若い選手が出てきているので、そういう世代で女子バレー界を活性化させてくれれば......」

 佐藤は頬を涙で濡らしながら、毅然として前を向いていた。

「決勝は、ずっとやってきたリーグのなかでも相手の勢いが全然違っていて......。でも、そういう経験をできたのはよかったかなって思います」

 彼女の視線は、次の舞台を捉えていた。リベンジに燃えるエースはもう止められない。さらなる進化を遂げるはずだ。

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