大規模言語モデル(LLM)を中心とした生成AIが、企業の事業への実装が進んでいる。そんな中、LLMの開発元として知られるOpenAIは、本格的な「エージェントAI」の開発にを進めている。
そのような中で同社は2月、ソフトバンクグループとの合弁企業「SB OpenAI Japan」を立ち上げた。SB OpenAI Japanは、まさに企業内のさまざまなタスクを自動化するエージェント「Crystal Intelligenceの開発を事業の中心に据えている。このエージェント開発プロジェクトを離陸させるため、ソフトバンクグループは年間30億ドル(約4320億円)を投資することを明らかにしている。
さらにOpenAIは4月24日、NTTデータグループとも業務提携契約を締結した。NTTデータグループはこれまでも、生成AI活用コンセプトSmartAgent」と、それを基盤とするエージェント活用サービスを展開してきた。今回の提携では、OpenAIの企業向け製品の総代理店として、OpenAIのLLMを企業に提案/販売すると共に、既に顧客と共に開発を始めていたエージェントを、OpenAIとの綿密な連携の中で開拓していくという。
金融/製造/流通/ヘルスケアなど、多様な業界向けのAIエージェント開発に取り組んできたNTTデータグループだけに、生成AIの開発において“先頭”に立つOpenAIとの連携で、開発の速度は一層加速するだろう。
|
|
LLMを大規模化することで出現した、新世代のAIチャットサービス。それを育て、人々の生活シーンからビジネスまでをカバーできるよう、これまではさまざまなトライアルが進められてきた。業務に組み込まれている例も多いが、まだ実験的なフェーズだったともいえる。
しかしこの数カ月、生成AIそのもののモデル開発と成熟が進むと共に、これまで人間が行ってきた複雑なタスクを自律的にこなすエージェントの実現にテーマが移り変わっている。とりわけ、ビジネスの現場ではその傾向が顕著だ。
そして同時に、OpenAIがアジアに初めて設置した現地法人「OpenAI Japan」が設立から1周年を迎えた。このことに合わせて、OpenAIのブラッド・ライトキャップCOO(最高執行責任者)が筆者とのインタビューに応じた。
ライトキャップCOOは、OpenAIが提供する製品をどのように顧客に展開するのか、主に事業面での指揮を取っている。前置きは長くなったが、せっかくの機会なのでOpenAIが提唱する「エージェントの1年」たる2025年がどのような年になるのか、聞いてみよう。
●AIエージェントは「顧客と共に創出するもの」
|
|
そもそも、OpenAIはAIエージェントについてどう考えているのだろうか。ライトキャップCOOはこう語る。
エージェントは、単一のパッケージ製品に収まるものではありません。我々が「エージェント」と呼んでいるのは、単独の製品や機能ではなくいくつものAIモデルを使いこなすことで新たに出現した、自律的にタスクをこなす能力のことです。
さまざまなAIモデルを組み合わせ、自律的に動作できるようにすることで、極めて高い信頼性でタスクをこなし問題解決を行う――それがAIエージェントであるという考え方だ。
一方で、多種多様なAIツールをどのようにして使い分け、タスクをこなす上での最適解を見つけ出すには、こなすタスクや目標(ゴール)ごとに“使いこなし”を工夫する必要がある。
多様なエージェントを構築し、導入現場に適応させていくためには、1つのアプローチだけでは対応できません。異なるビジネスの現場では、それぞれにエージェントのユースケースが出現するはずです。 コーディングや情報探索、ツール活用など、ビジネス環境において現実的なユースケースは、AI導入への“壁”が少ない企業と共に生み出していくものだと考えています。
|
|
ライトキャップCOOが語ることを象徴する存在として、OpenAIは「Operator」という実験的なシステムを公開している。現時点では、「ChatGPT Pro」契約者のみ利用可能だ。
OperatorはAIチャットサービスにWebブラウザを内包させ、それを介してAIが依頼したタスクを自律的にこなそうとする。ネットにはさまざまなサービスが存在するが、検索サイトを通じて必要なサービスやツールを探し出し、そのユーザーインタフェース(UI)を“視覚的に”理解しながら実行しようとするものだ。
実際に使ってみると、うまく動かないケースや、必要なツールを見つけられない場合もある。しかし、Operatorは「エージェント」という機能を知る上で、もっとも“分かりやすい”例の1つといえる。
ライトキャップCOOは「Operatorの実装は、初期段階の一例にしかすぎません。しかし、ここで経験を積むことでユーザーがどのようにしてタスクをこなそうとしているのかを知ることができます。パートナーと共に、エージェント開発を通じて顧客の問題解決を図ることが、私たちの狙いです。実際の現場におけるエージェント開発を通して、 AIはエージェントの時代に突入していくでしょう」と語る。
●「オープンウェイトモデル」の提供を目指して
逆説的ではあるが、OpenAIが約1年前にアジア初の現地法人としてOpenAI Japanを開設したのは、AI導入への意識が強い日本市場においてパートナー企業と“実際のビジネスの現場”における協力関係を築き、それをAIエージェントの開発につなげたかったのかもしれない。
事実、ライトキャップCOOはこのように語った。
日本市場が新しい技術の採用と社会への組み込みに対して高い適応性を持っていることが、今回の急速な成長を支えました。日本の文化にはテクノロジーが深く根付いており、早くからビジネスプロセスや日常生活においてAIを導入する土壌が整っています。 また、日本オフィス(OpenAI Japan)のスタッフの成長や熱意も素晴らしく、非常に心強い結果となりました。
日本オフィスことOpenAI Japanのメンバーはこの1年間で約30人にまで拡大し、日本におけるOpenAIのサービスの週間アクティブユーザー(WAU)数は3倍以上となったという。
この成長により、日本は世界的に見てもAIツール/アプリケーション開発者向け市場としてトップ5に、ビジネスユーザー向け市場としてもトップ3にまで事業規模が拡大したそうだ。
ライトキャップCOOによると、日本のSIer(システムインテグレーター)や開発者たちは、驚くほどにOpenAIの技術を積極的に活用し、“情熱的”とさえ表現できるものだという。
ただ、そうした良好な関係の中でも、一部の顧客は開かれたクラウドベースではなく、オンプレミスでの実装を望んでいるともいう。このニーズについて、ライトキャップCOOはこう話す。
多くの顧客は先進的な、大規模AIモデルを動かすためにクラウドでのAI実装を望んでいます。(企業にとって)最先端のAIモデルを動かす設備を用意するハードルは高いですからね。 一方で、セキュリティやコンプライアンス上の観点からオンプレミスでなければ(AIを)活用できない領域があることも確かです。既に明らかにしているように、私たちは近く「オープンウェイトモデル」を提供することを約束しています。
「オープンウェイトモデル」とは、開発者自身がパラメーターを調整して、特定のタスクやデータセットに最適化させることを可能とする、AIモデルの新しい提供方法だ。
AIモデルを自社システムに適応させることで柔軟性が大幅に向上し、独自のデータセットを使った高度なチューニングも可能となる。
もちろん、ウェイトパラメーターを把握/カスタマイズできるため、透明性も高めることができる。特定のタスクに特化した、専門性の高いAIモデルを作ることもできるため、AIエージェント開発のスピードも早めることができるだろう。
今のところ、どのようにしてオープンウェイトモデルを提供すべきなのか、その方法やオープンウェイト化することで、どのような展開が行えるのか、それを利用してユーザーが何を行いたいかについて、コミュニティーからのフィードバックを受けながら作業しています。
●“日本発”のアイデアも実装へ
OpenAIでは、「o3」「o4-mini」、そして「GPT-4o」など新しいAIモデルを相次いでリリースしており、「o」の付いたAIモデルを統合した「GPT-5」の登場も予告されている。
矢継ぎ早にAIモデルのリリースを続ける中、GPT-5世代ではどのような変化が起きるだろうか。ライトキャップCOOに聞いてみたところ、GPT-5への具体的な言及を避けつつ、以下のように語った。
まず1つには、日本チーム(OpenAI Japan)の規模を拡大し続けることが重要だと思います。私たちは、日本でのプレゼンス拡大に強くコミットしていきます。 将来のAIモデルについて、現時点でできるコメントはありませんが、(AIモデルの)能力は時間とともに向上し続けるものです。そしてイノベーションのサイクルは短くなっていき、 AIの能力向上も加速されるでしょう。
ライトキャップCOOは、こうも話す。
顧客と緊密に協力し、どの領域で業務を拡大するべきなのか――1年をかけて見極めてきました。私たちは研究開発と製品開発の両面において、2025年に大きな期待に応えられるロードマップを持っています。そのうちのいくつかは、日本市場にとって刺激的なものになると確信しています。日本のユーザーからのフィードバックに基づいて開発しているものだからです。今後の発表に期待してください。 そして1年後にまた機会があれば、さらに多くの成果についてお話しできるでしょう。
OpenAI、そしてOpenAI Japanの動向から目が離せない。
|
|
|
|
Copyright(C) 2025 ITmedia Inc. All rights reserved. 記事・写真の無断転載を禁じます。
掲載情報の著作権は提供元企業に帰属します。