<アーティスティックスイミング(AS):日本選手権>最終日◇5日◇東京アクアティクスセンター
日本ASの新エース、比嘉もえ(17=井村ク)が、国内ファンの前で「かぐや姫」を舞った。日本代表は前夜、W杯カナダ大会から帰国、この日はエキシビションに登場した。元代表ヘッドコーチの井村雅代氏(74)は比嘉のソロを「中途半端」と酷評。世界のトップを狙える逸材だからこそ、厳しい言葉で奮起を促した。
比嘉が舞ったテクニカルルーティンのテーマは「輝夜姫(かぐや姫)」。雅楽師・東儀秀樹の曲に合わせて優雅に、力強く、竹から生まれ、月に帰るまでを水の上で表現したかった。ところが「体のはまりがよくなくて」(比嘉)動きはバラバラ。回転軸はぶれ、スピンの高さも不足。「今のままでは世界に及ばない」と肩を落として言った。
ルーティンを振り付けたのは、これまで多くの五輪メダリストを育て、乾友紀子を世界一のソリストにした井村氏。比嘉の演技に首を振りながら「思っていたのと違う」「すべて中途半端」「間抜けなルーティンになった」。厳しい言葉が湧き出すように続いた。
特に強調したのは、音楽との同調性。「ソロの良さは体が音楽を奏で、それが聞こえてくること」という思いを持つだけに「曲を感じて泳いでいない。曲への取り組みが甘い」と断言。「きれいなソロが泳ぎたいというから、100年早いと思いながら東儀さんに頼んだ」と井村氏。だからこそ「とても東儀さんには見せられない」と話した。
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酷評は、もちろん期待の裏返しでもある。史上最年少の14歳の時に日本代表入り。高校入学とともに広島から井村ク入りし、昨年のパリ五輪ではチーム最年少の16歳で佐藤友花と組んだデュエット(8位)とチーム(5位)に出場した。172センチの長身と天性の運動能力。この日は「良かったのは笑顔だけ」と言い放ったが井村氏だが、逸材であることは認めている。
「乾は不器用だったけれど、(比嘉)もえは器用。持って生まれた感性がいいし、体も軟らかい。華もある」と思うからこそ、注文も多い。「器用が邪魔しているし、感性はいいけど、ストイックさに欠ける。体は軟らかいのに、腹筋と背筋のバランスが悪い」…。
井村氏が厳しいのは、比嘉が「日本のソリスト」だからだ。シンクロナイズドスイミングとして五輪デビューした1984年以来、元好三和子、小谷実可子、奥野史子と続くソロメダリスト。96年からは五輪からソロが外れたが、現代表ヘッドコーチの立花美哉や乾友紀子が世界のメダルをとり「日本代表ソリストの系譜」をつないでいる。
五輪種目から外れてはいるが、井村氏は「ソリストは国の看板。もっとも大事な軸。そこがブレたら話にならん」と言い切る。世界中の日本のASを見る目はソリストに向く。「もえの評価が日本の評価になる」からこそ「あれじゃ、あかん」と厳しく言うのだ。
比嘉自身、日本のソリストとして「プレッシャーもあるけれど、日本を背負う責任がある。考えられないサポートをしてもらっているし、絶対に結果を残さないといけない」と決意を口にする。その言葉を知った井村氏は「だったら、やりなさい」とひと言。ソリストの孤独さ、苦しさを知るからこそ、厳しい。
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7月にはシンガポールで世界選手権が行われる。日本ASを引っ張り、たった一人で世界舞台に挑む17歳の高校2年生は「初めてASをテレビで見た時から、乾さんが目標でした」と世界一を目指す。「彼女が日本の方向性を決める。本物になること。本物にならなきゃ」。世界一のソリストを育てた井村氏は、大きな期待を言葉に込めた。
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