【F1】角田裕毅は1年目のレースエンジニアと二人三脚で成長する「僕らの関係性には伸びしろがある」

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2025年05月06日 17:50  webスポルティーバ

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F1第6戦マイアミGPレビュー(後編)

◆レビュー前編>>

 マイアミGP決勝は、角田裕毅(レッドブル)にとってかなり苦しい戦いになった。

 タイヤがグリップせず、ペースが上がらない。第1スティントは前のフェラーリに着いていけず、後続の中団勢をカバーするためにピットインしてタイヤ交換を済ませたらVSC(バーチャルセーフティカー)が導入されて、もう1台のフェラーリに先行を許す展開。

 そしてピットインの際、ロックアップ(※)してピットレーン速度違反を犯してしまい、5秒加算ペナルティを科された。そのことで後続に5秒のギャップをつけなければならず、余計なプッシュを強いられることになってしまった。

※ロックアップ=走行中に車輪の回転運動がストップしてしまうこと。

「今日はもう、最初からずっと攻めていました」

 終盤のイザック・アジャ(レーシングブルズ)との見えないタイムバトルと必死のドライビングについて聞かれた角田は、そう言って苦笑いした。そのくらい、最初から最後まで全力で走らなければならないレースだった。

「マシンバランスが悪いというか、とにかくグリップが薄いという感じでした。マックス(・フェルスタッペン)を見ても、今日のレースは僕だけじゃなくチーム全体としてかなり苦戦を強いられましたし、ペースも全然ありませんでした。何が原因でそうなってしまったのか、これからしっかりと分析する必要があると思います」

 ポールポジションからスタートしたフェルスタッペンも、序盤にマクラーレン勢に抜かれて後退し、VSCの前にピットインしたことで失った3位のポジションをジョージ・ラッセル(メルセデスAMG)から取り戻すだけの速さはなかった。

 残り10周でペースを上げて5秒以内に入ってくる後方のアジャに対して、角田はバッテリーを使ってペースを上げるべく、パワーユニットのモード変更を要求した。レースエンジニアのリチャード・ウッドはまだ1年目であるため、レーシングブルズ時代からホンダ製パワーユニットに慣れ親しんできた角田から積極的にリードしようという意思も感じられた。

【バッテリーを使いきる最適解は?】

 もちろん、実際にはパワーユニットのオペレーションを担当するホンダ(HRC)のエンジニアが最適なモードを提案している。残りの周回数でバッテリーを使いきって最速でゴールする手筈は整っていた。

 バッテリー残量を1周で使いきってしまえば、あとは毎ラップ1周で発電できるエネルギーしかアシストに使えなくなってしまう。かといって残り10周以上ある時点から毎周均等に使っていくのでは、あまり効果はない。ラップタイムにガツンと効く周回数で、最大限に使うのが最適なのだ。

 現場オペレーションを統括するHRCの折原伸太郎トラックサイドゼネラルマネージャーはこう説明する。

「最後にタイトな戦いを要求されるああいう展開になると、我々からは『こういうモードを使え』といった提案をして走っています。今回は我々のほうから『残り何周になったらこのモードでいってほしい。このモードで(バッテリーを最後まで使いきって)走りきれるから』という提案をしました」

 角田は、スタート直後や予選で使うアグレッシブなモードを使うべきではないかと要求したが、さすがにそこまではできなかった。

「切羽詰まった状況のなかで、ドライバーから『このモードを使っていいか?』というやりとりはけっこうありますけど、我々としては『このモードのほうがゴールする瞬間に最終的にいい位置でゴールできる』という提案をしています。実際にコントロールラインを横切った時には、バッテリー残量がほぼゼロになっている状態で使いきっていました」

 後方から必死の追い上げを見せるアジャも同じホンダのパワーユニットであり、ホンダのエンジニアが最適なモードを指示している。もちろんホンダが一括して指示をしていたわけではなく、各エンジニアが独自の判断で指示を出しているが、レース後に確認したところ、レーシングブルズ側も同じモード運用だったと折原GMは語る。

「後ろも同じホンダエンジンですし、同じホンダのエンジニアが同じ考え方で、レース中はお互いが自分の担当するクルマをなんとか勝たせようとしていますから、結局やっていることは同じ。結果的に、そこでの差はついていなかったと思います」

【まだ完全に理解しきれていない】

 最終的にアジャとのタイムバトルを制し、角田は10位でフィニッシュ。かろうじて入賞を果たしたものの、スプリント予選、スプリントレース、そして決勝と、エンジニアとのコミュニケーション面の不備があらためて散見されたレース週末だった。

 角田は決勝を振り返り、まだレースエンジニア業務に不慣れなウッドとともに二人三脚で成長していきたいと語った。

「エンジニアもチームから指示されたことを咄嗟の判断で(ドライバーに対して)伝えなければならない部分はあったので、彼だけを責められることでもないです。ただ(ふたりの間のコミュニケーションとして)完全に慣れきっていない部分もあるので、そこはこれから徐々に改善していくしかないと思います。

 僕の耳が(スコットランド訛りの英語に)慣れるというのもあります。彼もレースエンジニアとして1年目なので、僕らの関係性にはまだまだ伸びしろがあると思っています」

 角田はマシンへの理解を深め、エンジニアとともに成長していく。

 習熟と成長のプロセスにどれだけの時間と努力が必要とされるかを知れば、今、目の前の結果だけを見て失格の烙印を押そうとするのが、いかに本質から外れた行為なのかわかるはずだ。

「少なくとも僕自身としては、マシンに対する自信は少しずつビルドアップしてこられました。マシンに対する理解も少しずつ深まってきていると感じています。

 でも、マックスはすでにこのマシンをしっかりと理解できていて、限界ギリギリでコントロールすることができているのに対して、僕はまだ4戦目なので、正直まだクルマのことを完全に理解しきれていないのもあります。まずは自分が改善できることに集中していきたいと思っています」

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