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裁判所の保釈判断のあり方について、元刑事裁判官が書いた論文が法曹界で波紋を広げている。検察が起訴を取り消した化学機械メーカー「大川原化工機」(横浜市)を巡る冤罪(えんざい)事件を取り上げ、「身内」の視点から現状を厳しく批判しているためだ。
執筆者は日大法科大学院教授の藤井敏明さん(68)。1982年に裁判官として任官し、刑事裁判の主流を歩み、東京高裁部総括判事などを務め2022年に退職した。
25年3月に発表した論文のタイトルは「『罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由』について」。
大川原化工機の社長らの保釈請求に対し、東京地裁は事件関係者と口裏合わせをする恐れがあるとして「罪証隠滅の恐れがある」と何度も請求を却下した。社長と元取締役は逮捕から保釈まで11カ月を要し、元顧問の男性は勾留中にがんが見つかっても保釈が許されず、被告の立場のまま72歳で死亡した。
論文では、保釈を認めない理由として、判で押したように「罪証隠滅の恐れ」が用いられ、「定型的な処理」を招いていると批判。証人への口裏合わせが行われ、それが裁判の結論に影響を与える可能性が現実的にどのくらいあるのか裁判官は突き詰める必要があるとしている。
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裁判所の保釈判断を巡っては、06年に現役の刑事裁判官が「保釈基準が厳格化しすぎている」と書いた論文が発表され、裁判所の保釈率が上向いたことがある。
06年に14・8%だった全国の地裁の1審段階の保釈率は、12年には20・7%となり、23年は31・9%にまで上昇した。
ただ、起訴内容を否認していれば保釈が認められづらい傾向は変わっておらず、「人質司法」の批判は根強く残る。
刑事事件を多く扱う弁護士たちからは、今回の「藤井論文」をきっかけに保釈実務が本質的に変わってほしいと期待の声が上がっている。
あるベテラン裁判官は「『罪証隠滅の恐れ』の有無は、現場の裁判官も悩みながら判断している難しい論点だ。論文に書かれていることはもっともな問題提起。多くの裁判官が読むだろうし、今後の実務に影響を与える可能性がある」と話す。【巽賢司】
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