
事件発生から2週間後の逮捕だった。
宮城県岩沼市の海岸で保育士・行仕由佳(ぎょうじ・ゆか)さん(35)の刺殺体が見つかったのは4月13日午前のこと。県警は同26日、行仕さんの遺体を遺棄したとして同市に住む知人のプロキックボクサー・佐藤蓮真(さとう・れんま)容疑者(21)を死体遺棄の疑いで逮捕した。
「僕はやっていないです」
「決め手は防犯カメラ映像とスマホの通信履歴だったようです。佐藤容疑者は遺体が発見された前日の4月12日夜、車を運転して仙台市太白区の行仕さん宅近くまで行き、行仕さんと複数回電話をしています。行仕さんは小学生の子どもと2人で暮らすシングルマザーで、電話を切った直後の午後7時ごろ、子どもに“職場に忘れ物をしたから取ってくるね”などと告げて外出しました。
防犯カメラには、佐藤容疑者が遺棄現場近くを車で1人で走り去る姿が記録されていました。捜査当局は佐藤容疑者の認否を明らかにしていませんが、殺人の疑いも視野に経緯などを慎重に調べています」(全国紙社会部記者)
行仕さんを海岸に連れ出したのであれば、なぜ1人で帰ってきたのか。
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遺棄現場は仙台空港から約3キロメートルの海岸で、行仕さん宅からは約14キロメートル離れている。堤防先の波打ち際に着衣と靴下姿で仰向けに遺棄され、身元特定につながるスマホや財布などは見つかっていない。
「死因は失血死でした。着衣の上から刃物のようなもので胸や腹を複数回刺され、心臓に達する深い傷もあったといいます。翌朝、付近を散歩していた人が遺体を発見しました」(全国紙社会部記者)
行仕さんがいつまでも帰ってこないことを心配した子どもは山形県の祖父母に連絡し、祖父母から警察に行方不明者届が提出された。
行仕さんは格闘技ファンだったようだ。知人男性が打ち明ける。
「ふたりは共通の知人女性を介し、キックボクシングの試合観戦を通じて知り合ったということでした。蓮真は行仕さんのことを“試合で応援してくれた女性です”とファンのひとりであるように説明し、事件当日について“僕が出場する4月20日の大会のチケットを渡すために会いました”と話しました。
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ニュースで女性が遺体で発見されたことを知り、蓮真に“亡くなったみたいだな”と伝えると“えっ”と驚いたんです。でも大会前日の計量も試合当日も姿を見せなかったので、事件について“やったのか、やっていないのか”と問いただすと“僕はやっていないです”と。本当のことを言っているように感じたので“ならば堂々としていろ”と言ったのですが……」
佐藤容疑者は約3年前にプロデビュー。アルバイトをしながら競技に取り組んでいたとみられる。階級は体重57.5キログラム以下のフェザー級でリングネームは『蓮真(れんま)』だった。
「彼女はいるの?」と尋ねたら…
佐藤容疑者を知る格闘技関係者は言う。
「キックボクシングは、まだまだマイナーなスポーツです。かつての那須川天心選手や武尊選手らトップ中のトップ選手だけがファイトマネーやスポンサーの支援で競技に専念でき、たとえ有力選手でも、ほかに仕事を持っているのが当たり前。いわば趣味の延長で取り組んでいるんです。
リングネームは所属ジムの師匠につけてもらったりしますが、佐藤容疑者は自ら提案して『蓮真』と決めたそうです。実力は普通の選手。運動神経はよかったといいます」
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小学3年生のころ、所属ジムのキッズクラスに入門したのがきっかけという。中学では陸上の四種競技に取り組み、再びジムに戻ってきたのは高校を卒業したころだった。
「所属ジムでは先輩が後輩を教える慣例があるそうで、佐藤容疑者は教え方が優しく丁寧だったそうです」(佐藤容疑者を知る格闘技関係者)
キックボクシング一本で生計を立てたかったのか、水面下ではプロとしての環境整備にも乗り出していた。
別の知人男性が振り返る。
「昨年11月から12月ごろ、知人を介して“スポンサーになってもらえませんか”と打診があり、焼き鳥店で佐藤容疑者と会いました。礼儀正しく笑顔が素敵で感じのいい青年です。“僕は地元で頑張りたいんです”と話していました。彼はほとんど飲まず、集まったスポンサー候補たちに料理を取り分けてくれたのを覚えています。
試合用のパンツに会社名を入れてほしいらしく、広告料金を尋ねると“いくらでもいいんです”と言うんですが、それだと逆に出しにくいから料金表や目安を示してほしいとお願いしました」
佐藤容疑者の気配りもあって酒席は盛り上がり、出席者から「シャドー(ボクシング)を見せてよ」と、むちゃぶりが飛び出した。
「店内では“いやぁ〜”と遠慮していましたが、店を出たあとで“構え”だけは見せてくれたんです。威圧感がありましたね。彼女はいるの? と尋ねたら“いやあ、全然ですね”と言っていました」(知人男性)
自作リングネームにスポンサー探し。実力や年齢を踏まえると、背伸びしている感じがしなくもない。
SNSでは今年の抱負を《全戦全勝》と掲げ、こう綴っていた。
《そろそろ内容にもこだわり、KOを魅せます。まずは怪我のないように。勝てばいいだけの試合では高いチケットを買って見に来てくださるお客さんに対して何も響かないので、今年は覚悟とリスクを背負って1人でも多くの人の活力になるように頑張ります。そして、選手としての前に人としての在り方。去年は上手くいかないことばかりで自分を見失なってた部分が目立ちましたが、決して投げやりになったり周りのせいにしないで精進していきます》(1月24日付、原文ママ)
そうかと思えば、後輩のレベルアップを喜んだり、将来はジムを運営して選手を育てたいなどと、選手の立場を忘れた“上から目線”も。
特にではなく、フツーに頑張っていた
「特に頑張っているような選手ではなく、普通に頑張っていたらしいです。“練習の虫”みたいな先輩選手はゴロゴロいますから、普通の実力で大口をたたくことはできないはず。SNSの投稿は、自分を奮い立たせるためか、カッコつけて言ったのかわかりませんが」(容疑者を知る格闘技関係者)
行仕さんのアパートには、愛用していたとみられるチャイルドシート付きのママチャリが残されていた。
「誰が何のためにやった事件かわからず怖かったのですが、容疑者が逮捕されて少しホッとしました。亡くなった行仕さんも、残されたお子さんもかわいそうです」(同じアパートの住人)
勤務先の保育園では、保護者から「面倒見のいい優しい先生」などと評判がよかったという行仕さん。佐藤容疑者は「人として」と語る資格があるのだろうか。