
“文系頭”には難しい用語が並んでいるけれど、要は「花による腐肉擬態というユニークな現象が、どのような成り立ちで進化しうるのかを解明した」ということだ。国立科学博物館が、国立遺伝学研究所、昭和医科大学、長野県環境保全研究所、宮崎大学、東北大学、情報・システム研究機構ライフサイエンス統合データベースセンター、龍谷大学、慶應義塾大学との共同研究の成果を5月8日刊行のScience誌に発表した。
花といえば、美しい色や良い香りで私たちを楽しませてくれる存在と一般に捉えられがちだが、実際にはそのイメージにそぐわないさまざまな姿かたち、性質を持つ花がある。その多様性は、花がどのような方法で昆虫などの花粉を運ぶ動物を招き、受粉を助けてもらっているかという生態と密接に結びついている。中でも奇妙なのは、腐った肉や糞(ふん)のようなにおいでハエなどの昆虫をだまし、花粉を運ばせる「腐肉擬態花」で、世界最大の花として有名なラフレシアやショクダイオオコンニャクなどがそれだ。だが、どのようにしてこのような特異な花が進化したかについては、これまでほとんど分かっていなかったという。
今回の研究ではまず、日本で約50種が自生し顕著な多様化を遂げた植物のグループであるカンアオイの仲間の中に、典型的な腐肉擬態花の性質を持ち、花のにおいにジメチルジスルフィドを含む種と、そうではない種が存在すること、その進化の歴史では、臭いにおいの花が繰り返し生じてきたことを発見した。そして臭いにおいの生合成に関与する複数の遺伝子を特定。その一つがジメチルジスルフィドを生合成する新発見の酵素の遺伝子であることを解明したという。この遺伝子の機能は、陸上植物が共通して保有する祖先的な酵素メタンチオールオキシダーゼからわずかなアミノ酸配列の変化で獲得されることが分かったという。
今後は、ジメチルジスルフィドを放つさまざまな生物について比較解析し、生物が「臭いにおい」を生み出すメカニズムの全貌を明らかにしていきたいとしている。
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