
「すべてを出し尽くしたけど、欧州王者にはなれなかった。でも、僕は必ず約束を果たす。バルセロナにチャンピオンズリーグのトロフィーを持って帰る!」
バルセロナ所属の17歳、ラミン・ヤマルはそうメッセージを発信している―――。
5月6日、チャンピオンズリーグ準決勝。バルサはイタリアのインテルに敗れ、大会から姿を消している。ファーストレグは3−3、セカンドレグも90分間を戦って3−3だった。延長戦に入り、ダビデ・フラッテージの一発で沈んだ。
今シーズンのバルサは破格の攻撃力を誇っていた。伝説を残す、という気配も漂っていた。だが......。なぜ、バルサはファイナリストになれなかったのか?
バルサ系のメディアは、主審を務めたシモン・マルチニアク氏のジャッジに非を鳴らしている。
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1 前半24分、ペドリが右サイドから入れたクロスに対し、ペナルティエリア内でフランチェスコ・アチェルビがハンドをしていた。
2 前半45分、パウ・クバルシがラウタロ・マルティネスにタックルしてPKを献上したが、「正当なディフェンスだった」と主張。
3 後半22分、ヤマルに対するヘンリク・ムヒタリアンのタックルへのジャッジはPKからFKに変わったが、PKであるべきだった。
4 後半アディショナルタイムにデンゼル・ダンフリースがジェラール・マルティンの足を踏みつけており、その後のインテルの得点は無効だった。
それぞれ糾弾しているのだが、どれもグレーな判定だった。ちなみにスペイン大手スポーツ紙『マルカ』がウェブでネット投票を募ったが、どの主張も過半数以上の賛成を得られていない。アチェルビのファウルがあったかについては44%が賛同し、4つのグレーの"合わせ技一本"があるなら主張は通るが......。
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インテルの勝利を称えるべきだろう。
もっとも、2試合合計7−6と撃ち合うスペクタクルを演出したのは、バルサだった。彼らは最後までリスクを取って攻め続けた。その姿勢はサッカーというスポーツの希望と言える。
【交代のカードが効果的でなかった】
なかでもヤマルは傑出していた。インテルのフェデリコ・ディマルコ、アレッサンドロ・バストーニ、ムヒタリアンの3人が包囲網を作ってきたが、魔法でも使ったように無力化。何度もシュートやパスで決定機を作った。左足でファーに巻く芸術的軌道のシュートを打ち、GKヤン・ゾマーのビッグセーブで止められた。しかし、リオネル・メッシを懐かしむ必要がないほどの突破力だ。
ペドリは連戦での疲れも出たが、サッカーIQの高さは際立った。キック&コントロールの技量が飛び抜けているだけでなく、守備でボールを突き出し、奪ったボールを迅速につなげ、判断や選択で違いを見せた。彼がボールを触ることで、落ち着いてボールを前に運べたし、決定機にもつながった。エリック・ガルシアの得点も彼を経由。その後、エリック・ガルシアがボレーを狙ったカウンター(これもGKゾマーがセーブ)も同じだ。
このふたりは間違いなく今シーズンの世界のベストイレブンに入るし、バロンドールの最有力候補だろう。
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一方、インテルも"彼らの正義"で対抗してきた。2トップの高さやパワーを軸にショートカウンターや単純なゴールキックがスイッチだった。延長戦の決勝点は象徴的で、GKのロングキックを、メフディ・タレミがフレンキー・デ・ヨングにヘディングで競り勝って、マルクス・テュラムがドリブルで奥まで運び、折り返しをタレミがポストに入り、落としたボールをフラッテージが叩き込んだ。
圧倒的に攻め続ける"正義"で挑んだバルサが、最後は刀折れ矢も尽きた格好か。
あえて敗因を探るなら、インテル戦は交代のカードが効果的ではなかった。ロベルト・レバンドフスキは故障明けで、試合をクローズさせるつもりの投入だったのだろうが、直後に失点し、延長で活躍を望むのは酷だった。ロナウド・アラウホはイニゴ・マルティネスと代わって入ったが、守備は不安定になった。フェルミン・ロペス、エクトル・フォルト、パウ・ビクトル、ガビも状況を好転させられていない。
【17人中10人が下部組織出身だった】
しかし、バルサは1980年代末にクラブ中興の祖であるヨハン・クライフ監督が植えつけた哲学「相手より1点多く取れば勝利」を高らかに証明した。一貫した攻撃サッカーを継承。下部組織ラ・マシアから理念を叩き込まれた選手が中心で、この日、ピッチに立った17人のうち、ヤマルを筆頭に10人がラ・マシア出身者だった。
「我々は勝利のためにプレーした。選手は家に帰って鏡に映る自分の姿を見て、誇りに思うだろう」
今シーズンからチームを率いるハンジ・フリック監督はそう語ったが、伝統の「自分たちがボールを持っていれば負けない」を、ハイプレス、ハイラインの術式に組み込んでいる。たとえ裏を突かれて失点を重ねても、ラインを下げることを許さなかった。失点以上に得点を重んじた結果、プレーモデルは完成度を増した。その危うさも含めた魅力がバルサの真実で、誇るべき敗者の姿だ。
「バルサを下すには"とびっきりのインテル"が必要だった」
インテルの指揮官シモーネ・インザーギはそう振り返っている。
5月11日、バルサはラ・リーガ第35節、2位レアル・マドリードと"クラシコ"で対決する。両者の勝ち点差は4。残り試合を考えれば、勝てば事実上の優勝が確定する。スペインスーパー杯、スペイン国王杯はそれぞれレアル・マドリードを退けて戴冠しているだけに、今シーズンの集大成となるはずだ。