
「めちゃくちゃ楽しかったです」
白い歯を見せてそう語ったのは、JR東海の4番打者・水谷祥平だ。
【学生時代に背負った重責と苦悩】
4月8日まで行なわれた社会人野球のJABA静岡大会で、14打数8安打(打率.571)、9打点と大活躍。特に昨年秋の日本選手権王者・トヨタ自動車との決勝では、圧巻のバッティングを披露した。
初回の第1打席でセンター前に先制打を放つと、2回の第2打席は犠牲フライ、4回の第3打席は三振に倒れたが、6回の第4打席はレフト前、8回の第5打席にもライト前にタイムリーを放ち、優勝に貢献。今年10月末に開催される日本選手権の出場権をもたらしただけでなく、自身も首位打者とMVPを獲得。
身長175センチと決して大柄ではないが、体重85キロの引き締まった体格はまるでラガーマンのようで、広角に力強い打球を飛ばす。
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JR東海の井上裕貴監督は水谷について、次のように語る。
「彼はファイター。向かっていく気持ち、なんとかしたいという気持ちを出せる熱いヤツなんです。高校(龍谷大平安)の後輩なので、時に厳しく指導することもありますが(笑)」
主将を務める7年目の吉田有輝も「芯が強く、迷いなく振り抜いている。必要な声を出せる選手なので、主将としても助かっています」と、水谷の野球に対する姿勢を称賛する。
学生時代は名門で主将、4番の重責を担った。龍谷大平安では2年夏と3年春に2季連続甲子園出場に貢献。東洋大では、細野晴希(日本ハム)や石上泰輝(DeNA)と同期で、3年春からレギュラーとして試合に出場するようになった。
だが、甲子園ではともに打率1割台と結果を残せず、大学4年時は春に1部昇格を果たすも、秋に2部降格と天国と地獄を味わった。
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さらに4年秋は、細野や石上とともにプロ志望届を提出するも指名漏れ。それでも「外野から大きな声を出すなど、早い段階からほしいと思っていました」という井上監督の誘いもあって、JR東海に入社。今年、大卒選手のドラフト指名解禁となる2年目を迎えている。
【悔しさを力に変えた意識改革】
プロへの思いについて尋ねると、「夢はありますが、考えたらよくないタイプなので、目先の試合に集中するようにしています」と苦笑い。大学4年時も、主将の重圧やプロ入りへの強い思いからか、春は打率.179(2部リーグ)、秋は.237(1部リーグ)と結果を残せなかったこともあって、慎重に言葉を選ぶ。
それでも前述のJABA静岡大会だけでなく、今季公式戦では多くの試合で安打を放っており、苦渋を味わった過去を払拭する活躍を見せている。
原動力となっているのは、悔しさを糧にした意識改革だ。昨年、チームは都市対抗出場を逃し、JR東海から11人が補強選手として東京ドームでプレーしたが、水谷は漏れた。主力の多くが抜けるなか、「オレ、ヘボやな」と猛練習に明け暮れたという。
また、「体が資本」と食事やトレーニングも改善。それまでは脂っこいメニューが好物だったが、東洋大時代に学んだ栄養講習を思い出し、チームのトレーナーに教わった定食屋で良質なタンパク質と米を意識して摂取。
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さらに腹圧を意識することで、スイングに力強さが増した。
春先の好調は、そうした努力の成果だ。それでも水谷に慢心はない。
「大学時代は気持ちが先走ったけど、今は情熱をたぎらせながらも頭は冷静に。グラウンドで、体が勝手に動くのが理想です。今年は都市対抗に絶対出たいんです!」
チームの4番としての自覚を胸に、日々練習に打ち込んでいる。ひと回りもふた回りも勝負強くなった「熱男」が、チームと自らの未来を切り拓くために躍動する姿は、きっと見る者の心をつかむだろう。