トランプ関税の二面性 特定国関税と特定品目関税の狙いと性質

0

2025年05月10日 19:40  まいどなニュース

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

まいどなニュース

トランプ氏/americanspirit(c)123RF.COM

アメリカのトランプ政権が推進する関税政策は、国際貿易に大きな波紋を広げている。特に、「相互関税」や特定国・特定品目に対する関税は、その狙いと性質において二面性を有している。本稿では、特定国関税と特定品目関税に分け、それぞれの目的と、政治性および経済合理性のどちらが強く表れているかを分析する。

【写真】トランプ政権下の半導体覇権競争 同調圧力避けられない日本

特定国関税は政治的メッセージと外交圧力

特定国関税は、特定の貿易相手国に対して課される関税であり、日本(24%)、中国(最大104%)、カナダ・メキシコ(25%)などが対象となっている。この関税の主要な狙いは、貿易赤字の削減と国内産業の保護である。特に、貿易赤字が大きい国や、不法移民や麻薬流入の原因とみなされる国に対して高い関税を課すことで、相手国に政策変更を迫る意図が明確である。例えば、中国に対しては、フェンタニル問題や知的財産権侵害を理由に高関税を課し、経済的圧力を通じて外交交渉を有利に進める戦略が見られる。

この関税は政治性が強く表れている。確かに、関税による輸入抑制は国内製造業の保護や雇用の維持に一定の効果をもたらす可能性がある。しかし、経済学的には、関税は消費者物価の上昇や報復関税による輸出減を招き、結果として国内経済にマイナス影響を与えることが多い。10%の相互関税が日本のGDPを0.35%押し下げ、米国のGDPも1.8%低下する可能性が指摘されている。トランプ政権がこうした経済的コストを承知の上で関税を課す背景には、国内の支持基盤であるブルーカラー層へのアピールや、国際舞台での強硬姿勢を誇示する政治的意図がある。特に、中間選挙や次期大統領選を見据えた「アメリカ第一主義」のメッセージは、関税政策を政治的ツールとして利用していることを示唆する。「中国の孤立化」を狙いの一つと語られたように、特定国関税は地政学的戦略の一環としても機能している。

特定品目関税は経済的再構築への布石

一方、特定品目関税は、鉄鋼・アルミニウム(25%)、自動車(25%)、半導体関連製品(一部除外)など、特定の産業や製品に焦点を当てた関税である。この関税の狙いは、戦略的産業の国内回帰とサプライチェーンの強化にある。トランプ政権は、グローバル化によって海外に流出した製造業を米国に戻すことで、経済安全保障を強化し、雇用創出を図ることを目指している。特に、鉄鋼や自動車は米国の産業基盤を支える象徴的な分野であり、これらの関税は国内生産の復活を後押しする意図を持つ。

特定品目関税は、特定国関税に比べ経済合理性が強く表れている。鉄鋼・アルミニウムへの関税は、過去に実施され、一定の国内生産増加をもたらした実績がある。また、自動車産業への関税は、米国内での生産拡大を促し、対日輸出の減少を緩和する可能性がある。自動車関税による日本のGDP押し下げ効果は0.4%程度とされているが、米国内では製造業の雇用増加が期待される。さらに、半導体関連製品を関税対象から除外する措置は、ハイテク産業のサプライチェーンを維持しつつ、経済安全保障を優先する戦略的判断を反映している。

しかし、特定品目関税にも政治的側面は存在する。自動車や鉄鋼は、ラストベルト地域の労働者層の支持を得るための象徴的なターゲットであり、関税政策は選挙戦術としても機能している。また、関税の対象品目や除外品目の選定には、米国内の業界団体や政治的圧力が影響を及ぼしている可能性があり、純粋な経済合理性だけでは説明できない部分もある。

二面性の交錯と今後の展望

特定国関税と特定品目関税は、それぞれ異なる目的と性質を持ちつつも、トランプ政権の「アメリカ第一主義」を体現する政策として相互に補完し合っている。特定国関税は外交圧力と政治的アピールに重点を置き、特定品目関税は産業保護と経済再構築を目指す。この二面性は、トランプ政権が短期的な政治的利益と長期的な経済的目標を同時に追求する複雑な戦略を反映している。

しかし、両関税の実施には課題も多い。特定国関税は、報復関税や国際貿易の縮小を招き、世界貿易が最大1.5%減少する可能性がある。また、特定品目関税は、消費者物価の上昇やグローバルサプライチェーンの混乱を引き起こすリスクを孕む。トランプ政権がこれらのリスクをどう管理し、関税政策を交渉のカードとして活用するかが、今後の国際経済の行方を左右するだろう。

結局、トランプ関税の二面性は、政治と経済のバランスを模索する試みである。特定国関税は政治的色彩が強く、特定品目関税は経済合理性を優先するが、両者は国内支持の維持と国際競争力の強化という共通の目標に向かっている。日本をはじめとする貿易相手国は、この二面性を踏まえ、戦略的な対応を迫られている。

◆和田大樹(わだ・だいじゅ)外交・安全保障研究者 株式会社 Strategic Intelligence 代表取締役 CEO、一般社団法人日本カウンターインテリジェンス協会理事、清和大学講師などを兼務。研究分野としては、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者である一方、実務家として海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。

動画・画像が表示されない場合はこちら

    ニュース設定