
【危機感が個々の結果につながっている】
「今年の創価大には警戒しないとですね」
関東インカレ(関東学生対校選手権、5月8日〜11日)の会場で、そういう声が各大学の選手の口から漏れてきた。
今大会、男子2部の創価大は多くの入賞者を出した。初日の10000mでスティーブン・ムチーニ(3年)が優勝、小池莉希(3年)が8位。最終日にはハーフマラソンで野沢悠真(4年)が2位、山口翔輝(2年)が3位、3000m障害でソロモン・ムトゥク(2年)が優勝、昨年の覇者・黒木陽向(4年)が2位で創価大初のワンツーフィニッシュを実現。さらに5000mではムチーニが優勝して2冠達成、小池が再び8位入賞、入賞には届かなかったが石丸惇那(4年)も9位。2部総合得点で計46点を記録し、同大学の最高得点を更新した。
「チーム内にある危機感が個々の結果につながっているのかなと思います」
榎木和貴監督はそう言った。
|
|
昨季のチームからは、出雲駅伝2区区間賞、全日本大学駅伝3区2位、箱根駅伝2区2位と大きな役割を果たしたエースの吉田響(サンべルクス)、さらにキャプテンの吉田凌(JR東日本)、駅伝で強さを見せた小暮栄輝(SUBARU)らの主力が卒業した。創価大は昨年の三大駅伝(出雲、全日本、箱根)で4位、4位、7位と安定した結果を出し、「3強」と言われた青山学院大、駒澤大、國學院大に迫ったが、特にゲームチェンジャーである吉田響の抜けた穴は大きい。
それゆえ今季は個々が結果を出し、チーム全体の駅伝力を上げていくことが不可欠になった。その先陣を切ったのが、初日の10000mで積極的な走りを見せた小池だった。4月の日本個人学生選手権の10000mでも、先頭に立ってレースをコントロールしながら進めていく走りがすばらしかったが(8位入賞)、今回も留学生がいるなか、積極性と粘りのあるレースを見せた。
「前に出て、積極的に行くのが自分のよさですし、それを見て、いいなって思ってもらえるような走りをするのが理想です。それができた部分もありますが、まだまだ中盤から後半にかけて足りないところがあります。日本人トップを狙っていたのですが、安島(莉玖)君(青山学院大2年)、黒田(然)君(青山学院大2年)、辻原(輝)君(國學院大3年)たち日本人に先行されているのでまだまだ未熟。でも、8位入賞したことで、チームに少し勢いをつけられたのかなと思います」
【「5強」と言われるのは嫌。俺らもいるんだぞ】
この小池の走りに引っ張られ、榎木監督の言う「危機感」を抱いた選手たちが結果を出していった。
3000m障害の黒木も「日本人トップ」を意識して走り、チームメイトのムトゥクに続いた。ハーフでは、野沢は優勝を目指して走り、山口も「失うものはない」と、駒澤大のキャプテン山川拓馬(4年)、主力の帰山侑大(4年)と互角に渡り合った。野沢は「勝ちきれなかったのはまだ力不足です。響さんが抜けた後、自分がエースとして認められる存在になっていくために、もっと力をつけたい」と、2位に満足している様子はまったくなかった。
|
|
5000mで入賞まであと一歩に終わった石丸の表情には、自身の結果も含めて満足感は微塵も見えなかった。
「自分は5000mだけの出場なので最低でも入賞を目標にしていたのですが、途中で打ち上がってしまって悔しいです。関東インカレ全体としては初日に小池がいい流れを作ってくれましたし、最終日も3000m障害で勝ち、ハーフで2位、3位になり、創価大の強さを見せることができたのかなと思います。今回、上位入賞が続いているのは、昨年は響さんがチームを引っ張ってくれましたが、今年はいないので、みんなが危機感を持っているのが大きいと思います。ただ、これで満足しては昨年以上の結果は残せないので、これからまだまだ強化していかないといけないと思います」
黒木も危機感を口にした。
「響さん、凌さん、小暮さんという強い選手が抜けて、今季は『箱根のシードも落ちるぞ』とも言われていましたし、監督からも『危機感を持って』と言われていました。今回、ハーフをはじめ各種目で結果を出してくれているので、創価としてはいい流れに乗ってきていると思います」
5000mと10000mの2種目で入賞した小池は、吉田響の後を継ぐ意識でいる。
|
|
「今のチームは、響さんみたいな絶対的なエースがいないので、自分がエースに絶対に成り上がるという一心でやっています。ただ、5000mも10000mも日本人選手に先行されているので、まだまだですけど、そういう気持ちでいないと響さんのような存在にはなれないと思うんです。それに今季は『5強』(青山学院大、駒澤大、國學院大、早稲田大、中央大)と言われていますけど、そう言われるのはすごく嫌で、『僕らもいるんだぞ』というのを見せたいんです。まだまだそうは言えないところもありますが、そういう意識を持っていくことが大事だと思います」
小池のような思いを、少なくとも関東インカレで走った選手たちは共有しているように見えた。そうした危機感を一部の選手だけではなく、全員で共有できるようになるとチームは一気に伸びていく。今回の結果は、そのきっかけになりそうだ。
【青学大の原監督も「創価、いいですね」】
榎木監督も結果には一定の評価をしている。
「ハーフでは、野沢が優勝を目指していましたし、山口はもう攻めるだけ攻めるという意識でいい走りをしてくれました。各大学のエースが不在だったので、そのことも考えて今回、勝っておかないといけないという思いで勝負にいったと思いますが、表彰台にふたり上がったのはよかったです。(3000m障害の)黒木は(日本人トップの)2位を死守してくれましたし、(5000mの)石丸は9位でしたが、最終学年でやらないといけない覚悟が走りに表れていたと思います」
この結果を生み出している原動力は、監督の言う危機感なのだろうか、
「やはり今季は響のような頼れる存在がいないので、自分たちが自分たちの力でチームを変えていかないと、目標の3大駅伝3位以内には絶対にたどり着かない。箱根もシードを落としてしまうかもしれない。そういう危機感があるので、各選手が自覚して、自発的に動いていますし、ハーフマラソンの展開のように駒澤大、國学院大という強豪校にしっかりと仕掛けていき、勝負することができているんだと思います」
トラックシーズン前半の節目となる関東インカレで結果が出たが、ここで満足するわけにはいかないという空気がチーム内にはある。
「今回は青山学院大も駒澤大もスーパーエースが不在でしたし、上位校と比較するとうちの選手層はまだまだ足りない。國学院大は各選手が1種目ずつエントリーしていますが、うちはスティーブンと小池のふたりが2種目走っています。しかも、相手の5番目、6番目の選手とうちのトップ選手が争っているので、もうひとつ上に強い選手がいるぞというのを踏まえて見ていかないといけない。ただ、そういうなかでも個々が結果を出してくれたのは、チームにとっては大きいですね。5強と言われているなか、蚊帳の外に置かれたくないので、自分たちの存在感を示すことは今回、多少はできたのかなと思います」
実際、青山学院大の原晋監督から「創価、いいですね」と声を掛けられたという。
「声をかけてもらえることはうれしいことです」
榎木監督はあくまで謙虚に語るが、その表情には5強に食い込めるレベルに来つつあるという自信と、「やってやろう」という強い野心があふれているように見えた。
「危機感」が個々の選手の内に浸透し、選手の走りからは「自分がやるんだ」という意識が読み取れた。意識と走力が高い次元で噛み合えば、これほど怖いことはない。今季、創価大の「伸びしろ」を他大学が警戒するのも当然だろう。