秋広優人・大江竜聖とリチャードの衝撃トレードに広岡達朗が「釣り合っていない」と語る理由

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2025年05月19日 07:30  webスポルティーバ

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 いつの時代も、トレードは大きな衝撃を伴うものだ。

 5月12日、巨人の秋広優人と大江竜聖が、ソフトバンクの砂川リチャードとの2対1のトレードが決まった。

 毎年のように「巨人の期待の若手」として注目され、直前まで一軍登録されていた秋広の放出に、球界関係者は一様に驚きを隠せなかった。

【コンタクト能力は秋広のほうが断然上】

 秋広はプロ3年目の2023年、121試合に出場して打率.273、41打点、10本塁打の成績を残し、一時はクリーンアップを任されるなど飛躍を見せた。規定打席にはわずかに届かなかったが、その潜在能力の高さは誰の目にも明らかだった。

 翌年、阿部慎之助監督が就任しさらなる飛躍が期待されたが、出場はわずか26試合にとどまり、打率.261、1打点、本塁打ゼロと低迷。今シーズンも開幕は二軍スタートとなり、5月2日に一軍昇格を果たすも7打数1安打と結果を残せなかった。

 一方、巨人に移籍したリチャードは、昨年まで5年連続してウエスタン・リーグで本塁打王を獲得した長距離砲だ。巨人に移籍して最初の試合(5月13日の広島戦)で「7番・三塁」でスタメン出場すると、2打席目でいきなり本塁打を放った。

 このトレードについて、球界の重鎮である広岡達朗は次のように語る。

「岡本和真がケガで離脱して、その穴を埋めるためにトレードでリチャードを獲得したのだと思うが、キャンプで見た限り、たしかにパワーはあるがまだバッティングが粗い。ホームランを30本打てたとしても、打率はせいぜい2割ちょっとしか残せないのではないか。そんな選手が岡本の代わりになるとは思えない。コンタクト能力なら秋広のほうが断然上。はっきり言って、このトレードは釣り合っていない」

 今回のトレードは巨人側から仕掛けたと言われており、長期離脱となった岡本の代わりとして"右の長距離砲"であるリチャードがほしかったのは明白だ。ソフトバンクとしても、規格外のパワーを持つリチャードを易々と手放したくない。そこで交換要員として名前が挙がったのが、トレード前日まで一軍登録され、ベンチ入りしていた秋広だったというわけだ。

 巨人にとって、左打者で一塁も外野も守れる秋広を放出するのは痛手だったはずだが、広岡はこれまでの起用法に疑問を呈す。

「そもそも秋広に『チャンスを与えた』と言うが、打てなければすぐに交代させ、代打や途中出場ばかり。それでは選手は育たない。私が監督をしていた頃は、期待する選手は最低でも10試合はスタメンで使い続けた。それでダメなら下に落とせばいい。阿部だけでなく、コーチ陣も育成の方法をしっかり考えてほしい。秋広を育てられなかったのに、リチャードを育てられるという根拠はどこにもない」

 秋広は2023年に"プチブレイク"したとはいえ、決して驕ることなく真面目に練習に取り組んでいた。ただ、外から見ると迷いながらプレーしているように見えたのは否めない。

 しかし、その才能は間違いなく一級品。広岡も彼の才能を認めるひとりだ。

「秋広は努力家で、いい男だ。2023年は構えを大谷翔平のように高く取っていたが、翌年から一転して構えを低くした。そのあたりから、打撃に迷いが生じてきたように見えた。打撃というのは、自分のタイミングで打てるフォームが一番よく、もっとも大事なことなんだ。秋広は手足が長く、遠心力を生かしてボールを飛ばす力を持っていた。原(辰徳/前監督)も、そういった秋広の特長を高く評価していた」

 だが阿部監督に代わってから、秋広は出番を減らした。阿部監督は二軍監督時代に秋広を指導しており、ある意味"師弟関係"にあった。広岡は次のように語る。

「彼は2メートルという、これまでに前例のない高身長の選手だ。その分、育成の難しさもあったかもしれない。ただ、それを言い訳にするのは違う。よく『監督の好みで一軍が決まる』と言われるが、今の時代にそんなことが通用するわけがない。阿部は本気で期待している選手に厳しく接するタイプだ。だが原から阿部に代わった途端、秋広の打撃が急に崩れたのは、いじりすぎた結果としか思えない」

 そうした技術的な部分のほかに、秋広は集合時間に遅刻したり、コーチよりも「師匠」と仰ぐ中田翔(中日)のアドバイスを優先したり、阿部監督からすれば目にあまる行動もあったのかもしれない。秋広の性格は "泰然自若"と言われる一方で、「何を言っても響かない」と評されることもある。

 プロとして、ある程度の頑固さは必要だが、聞くべきアドバイスとそうでない区別はつけなければならない。秋広はすべてを気にしなかったことで、誤解を招いた可能性はある。とはいえ、阿部監督が秋広を完全に見放したとは考えにくく、最後まで厳しく接しながらも期待していたことは間違いない。

「阿部は育ち盛りの選手を褒めない傾向がある。自分にはできたという自負があるのだろうが、それでは指揮官として不十分。選手の個性を見極めて、適材適所で育てていくのが指導者の役割だ。最初から何でもできる選手ばかりに目が向いてしまっては、成長途中の選手の心情は理解できないのではないか。特に大型野手は一人前になるまで時間がかかるのに、巨人はじっくり育てる体制が整っていない。それが毎年のように外国人補強やFAに頼る要因になっていると私の目には映る」

 球界に衝撃を与えた今回の巨人とソフトバンクのトレード。トレードで移籍する以上、選手たちは新天地でその才能を存分に発揮してもらいたい。お互いにとって、「いいトレードだった」と言える日が来ることを切に願う。

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