鈴木彩艶の「ボールを踏む技術」に進化の証 南雄太は「日本のGKの歴史を大きく変える」と絶賛

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2025年05月19日 18:10  webスポルティーバ

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【新連載】
南雄太「元日本代表GKが見た一流GKのすごさ」
第5回:鈴木彩艶(日本)

 圧倒的な強さで2026年ワールドカップ本大会の出場権を獲得した日本代表において、「不動の守護神」として君臨するのが22歳の鈴木彩艶だ。

 その実力はアジア最終予選でも証明済みで、アウェーのサウジアラビア戦で見せたビッグセーブなど、終始安定したパフォーマンスを披露。チームはここまでの8試合でわずか2失点という鉄壁の守備を誇るが、鈴木もそれに大きく貢献した。

 その鈴木が所属するクラブは、守備の国イタリアのトップディビジョンにあたるセリエAのパルマだ。

 当初は、日本のGKにとって極めてハードルの高いチャレンジと目された。しかしフタを開けてみれば、加入初年度にもかかわらず、開幕戦から正GKの座をキープ。レッドカードで出場停止となった第4節以外は、すべての試合で先発フル出場を果たしている(第37節終了時点)。

 驚くべき進化を遂げる鈴木を、果たしてスペシャリストはどのように見ているのか。現在、横浜FCフットボールアカデミーサッカースクールや流通経済大学付属柏高等学校で育成年代のGKコーチを務めながら、解説者としても活躍する南雄太氏にうかがった。

   ※   ※   ※   ※   ※

「もちろんこれまでの活躍ぶりは承知していますが、今回一つひとつのプレーを細かく見させてもらって、あらためて彼が『規格外のGK』であることがよくわかりました。そもそもセリエAのパルマでレギュラーとして活躍していることもそうですが、これから日本のGKの歴史を大きく変えていく選手であることは間違いないですね」

 開口一番、そのように称賛した南氏は、続いて鈴木の特徴と強みを解説してくれた。

「まず彼を語るうえで欠かせないのが、圧倒的なパワーです。これまでの日本のGKは、ヨーロッパや南米のGKに対して技術で対抗するしかなかった、という歴史がありました。しかし、鈴木には彼らと同等のパワーがあります。

 そのパワーというのは、プレーのいろいろな部分に表れています。たとえば、相手に逆を取られた瞬間に、逆足で地面を蹴ってシュートを防ぐシーンを見ても、その蹴り足に日本のGKとは別次元のパワーを感じます。

【日本のGKにはない圧倒的な強み】

 あるいは、ディフレクティング(手で弾くプレー)の強さもハンパないものがあります。普通なら弾き出せずに失点してしまいそうな強いシュートに対しても、しっかりボールを弾き出すことができる。だから、シュートに力負けして失点してしまうシーンはほとんど見かけません。これも、鈴木のパワーを証明するプレーのひとつです。

 もっとわかりやすいのは、キックですね。鈴木のキックは、わずかワンステップでものすごい飛距離のボールを蹴ることができますが、それもパワーがあるからこそ。

 GKにとって、背中、お尻、ハムストリングといった体の後ろの部分はとても重要です。その部分において、鈴木にはこれまでの日本のGKにはない圧倒的な強みがあります。

 しかも、これだけの体格の持ち主でありながら、アジリティも高く、スピードもある。そういう意味でも、日本サッカー史上、初めて登場したレベルのGKだと思います」

 地元クラブである浦和レッズを巣立ったのは、わずか2年前の夏。その後、ベルギーのシント・トロイデンで正GKとして活躍すると、昨夏にはセリエAに昇格したパルマにステップアップ移籍を果たし、すぐに正GKの座を獲得。

 鈴木は驚きのペースで成長を遂げている。そのプレーのなかで南氏が指摘してくれたのが、ビルドアップ時のテクニックだった。

「レッズでプレーしていた頃からビルドアップは上手でしたが、現在の鈴木はビルドアップ時にボールを踏む技術を習得しています。細かいことですが、それも鈴木の進化のひとつだと思います。

 ビルドアップが上手なGKは、ボールを足裏で踏んで、1度で蹴りたい場所にボールを動かしてキックするプレーをよく見かけます。GKが一歩でキックできるところにボールを置いていると、相手はGKにプレスを仕掛けられないからです。

 逆に、ビルドアップを苦手とするGKでよく見られるのが、ボールを体の正面に止めて、キックする時は、ボールではなく、自分の体をどちらかに動かしてからキックするケースです。これだと蹴るまでに時間がかかって隙が生まれるので、相手はプレスしやすくなります。

【いずれはプレミアリーグの正GKへ】

 これは僕も指導する時によく言うことですが、GKは一歩でキックできるところにボールを置き続けられるかが重要なポイントになる。そのためには『ボールを踏む』という技術を身につけるのが合理的だと考えます。

 パルマでの鈴木のプレーを見てみると、その技術をセリエAの舞台でも使っていました。一歩でボールを動かし、あれだけ飛距離のフィードを繰り出せるのは、現代サッカーのGKには大きなストロングになるでしょう」

 一つひとつのプレーから成長を確認したという南氏は、今後の鈴木にどのような未来を感じているのだろうか。

「たしかに以前の鈴木には、苦手としていると思われるプレーもありました。たとえばアジアカップの時は、身体能力が高いがゆえに繊細なステップを踏めなかったというか、ステップが合わなくて弾けなかったシュートもありました。

 でも、現在の鈴木を見ていると、そういった細かい部分もしっかり改善されています。この体格でこれだけのステップが踏めるのなら、まさに『鬼に金棒』でしょう。とにかくイタリアに行ったことで、いろいろな部分がよくなったことは間違いないですね。

 しかも、まだ年齢は22歳です。22歳でセリエAの正GKということは、このまま順調に成長してくれれば、30歳になった頃にはどのレベルのGKになっているのか。もはや想像もできないくらいです。きっと、これからいろいろな経験を積むことによって、誰も追いつけないくらいのGKに成長してくれる気がします。

 だから鈴木には、期待と楽しみしか感じません。ぜひ彼には日本のGKのパイオニアとして、いずれはプレミアリーグのクラブの正GKとして活躍してほしいですね。それによって、日本のGKに対する世界のイメージが変わるはずです」

 今夏もステップアップ移籍の噂が絶えない鈴木は、これからどのようなキャリアを歩んでいくのか。鈴木の今後に注目したい。

(第6回につづく)


【profile】
南雄太(みなみ・ゆうた)
1979年9月30日生まれ、東京都杉並区出身。静岡学園時代に高校選手権で優勝し、1998年に柏レイソルへ加入。柏の守護神として長年ゴールを守り続け、2010年以降はロアッソ熊本→横浜FC→大宮アルディージャと渡り歩いて2023年に現役を引退。1997年と1999年のワールドユースに出場し、2001年にはA代表にも選出。現在は解説業のかたわら、横浜FCのサッカースクールや流通経済大柏高、FCグラシオン東葛でGKコーチを務めている。ポジション=GK。身長185cm。

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