NTTドコモはアスラテック、ピクシーダストテクノロジーズ、ユカイ工学と共同で、6G時代に向けた3タイプのコンセプトロボットを開発した。AIの能力を最大限に引き出す「AIのためのネットワーク」をテーマに、2030年代の社会を見据えたコンセプトモデルとなる。
●6Gとロボットの新しい関係
ドコモは将来の6Gの価値を「サステナビリティ」「効率化」「顧客体験」「AIのためのネットワーク」「コネクティビティエブリウェア」の5つの柱として定義する。
これらの価値のうち「AIのためのネットワーク」を具体化するためのプロジェクト「6G Harmonized Intelligence」を発足させた。このプロジェクトは、機械・ロボット・AIがその性能を最大限発揮できるネットワークサービスの実現を目指すものだ。今回、3つのパートナーと共同開発した、3種類のコンセプトロボットを発表した。
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3つのロボットは、2030年代に想定される6Gの特徴である高速大容量通信や広いカバレッジエリアを生かした設計となっている。
●「ハーモナイズドセンサレスロボット」(アスラテック)
アスラテックとドコモが共同開発した「ハーモナイズドセンサレスロボット」は、従来のロボット開発における常識を覆す試みだ。一般的なロボットは内部にカメラやセンサーなどを搭載しているが、このモデルではあえてそれらを省略し、ロボット外部に設置したセンサーやカメラからの情報を6G通信で受け取って動作する。
ロボット自体をシンプルに保ちながら、複雑な処理は外部のクラウドやエッジサーバに任せるという設計思想だ。ロボットの低コスト化だけでなく、機能更新や拡張が柔軟に行えることがメリットとなる。例えば、センサー技術が進化した場合、ロボット本体を交換せずに外部センサーのみを最新のものに更新できる。
本プロジェクトでは、この概念を検証するため、横須賀市のマスコットキャラクター「スカリン」を模したバルーン型ロボットを製作。外見はシンプルながらも、6Gの高速・大容量の特性を活用することで、周囲の環境を認識して自律的に動作する能力を持たせている。
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このロボットの場合、具体的な6G要件として、カメラやセンサーからの膨大なデータをリアルタイムで処理するための「高速大容量通信」と、ロボットの動作指示にタイムラグを生じさせない「高信頼低遅延通信」が重要となる。現行の5Gでは、特に複数のセンサーからの多量のデータを同時に処理する場合、容量と遅延の面で限界があるという。
●自律共生ロボット「DENDEN」(ユカイ工学)
「DENDEN」は、ユカイ工学とドコモにより共同開発された小型の車輪付きロボット。洗練されたミニマルデザインが印象的なロボットだ。
このロボットは6Gの「コネクティビティエブリウェア(どこでもつながるネットワーク)」の価値を具現化している。都市部だけでなく人がいないか少ない山間部で自律的に活動できるロボットとなっている。
また、長時間の自律稼働を可能にする低消費電力技術や、多数のロボットが同時に通信を行うための多接続技術、通信の途絶を防ぐ高信頼性通信技術など、6Gの複数の特徴を組み合わせた実験モデルとなっている。
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●落合陽一氏が描く未来のUI「コンポーザーとグルーバー」
そして3つ目のロボットが、メディアクリエイターの落合陽一氏が率いるピクシーダストテクノロジーズとドコモが共同開発した「コンポーザーとグルーバー」だ。説明会では落合氏が登壇し、その機能とコンセプトについて解説した。
このデバイスは「AIが何でもやってくれる時代に、人間はどのようにAIと協働するか」という問いかけから出発している。
このロボットは、「ダイレクトマニュピュレーション(直接操作)」と「エージェント」という2種類のUI(ユーザーインタフェース)を盛り込んでいる。ダイレクトマニュピュレーションとはスマホのマルチタッチのように、ユーザーが意識的に指示するUIのこと。エージェントとはAIが応答するときのように、ユーザーがざっくりとした指示を伝えてコンピュータ側で解釈するUIのことだ。
「コンポーザー」は「ホワイトボードであり、対話型AIであり、思考ログである」という複合的インタフェースだ。ユーザーが考えを話すと、AIがリアルタイムでそれを文字起こしし、関連画像を生成し、参考情報を提示する。落合氏が「スケッチブックに書き込むより先に知識ができて、先回りしてきた知識を見ながら考えが広がる」と説明するように、思考プロセスを拡張するデバイスとして機能する。
一方の「グルーバー」は猫型の身体を持ったコンパニオンロボットだ。身体性を持ち、予測不能な動きで「予想外のアイデア」を誘発する。落合氏は「身体を持った対象は話しかけやすい」と説明し、スマートフォンとは異なる話し相手としての価値を強調した。
これら2つは単独ではなく「相互に行き来」しながら使われる設計で、デジタルと物理世界の対話が融合し創造的思考を生み出す。落合氏は実際に使用して「10〜20分でブレストがまとまる」と評価した。
こうしたインタフェースの実現には6Gが不可欠だという。落合氏は「秒間20フレームで画像を生成している」と説明。これは映画(24fps)やテレビ(30fps)に匹敵する速度で、通常のAI画像生成システムが1枚の高品質画像に数秒から数十秒を要することを考えると、驚異的な処理速度が求められる。
さらに画像生成だけでなく「言葉のベクトルをリアルタイムで計算」「音声の文字起こし」「AIの発話」「リアルタイム検索」など複数の高負荷処理が同時進行するため、「今の携帯回線では速度が足りず、遅延がある」と指摘。永田氏も「学習推論処理は今のAIではリアルタイム性が不足している」と補足し、6Gの高速大容量・低遅延特性の重要性を強調した。
落合氏は「将来働く人はダイレクトマニピュレーションとエージェントを両方使い、大容量低遅延ネットワークでコミュニケーションしながら仕事するようになる」と予測。このUIの進化が知的生産と創造活動を変える可能性があると示唆した。
●ワイヤレスジャパン×ワイヤレス・テクノロジー・パーク2025に出展も
これらのコンセプトロボットは、2025年5月28日から開催される「ワイヤレスジャパン×ワイヤレス・テクノロジー・パーク2025」に出展される予定だ。日本最大級の無線通信の専門展示会で公開することで、「AIのためのネットワーク」のビジョンを広く共有する。
4社は「6G Harmonized Intelligence」プロジェクトを本格的に推進していく。会見ではの岩科滋氏(NTTドコモ R&Dイノベーション本部 6Gテック部コーポレートエバンジェリスト)は「6Gのユースケースのモデルコンセプトの提案」を進める意向を示した。
同部 無線標準化担当部長の永田聡氏も「こういったところから6Gの要求条件を洗い出していく」と具体的な計画を述べた。これらのコンセプトロボットは、将来の6G規格を策定するためのユースケース検討の土台として活用される。
国際的な6G標準化は2026年を含めた数年間で進めていく予定で、ドコモが2020年1月に発表した「6Gホワイトペーパー」で示したビジョンの具体化が進んでいる。永田氏によれば、現在ITUでは1ミリ秒程度の遅延性など、具体的な数値が提案されているものの、まだ確定には至っていない。
ドコモは2030年頃の6Gサービス実現を目指しており、国内外の通信事業者、ベンダー、そして今回のような異業種パートナーとの連携を進めている。AIやロボットの専門企業との協業は、6Gネットワークの新たな価値創造に向けた取り組みの一環となる。
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