新型コロナパンデミックの「その先」にあるもの〜ハノーファー(前編)【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】

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2025年05月20日 09:10  週プレNEWS

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ハノーファーに到着早々に食べた、「シュバイネハクセ(Schweinshaxe)」という豚脚のロースト。すごい食べ応えで大満足だったのだが、その後にまさか、そのような形で苦労することになるとは……(その真相は、109話の「中編」で)


連載【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】第108話

研究集会に出席するため、ドイツのハノーファーへ。そこでは同窓会さながら、顔なじみの研究者たちとの再会が待っていた。

【写真】研究者との再会

* * *

■帰国から4日後、ふたたびヨーロッパへ

2024年4月上旬。アラブ首長国連邦(UAE、106話)から帰国して4日後。ふたたびフランクフルト行きの、14時間の長距離フライトである。なんだかここのところ、『水曜どうでしょう』のキングオブ深夜バスさながらに、ひたすらに長距離フライトを続けている気がする。

束の間の東京。目黒川や白金台の桜は5分咲きから8分咲きといったところで、桜を眺めることができたことはよかったものの、その間はずっと花曇りで、ずっとぼんやりした気分のまま、時差ぼけを治そうともしないままに過ごした。「束の間」ではあれど、ラボで過ごす時間は、学生やポスドク(博士研究員)たちとのミーティングにほとんどの時間を費やした。

いつの間にか新年度が始まったこともあり、ラボメンバーほぼ全員を集めて、ラボのコンセプトの全体像やビジョンを共有する時間を作ったりもした。

私のラボも気づけば創立7年目。私のラボの成長過程については33話で紹介したことがあるが、気がつけばラボメンバーは総勢33人(2024年4月時点)、ポスドクはなんと11人というビッグラボに成長している。

■キーストン・シンポジウム in ハノーファー

今回の旅の最初の目的地は、ドイツのハノーファー。ハノーファーはドイツの北部にあり、ベルリンの西、ハンブルクの南に位置する。ドイツにはこれまで、フランクフルトを玄関口として、ウルムやデュッセルドルフ、ケルンなどのドイツ南部の都市にしか訪れたことがない。そんな私にとって、初めてのドイツ北部である。

今回はハノーファーで開催される、「キーストン・シンポジウム(Keystone Symposium)」に招待されての出張である。

この会議は、この連載コラムにも登場したことのある面々がオーガナイザーを務めていた。

コア・オーガナイザーは、アメリカ・グラッドストーン研究所(京都大学iPS細胞研究所の前所長の山中伸弥先生が兼任されている研究所としても有名)のメラニー・オットー(Melanie Ott)。

メラニーとは、2022年に南アフリカで開催されたワークショップ(15話)で初めて会った。気さくに話せるおばさんで、南アフリカの会期中には気軽にいろいろな話をした。

南アフリカからの帰国後、「結局、あのおばさんはいったい誰やったんや」と、彼女の名前でぐぐってみる。するとなんと彼女は、グラッドストーン研究所(ちなみにこの研究所は、いろいろなカテゴリーの研究所の「集合体」なので、英語表記だと「Gladstone Institute"s"」と複数形になっている)の中のウイルス研究所の所長で、目玉が飛び出たのを覚えている。

幸いにして、これをきっかけに彼女とは仲良くなり、いろいろな折に連絡を取るようになるようになった。2023年には、軽井沢で開催された国際学会に招待したりもした(ちなみに14話のサムネイル画像は、その時の集合写真)。

メラニーに加えて、フランス・パスツール研究所の旧知のオリヴィエ(Olivier Schwartz。40話、51話など)や、南アフリカ・アフリカ健康研究所のアレックス・シガル教授(Alex Sigal。15話で初対面)らも、オーガナイザーとして名前を連ねている。要は彼らが私に、招待演者のひとりとして声をかけてくれた、というわけである。

研究集会は基本的に、テーマありきで開催されるものである。しかし、この集会のテーマは、「HIVと新興(再興)ウイルス:いくつかのパンデミックから学ぶべきこと(筆者訳。原題は『HIV and (Re)Emerging Viruses: Aligning Lessons Across Pandemics』)」という、ちょっとよくわからないコンセプトのものだった。

しかしそれでも、学ぶべきことが多い、尊敬する先人・知人たちが主催する集会である。新型コロナのことについての講演依頼であったし、なにかを学べることがあることは間違いない。このせっかくの誘いを断る理由は特になかった。

■アメリカの皆既日蝕で思い出したこと

この季節になると、ヨーロッパは日が頓(とみ)に長くなる。20時を過ぎてもまだ明るいままで、なかなか日が暮れない。

ハノーファーに到着した日はちょうど、アメリカが皆既日蝕で賑わう日と重なっていた。そしてちょうどうまいことにアメリカとの時差が重なって、就寝時にテレビをつけると、CNNはもっぱらこの話題ばかりを放送していた。

皆既日蝕はたしか、日本でも割と最近にあったはずだし、そんなに騒ぐほどのことだろうか? そう思ってググってみると、たしかに日本では、2009年の7月に皆既日蝕が見られていた。

――そうだ。当時の私は、京都大学ウイルス研究所の大学院生だった。日蝕の瞬間、ウエスタンプロッティングに使うフィルムを持ち出して、ラボのあるフロアの廊下のつきあたりにあるベランダで、日蝕を見ようとした。その瞬間には辺りが夕方のように薄暗くなり、ひんやりとした空気になったことを思い出した。

■同窓会さながら、けれど......

この国際会議は、オーガナイザーが知己なだけではなく、この連載コラムにもよく登場する、イギリス・ケンブリッジ大学教授のラヴィ(Ravindra Gupta。15話、17話、56話、86話に登場)も、招待演者として名前を連ねていた。

研究集会の前には、その集会の参加者や演者、演題が記載されている資料が配られることが常である。最近は紙媒体ではなく、オンラインで、PDFやウェブ形式で配布・公開されることが多い。

これは自慢できる話ではないが、私はそういうところはかなり怠慢であるので、そのような資料に事前に詳しく目を通すことはほとんどない。そうするとどういうことが起きるかというと、知人・友人が参加しているのに、それを事前に把握しておらず、会場でばったりと再会し、「あれ? お前参加してたんか」ということになる。

この研究集会には、私の古くからの友人のひとりである、アメリカ・国立衛生研究所(NIH)のアレックス・コンプトン(Alex Compton。62話、89話に登場。ちなみに、13話のサムネイル画像に写っているのが彼)や、ついこないだ、オーストリアのウィーンで開催されたドイツウイルス学会で再会したばかりの、オヤ・ジンギョズ(Oya Cingöz。99話)も参加していた。

この連載コラムでよく話題にする、アメリカ・ニューヨーク州のコールドスプリングハーバーで開催される研究集会(52話など)で顔を合わせていた面々との同窓会さながらである。

この集会で面白かったことのひとつは、エイズウイルスの研究をしている人たちと、エイズウイルスの研究からから新型コロナの研究に転身した人たちのミクスチャーだったことにある。

メラニーやラヴィ、アレックスやオヤという、私と同様にエイズウイルス研究をルーツに持つ面々だけではなく、そのほかにも、2022年の南アフリカの会議(15話)で会った面々や、2023年にサンフランシスコで会った人たち(63話)も参加していた。

それに加えて、ほかのウイルスの研究をしている面々も顔を揃えていた。たとえば、インフルエンザウイルスの研究からは、南アフリカや日本で顔を合わせたことがある、イギリス・インペリアルカレッジロンドンのウェンディ・バークレー(Wendy Barclay。7話、15話に登場)も、招待演者のひとりとして名前を連ねていた。

そんな知り合いばかりの集会に居心地の良さを感じてはいたが、この集会に参加している日本人、あるいは日本からの参加者は、私ひとりであることにはたと気がついた。

※5月21日配信の中編に続く

文・写真/佐藤 佳

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