
西武・渡部聖弥インタビュー(後編)
前編:西武・渡部聖弥のルーキーとは思えない「バッティング哲学」はこちら>>
今季のパ・リーグは、宗山塁(楽天)や麦谷祐介(オリックス)、西川史礁(ロッテ)など大卒ルーキーの活躍が目立っているが、そのなかで最も好成績を残しているのが、西武の渡部聖弥だ。なぜ、プロ1年目からトップクラスの活躍ができているのか。その土台にある思考法、言語化能力に迫った。
【目標は日本の4番】
── 昨年12月、渡部選手は西武の新入団選手発表会で色紙に「日本の4番」と目標を書きました。
渡部 自分はけっこう負けず嫌いな性格で、何事も1位になりたい。野球をするうえで、一番打つ選手になりたいですし、チームで一番頼られるバッターでいたい。日本代表で4番を任されるということは、日本で一番信頼できるバッターというイメージなので、常にそうなりたいと思ってやっています。
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── 入寮する際、実家の広島から車で2泊3日、10時間以上かけて運転してきたことも話題になりました。ハンドルを握りながら、どんなことを考えていたのですか。
渡部 ワクワクしていましたね。「このピッチャーってどんな感じなんだろうか?」とか、「外崎(修汰)さんってどういうバッティングするんだろうな?」とか......そんなことをイメージしていました。
── あっという間に着いた感じですか?
渡部 運転することは、まったく苦ではありません。音楽を聴きながらふつうに運転していたら、「あっ、もう着いた」みたいな感じでした。
── ふだん渡部選手を見ていて感じるのが、とにかく思考が前向きだなと。
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渡部 いろんな人と出会うなかで、自分もそうありたいと思うようになりました。たとえば、首位打者を獲って「よっしゃ!」みたいな感じでも、次のシーズンになったら同じように打てるのか、打てないかはわからないじゃないですか。
それより自分でよかったところをしっかり評価して、ダメなところもしっかり向き合ったほうが、自然と結果は出ると思うので。そういった考えを持つことによって、常にレベルアップできるんじゃないかと。
── 原点は広陵高校時代ですか?
渡部 高校の時から謙虚でありたいと思っていました。広陵の中井(哲之)先生は「野球ができる人が偉いわけじゃない」という、人間性を重視する方です。野球でどれだけ活躍しても、しっかり反省できる人間力や考え方が大事だと教わった気がします。
── 渡部選手を取材していて、言語化する能力の高さを感じます。西武の人材開発の担当者もそう話していました。思考を表現する力は昔から高かったのですか。
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渡部 大学に入ってからいろいろ考えたり、自己啓発的な本を読んだりするようになりました。考え方ってめちゃくちゃ人間を左右するというか、プラスにもマイナスにもなるので、すごく大事だなと思いました。
── 影響を受けた本は?
渡部 『エフォートレス思考 努力を最小化して成果を最大化する』という本です。表紙には一本のシンプルな矢印と、線がぐちゃぐちゃの矢印が描かれているんですけど、要はどのようにしてゴールにたどり着くかと。たとえば、試合で打てなかったら、終わったあとに「練習しないといけない」ってなりやすいじゃないですか。
── そうですね。
渡部 でも状況や疲労や課題を考えた時に、今からマシンを打つことが正しいのかどうか。あるいは何がベストなのか。しっかり分析してやっていかないと、逆に遠回りになってしまうよ、という本なんです。それが思考のすべてになっているわけじゃないですが、しっかり自分を分析することでやるべきことが明確になります。
【同級生の活躍は刺激になる】
── 開幕してから1カ月以上経ちました。ここまではあっという間でしたか。
渡部 振り返っていればあっという間だったんですけど、途中ケガで登録抹消期間があって、特にその期間は長かったですね。
── 4月12日の日本ハム戦で右足首を痛め、25日に再登録されるまで9試合の欠場。どんな気持ちでしたか。
渡部 やっぱり悔しさがありました。治りもけっこう早かったのですが、焦る気持ちがあって、もしかしたら抹消されなくても大丈夫だったんじゃないかと思ったこともありました。ブランクというか、試合感覚がなくなることが不安なんです。実際、打席に立った時にギャップを感じるのかなと。
── 4月25日のオリックス戦で復帰し、1打席目にいきなりヒット。打席に立ってみたら、ギャップはなかったですか?
渡部 1球目はちょっとありました。久しぶりだなって思って、当てにいったバッティングなってしまいました。その次のボールはしっかり振ることができたんですけど。
── その日から4試合連続マルチ安打。たとえばバッティングで、「これができている時は大丈夫」というバロメータみたいなものはありますか。
渡部 逆方向に長打が出る時は、バットの軌道的にすごくいい状態です。あとは真っすぐを狙っていて、変化球が来た時に体が反応してしっかり振れる時は、「今日はいい感じだな」というか、「反応できているな」というのはあります。
── パ・リーグでは同級生の楽天の宗山塁選手、オリックスの麦谷祐介選手、ロッテの西川史礁選手が活躍していますが、刺激になりますか。
渡部 やっぱり刺激になります。誰が「打点を稼いだ」とか、「打率いくつ」とか聞いたら、負けてられないなと思いますね。
【対戦してすごかった投手は?】
── 今まで対戦したなかですごかったピッチャーは?
渡部 変化球でいうと、ソフトバンクのリバン・モイネロ投手です。とにかく、カーブの曲がり幅が大きい。左投手であそこまでカーブの曲がるピッチャーは、なかなかいなかったです。
── モイネロ投手のカーブは、イメージしていたのとは違いましたか。
渡部 もうちょっと遅い感じのカーブをイメージしていたら、スピンが効いていて球速もある。5回のグラウンド整備の時、ロッカールームでそれまでの打席の動画を見て研究しました。
── 第1打席は、5球目に150キロの外角高めのストレートを打ってライトフライでした。
渡部 映像で見ると、逆球だったんです。キャッチャーはインコースに構えているのですが、逆球になって外に来たのを打って。2球目にファウルにしたボールも、インコースに構えていました。
── 第2打席は、2球目の内角スライダーをサードゴロ併殺でした。
渡部 初球はインコース真っすぐに構えていたのですが、吹けてボールに。それで2球目の内角へのスライダーを打ったのですが、キャッチャーの要求はインコースでした。なので、僕に対してはインコースで攻めたいのだなと。ただ、第3打席はそれが頭にありすぎて......。
── そして第3打席は7回、この試合での最終打席となりました。
渡部 最後の打席だし、バッテリーからすればインコースを見せておくことで、翌日の試合にも生きてくるんじゃないかと。インコースで体を起こされると、外へのアプローチが悪くなる。意識させるためにも、何球かインコースを見せてくるかなって深読みしすぎたんです。
── あの打席は、全6球のうちカーブが4球でした。
渡部 2球目のカーブは狙っていなかったので見逃しました。4球目に追い込まれたカーブは、本来なら狙っていなくてもファウルにできる球でしたが、スピンがしっかりかかっていて、想像以上に落差があったので見逃しました。最後三振した球は、それまでインコースにカーブが来てないことが頭にあって......それで振ってしまいました。
── 「全打席で収穫がないと成長できない」と言っていましたが、レベルの高いプロの投手と対戦することで成長できている実感はありますか。
渡部 先程のモイネロ投手との対戦は、インコースを意識しすぎて、こうなったという失敗談です。逆に、もしインコースを意識していない状態だったら、どういう対応ができたのか。結果はわからないですけど、いろいろ考えることで、完成形に近づいてくるんじゃないかと。ただ、ちょっと打てなくなると、深読みしすぎるというか、さっき話した本じゃないですけど、思考が"ぐちゃぐちゃ"になってしまうことがあります。
── 思考が遠回りになってしまう?
渡部 やっぱり、頭で考えすぎると手が出なくなったり、動きづらくなることがあるので、もっとフラットな状態で打席に立ちたい時もあります。
── シーズン前、2025年の目標について「開幕スタメンと打率3割」を掲げていました。前者はすでに達成されましたが、後者は達成できそうですか。
渡部 目指せる可能性はあると思います。ですけど、率を気にしちゃうとよくないので......。最後5試合くらいになったら、「打率、どれくらいかな?」と気にします。打率は変動するじゃないですか。それよりもヒット数やホームラン、長打数とか増えていくものをしっかり積み重ねていきたいですね。
渡部聖弥(わたなべ・せいや)/2002年8月31日生まれ。広島県出身。広陵高から大阪商業大に進み、1年春からレギュラーとして出場。2年秋にはリーグ新記録となるシーズン5本塁打をマーク。4年秋には首位打者とMVPを獲得。同年ドラフトで西武から2位で指名され入団。開幕スタメンを果たすなど、1年目からチームの中心選手として活躍中。