
プレミアリーグ最終節。8位のブライトンは4日前にヨーロッパリーグ王者に輝いたトッテナムとアウェーで対戦した。
立ち上がりから押し気味に試合を進めたのはブライトン。しかし前半17分にPKを献上、0−1のスコアで後半を迎えた。
三笘薫はそのタイミング投入された。シモン・アディングラ(コートジボワール代表)に代わり、いつものように左ウイングに座った。すると1分と経たぬうちにスパーズ(トッテナム)の右SBと対峙する機会が訪れた。三笘はペドロ・ポロ(元スペイン代表)を見据えるや縦突破を敢行。最深部から鋭角に折り返しを決めた。さらにその2分後にも大外をドリブルで疾走。ふたりをかわし同様に折り返しを図っている。挨拶代わりと言わんばかりのプレーでスタンドを沈黙させた。
三笘の交代出場はこれが3試合連続だ。それ以前の第35節のニューカッスル戦は欠場したが、三笘にとっては第33節のブレントフォード戦、第34節のウエストハム戦も途中出場だった。
今季、第31節のクリスタルパレス戦まではすべての試合に出場した。そのうち28試合はスタメンだった。驚くのはフル出場の割合だ。そのうちの半分にあたる14試合で三笘は「完投」している。
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アタッカーがフル出場する機会は選手交代5人制が導入されてから激減した。後半30分あたりがベンチに下がるタイミングになっている。そうした意味で三笘は貴重な存在だ。なぜベンチは最後までピッチに残そうとするのか、そこにはいくつか理由があった。
スパーズ戦では、先述のプレーを皮切りに、三笘の足下には幾度となくボールが集まった。縦突破をいきなり2回決められたことで、相手の右SBポロは蛇に睨まれたカエルと化した。ブライトンの攻勢はそのたびに鮮明となった。
すると三笘は、今度は周りを使った。コンビネーションを図りながら局面の打開を図ろうとした。三笘を軸にパスが回る様は、いわゆる中盤がサイドにあるような印象だった。ゲームを作るのは真ん中で、サイドで構えるウイングは使われる側。これがサッカーにおける一般的な概念だが、三笘投入後のブライトンは左ウイングを軸にパスが回った。
【単なるウインガーではない】
三笘は前節のリバプール戦で今季10ゴールを決めた。ウイング兼ストライカーぶりを発揮したことになるが、その10点目のシーンではゲームメーカー色も発揮していた。三笘自身が出したスルーパスをダニー・ウェルベック(元イングランド代表)がシュート。GKがセーブした跳ね返りをパス&ゴーで中央に入った三笘が鮮やかに決めたというシーンだが、この三笘の動きを要約すればウイング兼ストライカー兼ゲームメーカーだった。
ウイングであるがゲームメーカー的。大外に位置するにもかかわらず中盤的。三笘がボールを受けるとブライトンのサッカーは安定する。ベンチが三笘を長い時間ピッチに立たせておきたい大きな理由のひとつだろう。
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スパーズ戦、ブライトンが1−1に追いついたのは後半6分で、得点者はジャック・ヒンシェルウッド(元U−19イングランド代表)だった。ブラヤン・グルダ(U−21ドイツ代表)の蹴ったCKをアダム・ウェブスター(元U−21イングランド代表)が頭で落とし、そのボールに反応して生まれた同点弾だったが、コンビネーションプレーからCKをゲットしたのは三笘だった。
この同点弾を皮切りに、ブライトンは後半19分に逆転ゴールを奪うと、43分、48分(アディショナルタイム)にも加点。4−1でアウェー戦をものにしたが、すべてのゴールは三笘が入ってから生まれたものだ。勝因は三笘の投入にありといっても大袈裟ではない。
ディエゴ・ゴメス(パラグアイ代表)が決めた4点目のゴールでは三笘にアシストがついている。最終ラインのヤン・ポール・ファンヘッケのロングフィードを三笘が左の深い位置でナイストラップ。ボールを収めると、そこを起点にパスが回った。三笘はその5本目のパスを再び受けると、6本目のパスを中央寄りで構えるディエゴ・ゴメスに送った。
直後にディエゴ・ゴメスがミドルシュートを決めたのだが、三笘を軸にまさに左サイドで"作った"ゴールだった。
後半13分には単独ドリブルでふたりをかわす見せ場も作ったが、特にこの日の三笘は周囲とよく絡んでいた。単なるウインガーでないことを、この最終戦であらためて証明した格好だ。
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悪い流れになると、ウイングはプレーが単調になりがちだ。空回りしがちなのだが、プレーの選択肢が豊富な三笘はその傾向に陥りにくい。これもベンチがピッチに長い時間立たせておきたくなる理由だろう。
その一方で、この日がそうであるように、三笘は出場時間が短くても活躍する。交代出場した直近の5試合で3ゴールを決めている。試合の流れに乗れずに終わってしまうことはない。交代選手としての魅力を確実に発揮することができる。機転を利かせたプレーもできる。
プレーの幅の広がりを実感することができた三笘の2024−25シーズンだった。来季どこでプレーすることになるのかは定かではないが、どのクラブに行っても、どんな立場でプレーしても、うまくやっていけそうな選手に成長した、と見る。できればチャンピオンズリーグでプレーする姿が見たいものだ。