すかいらーくが最高益 外食産業の逆風の中で、好調な理由とは?

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2025年05月28日 08:21  ITmedia ビジネスオンライン

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インバウンドにも人気のしゃぶ葉

 2025年5月、すかいらーくホールディングス(HD)が、2025年度第1四半期の決算を発表した。同期間としては過去最高益で、原材料費の高騰や深刻な人手不足など、外食産業が直面する課題に対応する中での好業績は、多くのビジネスパーソンの注目を集めている。


【画像】すかいらーくHDの好決算の理由とは? 決算サマリー、メニュー開発、M&Aの進捗(決算説明資料から)


 その成長の源泉はどこにあるのだろうか。同社の最新決算情報と経営陣の発言から、戦略の核心に迫る。


●数字が示す確かな成長軌道


 すかいらーくHDの2025年度第1四半期(1〜3月)連結決算は、売上高が1117億円(前年同期比16.8%増)、営業利益が76億円(前年同期比25.1%増)、純利益が44億円(前年同期比27.5%増)と、力強い結果を示した。


 この好調な業績は年間業績予想に対する進捗(しんちょく)率でも明らかで、利益ベースでは約30%と順調な滑り出しである。特に注目すべきは既存店の力強い回復で、売上高は前年同期比109.7%となった。これは、客数が102.2%、客単価が107.4%と、集客と単価の両方を向上させた結果である。これに加えてM&Aによる58億円の売上増も全体の成長に貢献している。


●「店舗中心経営」の奏功


 同社が成長の大きな要因として挙げるのが、「店舗中心経営」である。これは、単なるコスト削減ではなく、「人は付加価値を生む原動力」という思想に基づき、人への投資を通じてサービス品質と顧客満足度を高め、企業収益につなげる好循環を目指すものだ。具体的には業績インセンティブ制度の導入や、OJT研修の強化、店舗労働時間配分の抜本的な見直しなどを行ったという。CFOの北義昭氏はこうした取り組みの成果として、2025年度第1四半期の人件費率が前年同期の32.3%から31.5%へと改善したと説明している。


 この「店舗中心経営」の具体的な効果について、金谷実社長は決算説明会の質疑応答でクルー(パート・アルバイト)の定着率が上がりオペレーションの習熟度が向上したことやクリーンアップタイム削減などによるピーク時間帯の回転率が向上したことを挙げた。その上で、投資した時間以上に売り上げが上がったことが、人件費率低下に大きく寄与したと述べている。


 実際、クルーの在籍人数は前年同期比で10%増加し、定着率も向上した結果、応募数が増加する中でも採用人数は減少したという。労働時間も5%追加投資した結果、売り上げは11%向上し、生産性の向上が人件費率の低下につながったと分析している。


●重要戦略の2つ目は、データと顧客の声に基づくメニュー開発


 顧客に支持される商品の開発も、成長を支える重要な柱だ。マーケティング本部マネージングディレクターの平野曉氏は、既存店好調の要因として、店舗中心経営の成果を土台としつつ、メニュー開発やプロモーションについても、それをサポートできたと語る。


 同社のメニューの開発体制は、データ活用と顧客フィードバックを重視したものへと進化している。POSデータやすかいらーくポイントの蓄積データ、タブレットを使った顧客アンケートデータを活用して専門のチームが分析を行い、各ブランドの開発チームと協議の上、商品開発を進めているという。


 具体的な成功例として、2025年度第1四半期に再投入された「やまや」とのコラボレーションによる「博多明太もつ鍋」が挙げられている。顧客アンケートや分析に基づき、もつの増量やちゃんぽんセットの導入、コンロの新規導入や宅配・テークアウト対応といった改良を加えた。さらに販売単価を引き上げたにもかかわらず、イートインでの販売数は前年比で約1.3倍(宅配を含めると約1.7倍)となった。このような組織的なメニュー開発体制の整備が、集客と売り上げの向上に貢献していると考えられる。


●3つ目は、顧客体験価値の向上


 効果的なプロモーション戦略とDXの推進も、すかいらーくHDの成長を加速させている。平野氏は、「販促媒体の選定が、うまくできるようになってきた」と述べた。その例として、折り込みチラシやSNSチラシで、顧客層に応じたクーポンを出し分けることで、ROIを向上させていることを挙げている。


 特に注力しているのが、自社アプリを活用したクーポン戦略の高度化だ。2025年4月から、ガストでは需要の大きさや購買力に応じ、県ごとにクーポンを出し分ける「県別クーポン」を導入。クーポンの回収数は大きく変わらないものの、クーポン粗利率で約3割の改善を実現したという。今後は、店舗別や顧客別のクーポン出し分け機能の開発も進めている。このようなきめ細かいデジタルマーケティングが、収益性を伴った集客を実現している。


 さらに、アプリでの電子レシート発行やポイントの宅配サイト展開、店舗での案内システムの本格導入など、顧客利便性向上と店舗運営効率化のためのDX施策が、2025年度第1四半期だけで140件行われたことも報告された。


●M&Aによる新たな成長ドライバーへの期待


 M&Aも、同社の成長戦略において重要な役割を担っている。2025年度第1四半期には、資さんうどんが48億円、マレーシア「Suki-ya」が10億円の売り上げ貢献を果たした。


 資さんうどんは、2025年度第1四半期の営業利益率が約6%と、前年同期の約4%弱という数字を上回る収益性を達成。特に関東と関西の新店が好調で、利益率を押し上げている。2025年7月末には、すかいらーくグループの既存工場での製麺も開始する予定で、既存ブランドからの転換を含め、早期に200店規模への拡大を目指すとしている。


 一方、2025年1月に買収したマレーシアのしゃぶしゃぶ店「Suki-ya」は、2024年度実績で営業利益率30%超という非常に高い収益性を誇る。金谷社長は、その要因として、1店舗当たり約2.6億円という高い売り上げと低い人件費率、低い賃料の3点を挙げている。


 マレーシア国内で70店舗以上の出店余地があり、将来的にはインドネシアなど広大なムスリム市場への展開も視野に入れているという。


●複合的な戦略で、さらなる成長を目指す


 2025年度第1四半期は好調なスタートを切ったものの、同社は通期業績予想を据え置いている。金谷社長はその理由として、第1四半期というタイミングに加え、コメや卵を中心としたインフレの影響や、米国経済の不透明感といった不確定要素を挙げている。


 特にコメの価格については、購買本部マネージングディレクターの片山信行氏が「十分な在庫契約がある」としつつも、「当初予算比で、年間約8億円の上振れを見込んでいる」と説明。金谷社長も「9月以降の新米価格が見通せず、高止まりが想定されるため、現時点でコメの価格を下げることは想定していない」と補足している。


 また、インバウンド需要については確実に伸びており、「しゃぶ葉」などが特に強いものの、「物販のような爆買いとは異なり、飲食店では売り上げへのインパクトがそれほど大きくはない」との認識を示している。


 すかいらーくHDの2025年度第1四半期の好業績は、外部環境の厳しさの中でも、「店舗中心経営」による現場力の強化と生産性向上、データと顧客の声に真摯(しんし)に向き合ったメニュー開発、そしてデジタルマーケティングとDXの推進という、多岐にわたる戦略が有機的に結びついた結果だろう。さらに、M&Aによる新たな成長ドライバーの獲得も着実に進んでいる。


 今後もインフレや人手不足といった課題は続くと予想されるが、同社がこれらの戦略をいかに深化させ、持続的な成長軌道を描いていくのか。その動向は外食産業のみならず、多くの企業にとって参考になるだろう。


●著者プロフィール:金森努(かなもり・つとむ)


有限会社金森マーケティング事務所 マーケティングコンサルタント・講師


金沢工業大学KIT虎ノ門大学院、グロービス経営大学院大学の客員准教授を歴任。


2005年より青山学院大学経済学部非常勤講師。



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  • へー、好調なの?ふーん。ε-(´∀`; )
    • イイネ!4
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