田中碧はプレミアリーグに昇格 イングランド2部で奮闘する日本人選手の現在地

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2025年05月31日 07:30  webスポルティーバ

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 2024-25シーズンのヨーロッパ・フットボールは、日本人がひとつのキーワードだ。

 マインツの佐野海舟は総走行距離393.6kmで、ブンデスリーガの今季最長を記録。リバプールの遠藤航はリーグ優勝、クリスタル・パレスの鎌田大地はFAカップ制覇に貢献し、フライブルクの堂安律は10ゴール・7アシストでキャリアハイだった。

 また、前田大然は公式戦49試合・33ゴール・12アシストの荒稼ぎ。セルティックをスコットランドリーグ4連覇に導くとともに、自らはシーズンMVPを獲得している。

 ドイツのデュッセルドルフからリーズに移籍した田中碧も、イングランド上陸初年度から充実した1シーズンを過ごした。チームの信頼を集め、サポーターの人気も絶大だ。意地悪なメディアですら「何者にも代えられない」「必要不可欠」「絶対的存在」と田中のプレーを絶賛していた。

 この日本代表MFはリーズの......いやいや、チャンピオンシップ(実質プレミアリーグ2部)のベストプレーヤーといって差し支えない。シーズンを通してコンディションを維持し、出場した43試合で及第点以上のハイパフォーマンスだった。

 46試合という長丁場のチャンピオンシップは、クオリティを保つのが常に難しい。なおかつポジションは中盤センターだ。あらゆる意味で高いプレー強度が要求され、フットボールの肝となる要職である。

 54回をマークしたインターセプトはチーム最多。優れた状況判断と球際の強さがあるからこそ残せるスタッツだ。さらに2379本を数えたパス総数はチーム3位。ボールを預けるケースも少なくないセンターバックのジョー・ロドンやジェイデン・ボーグルとは違い、田中の場合はリスクを冒したうえでの2379本である。

 戦局を読み解き、パスを散らせる田中が中盤に君臨したリーズは、2024-25シーズンのチャンピオンジップを制した。田中本人は、リーズの選手とサポーターが選ぶ年間最優秀選手にも輝いている。

【ランパードに認められた坂元達裕】

「チームメイトとサポーターの皆さんに感謝します」

 今シーズンの感想をメディアに問われた田中は流暢な英語で、ちょっとはにかみながら答えていた。この謙虚な姿勢にも多くの女性ファンがキュンとなるのだろう。

 2025-26シーズンの田中は、リーズとともにプレミアリーグに戦いの場を移す。優しい笑顔の日本人が、イングランド屈指の古豪チームのど真ん中に立つのだ。

 2023年にベルギーのオーステンデからコベントリー・シティにやってきた坂元達裕も、充実の1年だった。一時は降格圏にまで沈みながら、最終的に6位でフィニッシュした要因のひとつは、間違いなくこの日本人である。彼のエネルギーは、コベントリーの強みでもあった。

「エクセレント」

 フランク・ランパード監督も太鼓判を押していた。現役当時の彼はリオ・ファーディナンドやスティーヴン・ジェラードともにイングランドの黄金世代と言われ、無尽蔵のスタミナと高度な決定力が魅力だった。

 若かりし自分を思い出しているのか、いわゆる「推しメン」なのか、ランパードは坂元を語る際に相好を崩すケースが多々ある。基本システムの4-2-3-1では右ウイングとして、プランBの3-4-2-1ではシャドーとして貢献する坂元に期待し、信頼している証だ。

 ブリストル・シティとのプレーオフに敗れ、プレミアリーグ昇格こそ逃したものの、坂元とコベントリーは来シーズンに向けて確かな手応えをつかんだ。42試合・4ゴール・6アシストは上々のスタッツ。ジャンプアップの時が近づいている。

 田中や坂本に限らず、今シーズンのチャンピオンシップでは日本人選手の活躍が光った。

「しょせん2部だろ」という言葉は聞き捨てならない。レアル・マドリードで絶対的な地位を占めるジュード・ベリンガムがバーミンガムで研鑽を積み、クリスタル・パレスのFAカップ優勝に尽くしたアダム・ウォートンがブラックバーン・ローバーズで鍛錬するなど、チャンピオンシップの厳しい戦いが今日に生きているイングランド代表は少なくない。

【外国人が働きやすくなった】

 エバートンのGKジョーダン・ピックフォードは「カーライル(4部)やバートン(3部)での経験は宝物だ」と語り、6月に行なわれるワールドカップ予選と親善試合でイングランド代表に復帰したイヴァン・トニー(アル・アハリ)もチャンピオンシップで苦楽を味わっている。イングランドの下部リーグを軽んじてはならない。

 競り合いやタックルはプレミアリーグより荒々しく、アウェーは基本的にバス移動。実に過酷な条件だ。それでも日本人が健闘できるのは、テクニック、敏捷性、スピード、規律遵守などに優れているからに違いない。

 さらに、英国のEU離脱に伴い労働ビザが緩和され、日本人に限らず外国人が働きやすくなり、ヨーロッパの指導者の招聘がスムーズになった事実も見逃せない。ほんの数年前まで、チャンピオンシップの監督は英国系が90%以上を占めていた。だが、今シーズンの開幕時点で7人。29.17%が外国籍である。

◆リーズ
 →ダニエル・ファルケ(ドイツ)
◆サンダーランド
 →レジス・ル・ブリ(フランス)
◆シェフィールド・ウェンズデイ
 →ダニー・レール(ドイツ)
◆ノリッジ・シティ
 →ヨハネス・ホフ・トールップ(デンマーク)
◆ハル・シティ
 →ティム・ヴァルター(ドイツ)
◆カーディフ・シティ
 →エロル・バラト(トルコ)
◆クィーンズ・パーク・レンジャーズ(QPR)
 →マルティ・シフエンテス(スペイン)

 今シーズンの最後まで職務をまっとうしたファルケ、ル・ブリ、レールの3人は、基本戦略としてポゼッションを用いていた。そういうチームのほうが、日本人は特性を生かしやすい。逆に、縦とスピードを必要以上に重視し、アスリート色を全面に押し出すような指揮官の場合、日本人ならではの個性を発揮するのは難しい。

 10ゴールを挙げたブラックバーンの大橋祐紀は残留確実で、QPRの斉藤光毅はロンメルSKのローンから完全移籍に切り替えられる見込みだ。36試合に出場した平河悠はコベントリーのプレミアリーグ昇格に向け、来シーズンも坂元とともに戦い続けるだろう。

 一方、シェフィールド・ウェンズデイの初瀬亮、ストーク・シティの瀬古樹、カーディフ・シティの角田涼太朗は志(こころざし)半ばに終わり、ルートン・タウンの橋岡大樹はリーグ1(実質3部)降格の屈辱を味わうなど、日本人の明暗は分かれた。

 ただ、勝負の世界では必定である。勝者がいれば敗者も存在する。今シーズンになめた辛酸は、来シーズン以降の糧(かて)になる。

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