
ぽつんと歩道に座っていた子猫との出会いは、亡くなった愛猫の記憶を呼び覚ますような出来事でした。Xユーザー・安田武史さん(@LastCowboy)が保護した「テン」ちゃんとの日々には、予想もしなかった“気づき”や“学び”が少しずつ積み重なっていきます。
【写真】歩道で保護された直後 目はうつろで、痩せ細っていました
ひとりぼっちで座り込む子猫ーー衰弱し鳴くこともなく
テンちゃんと出会う約1年前、飼い主さんは白猫の「トーイ」ちゃんとキジトラの「アオ」ちゃんを保護しました。しかしアオちゃんは、保護から半年後、FIP(猫伝染性腹膜炎)を発症し、虹の橋へ…。そんな深い喪失感がまだ癒えぬ中、2020年6月の夜、テンちゃんとの出会いは訪れました。
「その日は、私の会社のスタッフとウォーキングをしていたのですが、しばらくして歩道に大学生が立っているのが目に入りました。その足元にキジトラの子猫ちゃんがちょこんと座っていたんです。『君の猫?』『飼える?』と尋ねると、『違います』『無理です』と。子猫は、目やにで目はふさがっていて、体もガリガリでした」
鳴き声を上げることもなく、子猫はただ静かに座っていました。その姿は、助けを待っているようにも見えたといいます。一緒にいたスタッフは子猫を抱き上げました。そして飼い主さんは、かかりつけの動物病院へ連絡をした後、その足で子猫を連れて病院に向かいました。
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「案の定、猫風邪でした。ノミもひどくて…消毒液でノミを落としたら診察台がテンちゃんの血で真っ赤に…とても胸が痛みました。診察の時間外だったにも関わらず、診察をしていただいた病院には感謝の気持ちでいっぱいです」
命の輝きが戻ったーー日に日に元気に
テンちゃんはその日から、飼い主さんの家族になりました。子猫用ミルクと毛布のぬくもりのおかげで、わずか1週間で驚くほど回復。元気を取り戻していきます。
「半年前に亡くなったアオちゃんもキジトラ猫。テンちゃんとの出会いは、まるでアオちゃんが“衣替え”をして戻って来てくれたようでした。職場のみんなとそう話したのを覚えています」
回復するとすぐに、テンちゃんはその個性を爆発させていきます。
「壁紙をかじってベリベリ剥がすんです。服の上に“お印”をされて何枚も処分しました」
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末っ子らしい自由さと、憎めない愛らしさ。知れば知るほど、怒るよりも笑って受け入れることが増えていったといいます。
「本当に自由奔放。でも注意すると、女優の橋本環奈さんのようなキラキラした瞳でこっちを見るんですよ。もう怒れないですよね、苦笑いするしかありませんでした」
テンちゃんとの暮らしは、飼い主さんの価値観を少しずつ変えていきました。粗相やイタズラに対して怒るのではなく、それを回避する方法を探すなど、心のゆとりを持てるようになったのです。
「あきらめの境地というか、忍耐力がつきましたね。物に対する執着が減り、触れられたくない物があるときは手の届かないところに置けばいいと思えるようになりました
さらに、テンちゃんの存在はまわりの人にも影響を与えました。
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「会社のスタッフも片づけが苦手だったんですが、テンちゃんが来てから、机のまわりをきれいに保つようになって。自分も猫ちゃんの世話をこまめにやることで、結果的に部屋が整うようになりました」
◼️テンちゃんが教えてくれたこと
テンちゃんは、現在4歳を迎えました。そのやんちゃぶりは、今も健在です。
「とにかく好奇心旺盛。買い物袋の音がするとすぐ飛んできて、中をのぞいては勝手に出して遊んでいます。テンちゃんのこうした好奇心と冒険心があったからこそ、出会ったあの日、歩道にちょこんと座って、人前でも物おじせずに助けを求められたんだと思います。だからこそ、出会えたんでしょうね」
そんなテンちゃんとの暮らしは、飼い主さん自身の心にも変化をもたらしていきました。日々の世話、予測のつかない行動、ふとした仕草。そのひとつひとつが、自分自身と向き合うきっかけになっていたといいます。
「テンちゃんとの出会いは、自分を成長させてくれたと思います。猫から学び、気持ちにゆとりを持つ、これが猫と暮らすうえで大切だなと。テンちゃんから学ばさせてもらいました。とても感謝しています」
(まいどなニュース特約・梨木 香奈)