※写真はイメージです インバウンド需要に沸く日本。しかし観光地では、外国人観光客によるマナー違反が問題となっている。たとえば、奈良公園のシカへの虐待行為など、度を越した行動が度々ニュースで取り上げられるようになった。そんななか、観光地で外国人観光客と接している“現場”の声は……。
観光地でキッチンカーの仕事をしていた後藤俊二さん(仮名)は、数々の迷惑行為によって精神的に追い詰められてしまい、現在は働くこともままならない状態だという。いったい、何があったのか?
後藤さんは「ひと括りに『外国人観光客は悪い』と言うのは適切ではない。すごく礼儀正しい外国人観光客もいたので」と前置きしたうえで、重たい口を開く。
◆中国語や英語で暴言は日常茶飯事「クソ日本人が」
もともと休日に自然豊かな場所や観光地を訪れるのが趣味だったという後藤さん。
転職を考えていた際、観光地でキッチンカーの仕事を募集しているのを見つけ、「今しかない」と思って応募。そして、見事に採用されたという。
「旅先で出会った人たちとの触れ合いや、その土地でしか得ることのできない高揚感。これを仕事として共有していきたいという思いがありました」
業務内容は至ってシンプル。キッチンカーで観光客向けにカステラなどの軽食やコーヒーを提供すること。だが、実際に仕事を始めてみると、想像以上に外国人観光客の対応に苦労することになる。
後藤さんは「正直、思い出したくもないのですが」と嘆く。その迷惑行為は枚挙にいとまがなかった。
「順番待ちの列を守らない、会計時にお金を投げてくる、キッチンカーの前に用意したテーブルと椅子に食べ残しやゴミをそのまま放置していくのは当たり前。
メニューにない商品をオーダーしてくる、営業終了後なのに店を開けろと言ってくる、オープン前の準備で忙しい中で早くしろと急かされる、無料でコーヒーをもらおうとしてくるなどの理不尽な要求も多かったです。
中国語や英語で『クソ日本人が』などの暴言を吐かれたり舌打ちされたりするのは日常茶飯事でしたね」
◆急にキッチンカーを蹴られて…
日本のマナーを無視した行動が後を絶たなかった。そんななか、後藤さんが特に憤りを感じた出来事が2つあったという。
ある日のこと。いつも通りキッチンカーの準備をしていると、突然外から雪を投げつけられたという。まったく意味がわからない……。
「当たりどころが悪ければ、大怪我をしていたかもしれません。他のお客様に当たりでもしたらと考えると恐ろしくなりました」
咄嗟に怒って注意したが、相手は面白半分だったようで、半笑いで謝ってきたという。
「もちろん、そこに誠意などはなく、『もう終わった?』と言わんばかりの態度でさっそうと帰っていき、悲しみと憤りで言葉が出なかったのを今でも覚えています」
また、営業終了後にレジの精算を行っていると、外からキッチンカーを“ドン!”と蹴られたのだ。
「窓から外国人観光客が走って逃げていく様子を見つけました。走って追いかけようと思いましたが、観光地ということもあり、人の目も気になってしまい、行動には移せませんでした」
◆警察に相談しても「効果はなかった」対策の限界
後藤さんのキッチンカーは駅前が定位置だった。駅員とも連携を取り、こうしたマナー違反に対して自分なりに対策を講じたという。
テーブルを出すのをやめ、英語で注意を呼びかけるメッセージをキッチンカーに貼り出した。しかし、「効果はなかった」と後藤さんは肩を落とす。
「相変わらず列の割り込みなどは止まらず、騒音騒ぎ、ゴミは駅のトイレに大量に捨てられて、むしろクレームがきてしまいました」
警察にも相談したが、「現行犯でないと難しい」「外国人観光客なので多少多めに見てほしい」と言われ、相手にされなかったという。キッチンカーの運営会社にも報告をあげ、セキュリティの強化や販売場所の変更などの希望を伝えてみたが「私の説明が悪かったのかもしれません」。それが通ることはなかったのだ。
◆「日本のマナーや文化を勉強してから来てほしい」
次第に後藤さんは外国人観光客に対して複雑な感情を抱くようになった。
「個人的にはインバウンドに対して嫌悪感があります。ただ、大きな経済効果や地域活性化など、メリットとして挙げられる点も多いので難しい問題だと思いますね」
とはいえ、「最低限、日本のマナーや文化を勉強してから来てほしい」という思いは強い。
「日本に入国する前に“マナー検定”のようなものがあればいいなって。もっと日本への理解が深まり、気持ち良く国際交流ができる日を私は待ち望んでいます」
後藤さんは生真面目で優しい性格なのだろう。そのぶん、打ちのめされてしまったのだ。結局、キッチンカーの仕事を退職し、現在は“療養中”だという。外国人観光客の数は増加の一途を辿っているが、これ以上ひどい事態に陥らないことを願う。
<取材・文/藤山ムツキ>
【藤山ムツキ】
編集者・ライター・旅行作家。取材や執筆、原稿整理、コンビニへの買い出しから芸能人のゴーストライターまで、メディアまわりの超“何でも屋”です。著書に『海外アングラ旅行』『実録!いかがわしい経験をしまくってみました』『10ドルの夜景』など。執筆協力に『旅の賢人たちがつくった海外旅行最強ナビ』シリーズほか多数。X(旧Twitter):@gold_gogogo