
6月に行なわれるワールドカップ最終予選のラスト2試合を前に、先頃発表された日本代表メンバーのなかで最大の驚きをもたらしたのは、18歳の初選出ではなかっただろうか。
その18歳とはファジアーノ岡山のMF、佐藤龍之介である。
FC東京のアカデミーで育った佐藤は一昨年、16歳にして異例のトップチーム昇格。初めてのシーズンでJ1出場はなく、昨季もリーグ戦出場は3試合にとどまったが、今季は自らの希望で岡山へと期限付き移籍すると、ここまで14試合に出場し、チーム最多の4ゴールを記録する活躍を見せている(J1第19節終了時点。以下同じ)。
もともと佐藤はトップ下など、中央寄りのポジションを得意とするMFだったが、今季岡山で託されたポジションは、右ウイングバック。ドリブルもうまく、サイドアタッカー的なプレーもこなせるタイプだとはいえ、従来の印象からすると、やや意外に思えるポジションでの起用だった。
ところが、岡山の木山隆之監督曰く、「点を取るとか、点に絡む能力がある選手はどこに置いても点に絡める」。だからこそ指揮官は、佐藤に守備の役割は従来と変わらずに与えつつも、「攻撃は自由にダイナミックにやっていいよ」と伝えているという。
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実際、佐藤はサイドライン際を上下動するだけでなく、内側にポジションをとって後方からの縦パスを引き出したり、自らもスルーパスを送ったりと、多彩な形で岡山の攻撃に絡む。
代表活動前最後の試合として注目を集めたJ1第19節の湘南ベルマーレ戦でも、右サイドからカットインで内に切れ込み、左足でのシュートを決めている。
「ゴールが見えたし、(ペナルティエリア外であっても)あそこはシュートレンジなので、強いシュートを打った。自分のなかでも結果が大事。数字を残せてよかった」
試合後、落ちついた表情でそう語る佐藤からは、18歳らしからぬ強い責任感がうかがえる。「(代表に選ばれたことで)少し自分に対してのプレッシャーをかけているというか、より責任を感じながらも、ミスを恐れずプレーしている」との姿勢は、決して口だけでなく、ピッチ上のパフォーマンスにも表われているものだ。
開幕前にはJ2降格候補と目されていたJ1初昇格の岡山は、シーズンの半分を終えた現在、勝ち点24の11位につけているが、18歳の新戦力がその大健闘に大きく貢献していることは疑いようがない。
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上昇機運高まる両者が、互いを必要とする抜群のタイミングで巡り合い、18歳の日本代表抜擢を後押しした格好だ。佐藤が語る。
「やっぱり(岡山の)街全体として盛り上がりも感じるし、やっぱりチームが勝ったり、いい試合をしたりすることで、よりサポーターのみなさんもまた来たいと思ってくれる。そういうサイクルが今、非常にいいなと思う」
若くして才能を認められた逸材が、期限付き移籍をきっかけに、ようやくプロの世界で覚醒し始めた、と言っていいのだろう。
ただし、である。
佐藤が類まれなタレントであることは否定しないが、率直に言って、現時点で日本代表の中盤に食い込む可能性がある選手、すなわち、来年のワールドカップ本番で遠藤航や鎌田大地の立場を脅かす、あるいは彼らのバックアッパーとなりうる選手だとは言い難い。
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岡山での活躍は特筆すべきものだとはいえ、今季J1第19節までに佐藤が先発出場したのは、半分以下の8試合。コンスタントに先発出場が続くようになったのは、5月以降のことだ。
今回の代表選出は、将来への期待値込みと考えるのが妥当だろう。
佐藤は一昨年、U−17日本代表で背番号10を背負い、U−17ワールドカップに出場した。そこでは技術的な強みはもちろんのこと、決して体は大きくないが、外国人選手にぶつかられても体勢がブレない強さやバランスのよさが強く印象に残った。
「自分のドリブルだったり、テクニックというのは発揮できたし、やれる感覚ももちろんあるが、そのなかでチームを勝たせるプレーだったり、ゴールに結びつくプレーだったりはまだまだ物足りないなと思っている」
大会を終え、そんなことを話していた佐藤は、それゆえ今秋開かれるU−20ワールドカップへの強い意欲を見せていた。
「U−17ワールドカップに出させてもらって、本当にいい大会ですごく成長できると思った。そこ(U−20ワールドカップ)に対してのモチベーションもすごくあるし、注目される大会でプレーできるのは幸せなこと」
おそらくほんの1カ月ほど前までは、佐藤にとって"代表"での今年最大の目標と言えば、U−20ワールドカップだったはずなのだ。順当ならば、6月のワールドカップ最終予選と同時期に行なわれる、U−20日本代表のフランス遠征にも参加していたに違いない。
だがしかし、今回のサプライズで、もはや彼は、ただの"年代別代表を目指す18歳"ではいられなくなった。これからは、嫌でも大きな注目を集めることになるだろう。
それでも、まだまだ成長途上の18歳にとって、これが極めて貴重な経験となることは間違いない。「(日本代表には)すごい選手がいっぱいいるし、自分が成長するチャンスだと思う」と語る佐藤は、こう続ける。
「そんななかでも、やっぱり選手として呼ばれている立場なので、試合に出て活躍することをイメージしながら取り組もうと思う」
18歳の逸材が踏み出すはじめの一歩。騒ぎすぎることなく、落ちついて見守りたい。