
シカゴ・カブスは6月1日(日本時間2日)、ナ・リーグ中地区の首位に立っている。それだけでなく、勝率.627(37勝22敗)はナ・リーグでトップタイ(6月2日時点、以下同)。西地区のロサンゼルス・ドジャースの勝率.610(36勝23敗)をしのぎ、東地区のニューヨーク・メッツと並んでいる。
その激戦のナ・リーグにおいて、メジャーリーグ4年目の鈴木誠也は中心選手のひとりとして、カブス快進撃の一翼を担っている。
これまでの3シーズンも、レギュラーとして堅実なスタッツを残してきた。各シーズンのOPSは.770→.842→.848と推移。2022年は規定打席に56打席足りなかったが、過去2シーズンはいずれも580打席以上を記録し、20本以上のホームランを打っている。
だが、今シーズンのOPSは.895だ。昨シーズンを47ポイントも上回っている(.001=1ポイントとして表記)。ホームランはすでに14本を数え、あと7本で昨シーズンの自己最多に並ぶ。前半だけで20本以上もあり得る。また、二塁打も18本と多く、こちらも2023年の31本を超えそうな勢いだ。シーズンはまだ100試合以上が残っている。
今シーズンの打率.269と出塁率.333は過去2シーズンより低いものの、数値自体は悪くない。四球率9.3%も同様だ。そして52打点は、ナ・リーグの誰よりも多い。
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スタットキャストのデータ(5月29日時点)を紐解いてみると、今シーズンの変化が浮き彫りとなる。
3分割した打球の方向を見ると、これまでは3シーズンとも中央が最も多かった。それに対し、今シーズンは左方向が最も多い。たとえば、昨シーズンは左方向=32.6%、中央=44.9%、右方向=22.5%。一方、今シーズンはそれぞれ47.0%、36.4%、16.6%だ。
打球の平均角度も、昨シーズンから徐々に上がっているのも注目したい。11度前後の角度だった最初の2シーズンに対し、昨シーズンは16.2度で、今シーズンは15.1度。昨シーズンと今シーズンはあまり違わないが内訳は異なっていて、昨シーズンはフライ(34.0%)が最も多く、今シーズンはラインドライブ(33.8%)が最多を占めている。
【速いラインドライブの打球が増加】
また、各シーズンの打球の平均初速にも変化が見受けられる。2022年から2025年の4シーズンを比較すると、89.6マイル→91.4マイル→91.7マイル→93.1マイル(約144.2km→147.1km→147.6km→149.7km)と、年々速くなっている。
そして、気になったのは「バレル率」の変化だ。今シーズンは16.6%で、過去3シーズンの11%前後から急激に上がっている。
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バレルとは、打球の初速と角度の組み合わせのうち、打率.500と長打率1.500を超える可能性が高いものを指す。ミニマムの初速は98マイル(約157.7km)だ。初速98マイルの場合、26〜30度がバレル。初速が上がると、それに伴ってバレルとなる角度は広がる。
ごく簡単にまとめると、「今シーズンの鈴木は、速いラインドライブの打球が増えている」ということだ。その結果、ホームランや二塁打が大幅に増えている。三塁打2本を含め、今シーズンの長打は34本を数える。過去3シーズンの長打は38本→57本→54本なので、こちらも自己最多を塗り替えるペースだ。
さらにもうひとつ、好調の要因には健康面も挙げていいだろう。鈴木は過去3シーズンとも、開幕前からシーズンが中盤を迎えるまでのどこかで負傷者リストに入っていた。しかし今シーズンは、4月下旬にスライディングをした際に右手首を痛めたものの、幸いにも大事には至らず、59試合中55試合に出場している。
今後も離脱することなくプレーを続ければ、打点王を獲得してもおかしくない。それは、現時点でトップに立っていることだけが理由ではない。
カブスのラインナップは、イアン・ハップ、カイル・タッカー、鈴木と並ぶ1〜3番が基本だ。鈴木の前を打つふたりの出塁率は.340と.394で、ふたりとも高い出塁率を残してきた実績もある。彼らが塁に出ることで、鈴木が打点を積み上げる機会は増す。
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【シーズン100打点以上は過去6度】
目下のライバルは、チームメイトのPCAことピート・クロウ=アームストロングだ。ナ・リーグの打点トップ2には、52打点の鈴木と51打点のPCAが位置している。彼らに次ぐのは47打点のウィルマー・フローレス(サンフランシスコ・ジャイアンツ)だ。
ウルトラブレイク中のPCAは、7番打者として開幕を迎えた。そこから6番と1番を経て、5月の下旬以降は鈴木の後方4番と5番に位置している。これに伴い、PCAの一打で鈴木がホームを踏んでPCAの打点となるケースも増加中だ。
ちなみに、日本人メジャーリーガーのシーズン100打点以上は6度記録されている。松井秀喜がニューヨーク・ヤンキース時代の2003年(106打点)、2004年(108打点)、2005年(116打点)、2007年(103打点)に合計4度。大谷翔平はロサンゼルス・エンゼルス時代の2021年に100打点を挙げ、ロサンゼルス・ドジャースへ移った昨シーズンは130打点で打点王を獲得している。
あくまでも机上の計算だが、カブスの59試合で鈴木は52打点を挙げているので、それを162試合に換算すると142〜143打点となる。メジャーリーグ記録とカブスの球団記録は1930年にハック・ウィルソンが挙げた191打点だが、2008年にフィラデルフィア・フィリーズで146打点を記録したライアン・ハワードを最後に、145打点以上は16シーズン途絶えている。
また、この夏には別の楽しみもある。鈴木が初めてオールスターゲームのメンバーに選ばれる可能性が高そうだ。鈴木の場合、ファン投票による選出は難しい。ナ・リーグのDHは大谷で決まりと思われるからだ。
鈴木の順位は2位、あるいは大谷とカイル・シュワーバー(フィラデルフィア・フィリーズ)に次ぐ3位ではないだろうか。ほかにもナ・リーグのDHには、出塁率.427のマーセル・オズナ(アトランタ・ブレーブス)やマイナーリーグ契約で入団して11本塁打のギャビン・シーツ(サンディエゴ・パドレス)もいる。
【オールスターで大谷との共演も】
それでも鈴木は、メジャーリーグのオールスターゲームで初めてプレーすることになるだろう。唯一のネックとなるのは、ロースターにはどのチームの選手も少なくともひとり、という規定だろうか。
昨年のナ・リーグの場合、フィリーズは7人、ドジャースは6人、パドレスは5人が選ばれている(ファン投票選出を含む。代替選出は含まず)。カブスから5人であれば、鈴木が外れることは考えにくい。
大谷が先制点を記録し、大谷と交代した鈴木が勝利を決める打点を挙げる。あるいは、大谷以外の選手と交代した鈴木が、塁上にいる大谷を生還させる。今年のオールスターゲームでは、こういったことが起きるかもしれない。