既報の通り、5月29日にかねてよりうわさされていた日本電信電話(NTT)とSBIホールディングスの資本業務提携が発表され、それに伴いSBIホールディングス傘下の住信SBIネット銀行の普通株式の公開買付け(TOB)が実施されることで同銀行がNTTドコモの連結子会社になることが確定した。
【画像を見る】トラブルの要因の一つに過去の「dアカウント統合」も(全4枚)
NTTドコモにとっては念願の銀行機能の獲得による業界参入となり、これを活用した今後の金融サービスでの広がりに期待が持てる状況となった。
一方で、この報道を見ていたユーザーの多く、特に住信SBIネット銀行のサービスを利用する層がSNSや掲示板などに吐露していたのは、「住信SBIネット銀行のサービスがdアカウントを含むドコモのサービス群に統合されることで使い勝手が大幅に改悪されるのでは」といった懸念だ。
事実、29日に開催された4社トップによる記者会見では、この懸念についてドコモ社長の前田義晃氏に記者が質問する場面も見られた。「dアカウント」を含むドコモのサービスのUI/UXはなぜこんなにも悪い評価で衆目の一致する所となっているのか。
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●少しのイレギュラーでトラブルに
筆者のようにドコモ回線を使っていてもほとんど機種変更せず、MNPによる回線乗り換えも行わず、家族間での回線/ポイント共有を使ったり、他のサービスとのひも付けもほとんど行っていないケースではほとんど問題にならないが、ここに挙げた条件を1つでも満たしていざdアカウントの操作を行おうとすると、さまざまなトラブルに遭遇するケースが多いようだ。
実際、XなどのSNSで「dアカウント」とともにトラブルにまつわる各種事象や罵倒語と合わせて検索すると、大量にそれに関連した投稿を見つけることができる。
典型的な例でいえば、dアカウントにひも付いた回線を解約した結果、回線認証が行えずdアカウント関連の設定変更やオンラインでの各種手続きが不可能になったり、最近では一部のオンライン取引で必須化されたパスキー認証まわりのトラブルが散見される。
回復不能なトラブルに遭遇した場合、ドコモショップへの来店による手続きが必要になるが、少し前まではdアカウントなしでの予約が行えなかったり(後に改善)、予約なしでの来店は手続き優先順位が低く待ち時間が長いといった理由から敬遠されがちといった問題もある。
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トラブルの根本的な問題の一つは、dアカウントが携帯回線と密接に結びついており、現状で1つのdアカウントにつき1つの携帯回線しか登録できないことにある。回線が増えた場合、複数のdアカウントが必要になる。諸処のトラブルを見ていると、この状態でdアカウントにひも付いた回線を解約やMNPしたり、2回線目以降のdアカウントを(dポイントクラブ会員統合などで)統合しようとすると、何かの折にトラブルに巻き込まれるようだ。
別々のアカウントのままでもいいのだが、例えば家族会員などで別々に回線を利用しているケースなど、ポイント情報を統合して多くのポイントを獲得した方が会員特典を受けやすくなるステージ制を導入しているため、このようなトラブルを誘発する原因になっているとみられる。
dアカウントはもともとドコモ回線を利用するユーザーが各種Webサービスを利用するための認証基盤として、2010年に「ドコモID(docomo ID)」としてスタートしたもので、回線認証がベースだった。後に13年にドコモ回線を持たないユーザーでも同IDを利用できるよう、ID+パスワード方式による認証がベースとなり、15年に「dアカウント」「dポイント」へのリニューアルが行われた。
ただ、もともとのIT会員管理基盤がドコモ回線をベースとしていたものをそのまま流用しており、前述の各種制限やトラブルもこれに付随しているものと考えられる。現在のドコモの各種サービスはこの管理システムに建て増しの形で次々と連携が行われているため、何かの折に突然トラブルに巻き込まれるという状態が起こってしまう。
●過去には「ドコモ口座」問題も
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セキュリティ問題もついてまわり、たびたび悪用が問題になっていた。
典型的なのが「ドコモ口座」問題で、dアカウントの回線にひも付かない「キャリアフリー」アカウントを使って銀行口座とのひも付けを行う「口座振替」の仕組みを利用し、悪意のある第三者が他人の銀行残高をドコモの「d払い」サービス経由で引き出して換金しやすい商品を購入するというもの。
誰でも簡単にdアカウントが作れることを悪用したもので、dアカウントになる前のdocomo ID時代には回線認証に伴う本人確認が実施されていたため、本来は起こりえない現象だった。後にキャリアフリーアカウントでもeKYCのような本人確認が必須とされた。
また「d払い」はたびたび悪用が問題となっており、頻繁にログアウトして回線認証を求める仕組みを導入せざるを得ないなど、一時期使い勝手を悪化させる仕様変更が行われたりした。こうした事象を繰り返し、現在のdアカウントの悪評が蓄積されていったと考えられる。
●子会社化で住信SBIネット銀行はどうなる
今回話題に上った「dアカウント」に関するあれこれは、住信SBIネット銀行がドコモ傘下になることでフロントのUI/UXがドコモ関連のアプリへと統合され、加えて認証にdアカウントが必須になるのではないかという懸念から来るものだろう。将来的に可能性がゼロとは言わないものの、筆者の考えでは「住信SBIネット銀行の強みを消すような統合は当面行わない」だ。
ドコモが欲していたのは「さまざまな金融サービスを提供するのに必要なコアとなる銀行口座」だ。給与の振込口座に、ローンを含む各種支払いを行うための銀行口座を自前で持つことで、大量のトランザクションが発生する。
ドコモの契約回線数は24年時点で9000万を突破しているが、仮にアクティブな回線の3割程度の顧客を銀行口座のユーザーで獲得できるとして、すでに国内メガバンクに匹敵する口座数を抱えることになる。これを普段使いの口座としてもらえれば、住信SBIネット銀行がドコモ傘下に入るだけで一気に銀行大手に躍り出ることになる。ドコモとしても、ひも付く金融サービスを次々と提供することでトランザクションの増加による手数料収入も増え、さらに周辺サービスや口座を利用する機会も拡大することになる。
想像にはなるが、ドコモが提供するいずれかのモバイルアプリから住信SBIネット銀行の残高や送金機能が利用できるような仕組みが提供され、表向きは「ドコモの銀行サービス」としてブランディングされた住信SBIネット銀行の既存口座をそのまま利用する形になるのではないか。
こう考える理由として、すでにドコモ内部の顧客管理システムが限界にきており、これを整理しない限り、すでにきちんと動作している銀行サービスにとってマイナスでしかないと思われるからだ。そのため、最初の認証部分だけdアカウント経由だったとしても、銀行口座や住信SBIネット銀行が提供する基本的なモバイルアプリなどの機能はそのまま残ると考えている。
ポイントプログラムについても同様で、Vポイント連携などの機能はそのままに、新たにdポイントが付与されるようなイメージを想像する。ユーザーから見た子会社化後の住信SBIネット銀行は、"ガワ"だけがドコモナイズされた状態で当面は走るのではと予想する。
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