
第三者の精子や卵子を使った不妊治療のルールを決める初めての法案が今の国会に提出されています。法案は、「精子や卵子を提供した人の情報を知ることができる制度を定める」としています。ただ、治療を受けられるのは「法律婚の夫婦だけ」で事実婚や同性カップル、独身女性などは対象になっていません。こうした法案に、当事者からは、不安の声が上がっています。
【写真を見る】不妊治療のルールを定める法案に不安の声を上げる当事者たち
「自分って一体何者なのかな」精子・卵子提供の法案に反対の声精子提供で子どもを授かった 戸井田かおりさん
「私達の声が完全に無視されていると、多くの当事者は感じています」
5日、都内に集まったのは、国会に提出されている、精子や卵子を使った不妊治療のルールを定める法案に反対する人たちです。
日本では77年前に第三者の精子提供による人工授精が始まり、これまでに1万人以上が誕生したとされていますが、精子の提供者が誰なのかを子どもが知る、「出自を知る権利」について法的なルールはありません。
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法案では、子どもは18歳になると提供者に関する情報を請求できますが、一律で開示されるのは身長・血液型・年齢など個人が特定されない情報に限られていて、名前などのより詳しい情報は、提供者の了承が得られなければ開示されないことになっています。
精子提供で生まれた当事者は、これでは不十分だと訴えています。
23歳のときに精子提供で生まれたことを母親から知らされた石塚さん。長年その事実を隠されてきたことにショックを受けました。
第三者からの精子提供で生まれた 石塚幸子さん
「(母親から)『誰の精子を使ったかはわからないからね』と言われました。自分って一体何者なのかなと、そういうことがやっぱり不安になる」
石塚さんは「出自を知る権利」が、“提供者側の判断に委ねられるのはおかしい”と訴えます。
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第三者からの精子提供で生まれた 石塚幸子さん
「知りたいと思ったときに、何をどこまで知りたいのかは子どもに決めさせてほしいし、それができて初めて、出自を知る権利を子どもが持っていると言えるのだと思います」
この法案について不安の声が上がっているのは、子どもたちの「出自を知る権利」の話だけではありません。
法案では、第三者の精子・卵子を使用した不妊治療を受けることができるのは「法律婚」をしている夫婦に限定。それ以外の人たちは治療の対象外になっていて、事実婚の男女や同性カップル、選択的シングルマザーなどから懸念の声が上がっています。
がんで闘病中の富田さん(26)もその一人です。がん治療にかかわる高額な医療費の自己負担額が世帯の所得によって変わるため、法律婚に踏み切れないでいます。
富田さん
「将来のことを考えたときには法律婚の方が自分に何があっても安心なんですが、生きるために事実婚を選んでいるという感じです」
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パートナーとは将来、卵子提供を受けて子どもをもうけることを話し合っていますが、法案が成立すれば「不妊治療を受けられなくなってしまう」と不安を感じています。
富田さん
「子どもを持てるかもしれない。将来に向かって前向きに頑張ってみよう、治療してみよう、きっとつらいことばかりじゃないと思ってやっているのに、その選択肢を奪われるというのは、どこを目指して頑張っていけばいいのかが迷子になる感覚ですかね」
野党の反対もあり、法案の本格的な審議が始まる見通しは立っていませんが、生まれてくる子どもと、子どもを望む人に寄り添った議論が求められています。
不妊治療の対象は法律婚だけ?提供者の情報を知る制度は?小川彩佳キャスター:
国会に提出されている法案の2つのポイントを紹介しましたが、治療を受けられるのは法律婚の夫婦だけとなっている点についてどのように感じていますか?
トラウデン直美さん:
法律婚の夫婦だけということは、さまざまな事情があって事実婚をされている方や、同性カップルも不妊治療は受けられないことになる。
これまでは選択肢としてあったものが、法律ができることによって選択肢がなくなってしまうという制限がかかってしまうのは、希望がなくなってしまうような感じもあります。
家族のカタチが多様になっているので、そういったことはしっかりと鑑みる必要があるかなと思います。なんでも外国を真似すればいいわけではないですが、特に事実婚は諸外国でも認められているケースが多いです。そういったところも議論を前に進めていくうえで考えなければならないポイントかと思います。
小川キャスター:
誰のための、何のための法律なのかというところに立ち返りながら議論を進めていただきたいと思います。
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<プロフィール>
トラウデン直美さん
Forbes JAPAN「世界を変える30歳未満」受賞
趣味は乗馬・園芸・旅行