「Apple Design Awards」の変遷と開発者にも求められる社会的責任 2025年の受賞作品はこれだ!

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2025年06月06日 06:11  ITmedia PC USER

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1997年から、Appleが優れたデザインのソフトウェアを選出して表彰している「Apple Design Awards」。

 商品が3Dモデルとして空中に表示され、手の動きだけで回転させ、実際のサイズと比較検討できる。これは2025年の「Apple Design Awards 2025」を受賞した「淘宝(Taobao)」のApple Vision Pro用アプリで得られる体験だ。


【その他の画像】


 多くの人が「Apple Vision Proでまさにこんなことをやってみたかった」と思い描いていた体験ではなかろうか。にも関わらずこのアプリは、これまで注目を浴びてこなかった。


 同様の知られざる秀逸アプリは、iPhoneやiPad、Macにも多数ある。


 筆者の試算ではApp Storeには2024年だけでも、おそらく17万本強のアプリが追加されている。App Storeでは、それらをできるだけ多くピックアップして紹介しているが、これだけの量があると、なかなかその中の面白いソフトを見つけ出すのは難しい。


 そもそもApp Storeの説明は、搭載する機能や何ができるかの話が中心で、得られる体験にまで切り込んでいることは少ない。


 そのような中で、その年に登場した秀逸なアプリを発見できる取り組みが、Appleが毎年この時期に発表しているApple Design Awardsだ。全てのアプリを、少なくとも1度は審査で目通ししているAppleだからこそ選べる厳選アプリばかりで、未来の潮流を先取りしたい人、アプリ開発の参考にしたい人には必見のリストとなっている。


 アワードは部門ごとに「喜びと楽しさ」「イノベーション」「インタラクション」「インクルージョン」「ソーシャルインパクト」「ビジュアルとグラフィック」の6つがあり、それぞれに対して一般アプリとゲームアプリを1本ずつ選んでいる(このため受賞リストは面白ゲームを探している人にも必見となっている)。


 それでは、Apple Design Awards 2025ではどんなアプリが受賞したかを早速見てみよう。


●「喜びと楽しさ」部門


 本部門はAppleのテクノロジーによって強化された、印象に残り、魅力的で満足感を与える体験を提供している作品に授与される。


受賞作品:HappyPlan Tech(中国)「CapWords」


 受賞したCapWordsは、身の回りのものをカメラ撮影すると、それを単語学習のためのステッカーにしてしまう言語学習ツールで、9つの言語に対応している。撮影したものを次々と画像認識してステッカーとして蓄積してくれるので、ユーザーもついつい楽しくて身の回りのものを撮影しまくって収集、それによってボキャブラリーも増えていくという楽しい学習体験を提供している。


受賞ゲーム作品:LocalThunk(カナダ)「Balatro 」


 ポーカーとソリティア、ローグライクを組み合わせたカードゲームがBalatroだ。ジョーカーカードの特殊能力とポーカーの役を組み合わせて、無限のシナジーを作り出す。単純なルールから生まれる複雑な戦略性により、初心者でも楽しめながら極めるには深い思考が必要な「創発的ゲームプレイ」を実現している。熟練者と初心者の双方が楽しめる。


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・Raja V「Lumy」


・Feel Good Tech「Denim」


・Panic「Thank Goodness You're Here!」


・Ubisoft Montpellier「プリンス オブ ペルシャ 失われた王冠」


●「イノベーション」部門


 Appleのテクノロジーを斬新な方法で活用し、最先端の体験を提供した作品に授与される。


受賞作品:Rabbit 3 Times(米国)「Play」


 ゲームのような名前だが、アプリ開発のためのツールだ。SwiftUIという技術を使った美しいアニメーション効果などを採用した洗練されたモバイルアプリの画面デザイン(プロトタイプ)を、簡単な操作で作り出すことができる。Mac上で行ったコードの変更が即座にiPhone上で確認できるといった使いやすさから定評があり、数々の人気アプリの開発に使われた実績もある。


受賞ゲーム作品:Philipp Stollenmayer(ドイツ)「PBJ − The Musical」


 切り絵を使ったアート作品であり、ミュージカル作品でもあり、それでいてゲームでもある。食材キャラクターがシェークスピア劇を演じるユニークなリズムゲーム「PBJ - The Musical」。触覚フィードバック、巧みなカメラワーク、楽しい会話を駆使しており、まるでアプリそのものがアート作品のようなゲームだ。


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・Music.AI「Moises」


・Digital Workroom Ltd「Capybara」


・Bootloader Studio Holdings Private Limited「Pawz」


・Resolution Games AB「ギア&グー」


●「インタラクション」部門


 プラットフォームに合わせて完璧に調整された直感的なインタフェースと、簡単な操作を提供した作品に授与される。


受賞作品:Zhejiang Taobao Network(中国)「淘宝(Taobao)」


 冒頭でも紹介したApple Vision Pro用の「淘宝」(Taobao)製ショッピングアプリで、実世界の製品と比較できる3Dモデルを表示する。「臨場感あふれる体験はユーザーのショッピングを向上させ、配置、位置、コントロール、サイズ、機能を考慮して、人々が幅広い品ぞろえの中から商品を並べて比較できる」点が評価された。


受賞ゲーム作品:Black Salt Games(ニュージーランド)「DREDGE」


 釣り船を操縦して不気味な島々を巡り、見慣れない野生動物を発見したり、あちこちに現れる謎の全貌を解き明かしたりするゲーム。探索や冒険の物語を、じわじわと迫り来るホラー映画的な恐怖とうまく融合している。iPhone/iPad/Macのいずれのプラットフォームでも自然なインタラクションを楽しめると評された。


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・Information Architects AG「iA Writer」


・Silvio Rizzi「Mela - Recipe Manager」


・Resolution Games AB「ギア&グー」


・Snowman「スケートシティ:ニューヨーク」


●「インクルージョン」部門


 さまざまな背景や能力、言語の違いを受け入れ、全ての利用者に等しく優れた体験をもたらしている作品に授与される。


受賞作品:Speechify(米国)「Speechify」


 テキストを読み上げる音声合成アプリで、50以上の言語に対応し日本語の発声もきれいと定評がある。ダイナミックタイプやVoiceOverといったiOSの標準機能と連携可能で、失読症やADHDの利用者の支援にも役立っている。


受賞ゲーム作品:Klemens Strasser(オーストリア)「Art of Fauna」


 18〜19世紀の野生動物のヴィンテージイラストを使ったパズルゲームで、著名な博物学者や画家による歴史的な科学出版物のイラストを題材に、プレイヤーは美しい動物の絵を再構築するか、各動物の説明文を組み立て直すかを選択できる。


 VoiceOver/VoiceControl/Switch Controlなどに完全対応することで、視覚障害者も同等にプレイできる設計になっているという。失読症に配慮したフォント、カスタマイズ可能な色設定、理解しやすい簡略化テキスト、特定動物を隠すコンテンツフィルターなど、多様な障害やニーズに対応した包括的なアクセシビリティー機能を搭載している。ピースの位置情報読み上げなど、VoiceOver体験も細かくカスタマイズ可能だ。


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・GTA Solutions「Evolve」


・Train Fitness「Train Fitness」


・Lykke Studios「puffies.v」


・Split Atom Labs「Land of Livia」


●「ソーシャルインパクト」部門


 重要な問題に光を当て、意義深い方法で生活を向上させる作品に授与される。


受賞作品:Sherwood Forestry Service(米国)「Watch Duty」


 甚大な被害をもたらした南カリフォルニアの山火事の際、最新情報/避難情報/重要なリソースを分かりやすく確実に提供し、多くの人々のライフラインとなったアプリ。現在の火の境界や進行状況、風速と風向き、避難指示なども分かる。


受賞ゲーム作品:Developer Digital(米国)「Neva」


 目を見張るよう美しいグラフィックと心を揺さぶるストーリーを持つ、環境破壊がテーマの感動的アドベンチャーゲームで、崩壊していく美しい世界を舞台に、1人の少女とそのパートナーであるオオカミの冒険を描いた作品だ。季節の移ろいとともに彼らの関係も変わっていき、互いを思う気持ち、つながり、環境喪失の代償について静かに考えさせられる。


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・Snapwise「Ground News」


・Opal OS「Opal」


・Daniel Jones「Ahoy! From Picardy」


・Klemens Strasser「Art of Fauna」


●「ビジュアルとグラフィック」部門


 圧倒的に美しい画像表現と洗練されたインタフェースデザイン、高品質なアニメーションを通じて、独特でありながら一貫性のあるテーマを体現したアプリに授与される。


受賞作品:Sketchsoft(韓国)「Feather: 3Dお絵かき」


 Apple Pencilで描いた絵を簡単に3D作品に変換できるツール。創造性とユーザー体験に重点を置いて開発され、画才の有無に関わらず誰でもiPad上で高度な3Dモデルをデザインできる。専門的な3DCGソフトに挫折した多くの人々にとって、「Feather」は創造性への「第二の扉」となる可能性を秘めている。


受賞ゲーム作品:Infold Games(シンガポール)「Infinity Nikki」


 戦闘要素を意図的に排除し、リラックスした探索、パズル解決、自己表現に重点を置いた「癒し系」の世界観が特徴のオープンワールドアドベンチャーで、特殊な衣装によって浮遊/滑空/縮小などの能力を獲得し、マップの移動やパズル解決に活用する。色や細部の描写の細かさなどが高く評価された。


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・Monkey Taps「Vocabulary」


・Timothy Davison「CellWalk」


・Remedy Entertainment PLC「Control Ultimate Edition」


・Devolver Digital「Neva」


●Apple Design Awardsの変遷と開発者にも求められる社会的責任


 国際色豊かな受賞者たちは6月9日から開催される「WWDC25」(世界開発者会議)の授賞式で、タッチすると光るAppleロゴを内蔵した3.9型のアルミキューブのトロフィーが贈呈される。


 2025年の受賞者は、特にアジア勢の奮闘ぶりが目立ったが、残念ながら日本からの入選作はなかった。日本からの入選は、2023年のCAPCOM「バイオハザード ヴィレッジ」が「ビジュアルとグラフィック」のゲーム賞を受賞したのが最後だ。


 1997年にスティーブ・ジョブズ氏の復帰と共にスタートした同アワード。最初は「Human Interface Design Excellence Awards(HIDE Awards)」として始まった。


 Apple製品は優れた操作性(ヒューマンインタフェース)が自慢だが、OSとApple製品の操作性だけが優れていても、他社製ソフトの操作性が優れていないと、それによってApple製品の印象も悪くなってしまう。そこで、他社製ソフトの操作性も向上させようと始まったアワードだ。


 初期の受賞作品は「美しいUI」や「革新的な機能」に焦点を当てていたが、近年になって「社会的インパクト」や「インクルージョン」といった価値観も重視し、受賞カテゴリーとして追加するようになった。


 これは、Appleが影響力の大きいテクノロジー企業だからこそ必要な社会に対する責任を自覚し、それを自社だけで実践するのではなく、Appleの生態系を支える開発者たちにも広めようとする姿勢だと考えていいだろう。


 ちょうどAppleは環境への取り組みで、自社だけでなくサプライヤーにも再生エネルギーを活用して炭素排出を抑えるように呼びかけているが、それに似たものを筆者は感じている。


 本格的なAIの時代になり、テクノロジーは我々の生活のさらに深部に大きな影響を与えようとしている。


 Apple Design Awardsの受賞を目指すなら、そもそもどんなアプリを作って、社会にどんな価値を提供しようとしているかをしっかり考えることこそが大事な一歩だと言えそうだ。



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