※画像はイメージです「一寸先は闇」な昨今。日本のみならず、世界中で不況の波がジワジワと押し寄せていることは否めません。とくに、度々ニュースで取り上げられる「リストラ」報道は他人事とは感じられない人も多いのではないでしょうか?
今回取材したのは、定年退職目前で「まさか」の出来事に見舞われた男性のエピソードです。
◆意識するようになった定年退職
業界でもそこそこの知名度を誇る上場企業に勤めていた真砂さん(仮名・58歳)。昇進こそ同期にいつも一歩リードされていましたが、定年間際でようやく品質管理課の課長へ昇進したそうです。
「本当は同期のようにもっと早く出世を夢見ていたのですが、これが実力というやつですね。でも、定年間際にはなってしまいましたが、課長に昇進できたことは嬉しい限りです。妻にも少しは胸を張ることができそうです。
あと、私の会社は定年退職の時期を60歳〜65歳の間で決めることができるので、最近はその時期について妻ともよく話し合っています」
念願の課長職を得た真砂さんですが、正直なところ、後2年はお世話になった会社に尽力して60歳で定年することを検討し始めていたそうです。
◆退職金を当てにした人生設計
課長職になった真砂さんは、今までは聞けなかった退職金の額について、昼休みや、たまの飲み会などを利用して同期にさぐりを入れるようになりました。
「今までは、同期といえども所詮地位が異なるので、なかなか突っ込んだ話ができませんでした。ましてや、それまでの私よりはるかに給料が多い部長や課長クラスの同期に尋ねたところで、あまり参考にならなかったからです」
今回昇進したことで、退職金の額についてもいろいろと情報を入手することができた真砂さん。あくまでも予測の域を越えないと言っていましたが、前職の主任級から比較するとかなり高額になっていることが判明したといいます。
「想像していた以上に課長職の退職金額は高額でした。その情報をつかんでから私の定年後のプランが次々と湧いてきました」
◆リフォームへのゴーサイン
日を追うごとに60歳定年退職が頭から離れない真砂さんは、東京都下の3LDKマンションのリフォームを検討し始めました。
「リフォームのことは、以前から計画があったのですが、なかなか思い切れなくて、今回の昇進を機に妻も賛成してくれました。それに、同僚にリサーチした退職金額も想定以上でしたので、前倒しで退職より前にリフォームに取りかかる計画を立てました」
そんな中、昨今の物価高の影響もあるためか「これから資材の価格がどんどん上昇しますから、発注は早期にされたほうがよいです」とリフォーム業者からアドバイスを受けたそうです。
「たしかに、住宅用の資材が値上がりしていることは知っていたので、妻とも相談して退職金が出るまでは銀行から繋ぎ融資で資金を調達することになりました」
その後、とんとん拍子でリフォームが始まった真砂家。リフォーム中は、千葉にある真砂さんの実家に一時的にお世話になることになりました。
◆寝耳に水のネットニュース
ところが、数週間後の朝、真砂さんは通勤電車の中で驚きのニュースを目にしました。なんと、真砂さんの会社が海外の会社に買収されるという内容です。
「一瞬、めまいがして倒れそうになり吊り革を強く握りしめたのを覚えています。自分の会社がこんなにも簡単に買収されるなんて夢にも思いませんでした。
会社に着くと、部署内ではその話題でもちきりでした。ただ、誰も会社の現状は分からないらしく、不安な表情を浮かべる面々がそこにはいました」
翌日、会社のHPを見ると、正式なアナウンスが掲載されていたそうです。その内容は、買収してきた海外企業が、まもなく開催される取締役会で経営陣の刷新を行うというもの。
その数日後、真砂さんは耳を疑うような説明を受けたといいます。
「不謹慎ですが、もう笑うしかないような話でした。今回の買収の影響で自身の役職は見直され、平社員に降格するか、リストラに応じるかの二択というものでした。いずれにしてもリフォームどころではなくなりました。銀行から融資を受けましたし……。定年退職どころか、新たに職探しですよ」
その後、真砂さんは自宅マンションを売却し、千葉の実家に戻って職を探しているそうです。
<TEXT/八木正規>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営