サッカー日本代表の「化けの皮がはがれた」オーストラリア戦 適性を無視したシステムが描く深刻な未来図

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2025年06月06日 18:20  webスポルティーバ

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 2026年W杯アジア最終予選、サッカー日本代表は敵地でオーストラリアと対戦し、0−1で敗れた。

 日本はすでに本大会出場を決め、1軍半にも満たないメンバーで、モチベーションも戦力も(通常より)劣っていた。一方のオーストラリアは本大会出場を懸けた戦いの真っ只中で、ホームで「絶対に勝ち点を取る」と意気盛んだった。その差は大きく、終盤の失点はショッキングでも、結果そのものは問題ではない。

 深刻なのは、森保ジャパンの「化けの皮がはがれた」という事実で、このまま本大会に突入していく未来だ。

 先発した鎌田大地は、苦しんだシーズンも最後はFAカップ優勝の殊勲者になったように、この日も実力を見せつけた。

 ボールキープ力は絶大。戦術的センスにも優れ、相手との間合いを感じ取って、シャドーから3列目の左に落ち、ボールを受けると巧みに前へ運んでいった。相手がそのルートを消しにきてボールを失う場面もあったが、それを奪い返せる切り替えの強度は、トップレベルの舞台でプレーを重ねている選手の証だった。

 交代で出場した久保建英も、ラ・リーガのレアル・ソシエダでエースの称号を得た実力を示していた。

 1対1で相手に飛び込ませない。それ以上にコンビネーション力は世界屈指で、ライン間に入った鈴木唯人にすかさずパスを入れ、ワンツーで抜け出し、決定的なクロスを折り返したシーンは"静かな怖さ"があった。一瞬で勝負を決められるというのか。その後、セカンドボールを拾って完全に相手を外し、右足で打ったシュートが外れた場面は、むしろ本人が「決めて当然」と悔しがるレベルだろう。

 ふたりとも高みに到達した選手であり、ピッチで不完全なシステムを運用していた。

 しかし、森保ジャパンの限界はここにある。

 欧州の最前線にいる選手たちは森保ジャパンの根幹と言える。そのため、有力選手が抜けると、途端に戦術システムの不具合が露になる。「システムありき」で中身は乏しい。選手が本来の力を出しきれないのだ。

【3−4−2−1完成のイメージができない】

 たとえば、代表デビューになった俵積田晃太は左ウイングバックで先発したが、空回りしていた。所属するFC東京ではシャドーを担当しており、無理もない(彼は本来、シャドーにも適性はなく、生粋のサイドアタッカーなのだが)。左足クロスは惨憺たるものだった。弱く不正確。ユースレベルで、インサイドを切られたら何もできなかったのである。

 なぜ、森保一監督は3−4−2−1というフォーメーションにこだわるのか。三笘薫や中村敬斗のようなヨーロッパのトップリーグで二桁得点するアタッカーを左ウイングバックで起用するのは宝の持ち腐れである。そもそも、左ウイングバックは本来、左利きが基本(レバークーゼンのアレハンドロ・グリマルドやインテルのフェデリコ・ディマルコなど)。しかも大外からクロスを入れるので、セットとして高さのあるセンターフォワードがいるのも条件だ。

 オーストラリア戦は、たとえクロスを入れても、先発メンバーに高さで勝てる選手はいなかった。これでは、どこまでいってもシステム完成のイメージができない。永遠の迷路のようだ。

 指揮官は3−4−2−1というシステムのなかに選手を当てはめているが、そこら中で不具合が起きている。ボール支配率は高く、「決めきっていれば」という意見もあるが、決定機は多くなかった。歪みのせいで、オーストラリアの人海戦術も崩しきれなかったのである。また、GKの谷晃生が相手に流れを与えるようなパスミスを連続する破綻も生じていた。

 オーストラリア戦の唯一の収穫は右ウイングバックを務めた平河悠だろう。代表デビューらしくエネルギッシュなプレーで、左右両足のミドルなど可能性を感じさせた。また、右利きで右ウイングバックに入ったことで、シンプルに右足でクロスを狙えた。適性を証明したが、不思議ではない。彼は所属するブリストル・シティでも右ウイングバックを経験しているからだ(クロスの精度にやや難はあったし、中とのコミュニケーションもないに等しかったが)。

 そしてその平河も、不具合を解決できなかった。

 失点シーンでは、鎌田が鈴木との呼吸が合わずにパスミス、一度は攻撃を封じてスローインにした。ここで戻したボールに対し、亀裂が生まれる。前は寄せたが、最終ラインは押し上げが緩慢で、ライン間の相手選手にボールが入る。慌てた藤田譲瑠チマが食いつき、背後にスペースが生まれる。再びパスを差し込まれた際、瀬古歩夢が内側に入られる失態を犯し折り返される。広大な空間からアジズ・ベヒッチにシュートを打ちこまれた。

 この時、平河は献身的に最終ラインまで戻っていたが、"頑張りすぎ"だった。数的同数のなかで、エリア内に入ってきた敵に対しては、自分と対峙していたシューター(左ウイングバックのベヒッチ)を逃してはならなかった。言うならば、アリバイ的に下がりすぎていた。ディフェンダーではない彼の本質が出てしまったのだ。

 森保ジャパンは「史上最強」の戦力を手にしている。しかし、実状は有力な個人が、どうにか戦術運用していたにすぎない。適性を無視したシステムでは、本大会では強豪を前にノッキングし、「必死に守り、一発にかける!」という玉砕戦に転じるしかないだろう。それはヘビーな未来図だ。

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