
オーストラリアにとってこれほど痛快な勝利はないだろう。AFCのデータによれば、ボール支配率は31.3%対68.7%の関係で、後半45分までチャンスはないに等しかった。終始日本に押されまくっていた。このまま何事もなく終わってくれ。0−0でタイムアップの笛を聞くことができればそれでオッケー......と思っていた90分間のラスト数秒で、アジズ・ベヒッチの右足シュートが決まった瞬間、何よりパースのスタジアムを埋めた6万人近くの観衆が驚愕したに違いない。
これほど一方的に試合を優勢に進めながら敗れるとは。それは日本にとって屈辱的な光景だった。"サッカーあるある"と言えばそれまでだが、実際は滅多に見られない試合であり、恥ずかしくも情けない試合だった。
すでに世界最速でW杯本大会出場を決めた日本にとって、このオーストラリア戦は消化試合だった。「W杯本大会の抽選でいいポットに入るためにもFIFAランクを維持したい」「本大会に向けて負けていい試合はひとつもない」と言ったのは、山本昌邦ナショナルチームダイレクター(ND)と森保一監督だが、そうは言いながらも、今回の招集ではフィールドプレーヤーの約6割を入れ替えていた。このオーストラリアとのアウェー戦の先発メンバーも、従来のスタメン級は町田浩樹と鎌田大地に限られていた。
日本の布陣を紹介すれば以下のようになる。
GK/谷晃生、CB/町田、渡辺剛、関根大輝、WB/俵積田晃太、平河悠、MF/佐野海舟、藤田譲瑠チマ、2シャドー/鎌田、鈴木唯人、CF/大橋祐紀(各ポジション左から)。
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まったくの新顔2人(平河、俵積田)を含む実験的メンバーでオーストラリアに臨めばさすがに苦戦するだろう。山本NDや森保監督の言葉が嘘っぽく感じられたものだが、試合が始まるや、こちらの読みが外れたことに気づかされた。
攻める日本、守るオーストラリアという構図が鮮明になったのだ。オーストラリアが5バックで引いて構えたことも輪を掛けたが、それ以上に感じられたのは両軍の戦力差だ。選手個々のクオリティの違いが鮮明になった。
【息が合わないのは当たり前】
日本の11人の顔ぶれは新鮮だった。これまで口酸っぱく若手を使えと言い続けてきた筆者にとっては喜ばしい限りであると言いたいところだが、次第にこの実験的なメンバーの問題点が浮き彫りになっていく。
一度にこれだけの選手を変えれば、継続性、すなわち積み上げてきた土台が失われる。パスコースはよく3角形で表わされるが、3人のうちふたりが変われば、新たなコンビネーションを築く必要が生まれる。3人中ひとりなら難しくないが、この試合では場所によっては3人のうち0人だった。息が合わないのは当たり前だ。
これで「テスト」と言われても、不合格者は続出する。クオリティは高そうに見える選手も、適任者には映りにくい。新顔にとっては厳しすぎるテストになる。前半から単独ドリブルばかり強いられ、結果的に単調に映ることになった左WB俵積田はその犠牲者と言える。後半19分、その俵積田とともにベンチに下がった佐野しかり。脇にいるのは遠藤航や守田英正ではなく、代表歴で言えば後輩にあたる藤田だ。久々に招集された佐野にとって、設定の厳しいテストとなった。
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俵積田、佐野に代わって投入されたのは、久保建英と中村敬斗だった。後半に入っても高いボール支配率を誇ったが、それは結果的に攻めあぐむ状態を露呈させることになった。久保、中村が入ればさすがに流れは変わるだろう。誰もがそう思ったはずだった。
右のシャドーに入った久保は投入されるや、格の違いを見せるようなボールさばきを披露した。ところが時間とともに存在感を希薄にしていく。右WBの中村に至ってはプレー機会そのものに恵まれなかった。彼らにしても、代表の常連組とはいえ、ピッチ上には常連組ではない選手が半分以上を占める。彼らと周囲の息が合わないのは当然なのだ。
後半25分、森保監督は1トップをすげ替える。大橋に代え町野修斗を投入した。大橋の話をすれば、1トップは言い換えれば攻撃の軸、中心選手である。ボール支配率の高い遅攻が続けばとなればなおさらである。だが、彼も周囲と満足に絡めずに終わった。
【可能性を感じさせた平河、鈴木】
従来からCFの生かし方に策がないのが森保サッカーである。上田綺世、前田大然、小川航基、古橋亨梧と、誰が出ても同じ現象を招く。今回は、周囲とのコンビネーションが働きにくい分、それがより顕著となった。
大橋と交代した町野は、今季のブンデスリーガでキールという弱小チームに在籍しながら11ゴールを奪い、「化けたのではないか」と期待された選手である。だが、20分の出場で見せ場はなかった。繰り返すが、ボール支配率で68.7%を誇ったにもかかわらずだ。
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新戦力過多というメンバー構成に加え、CFが機能しないという従来からの問題も露呈した結果だと言える。
そうしたなかで、次がありそうなプレーを見せたのは右WBの平河だった。新人ながら周囲とよく絡み、ドリブルのみならず多彩なプレーを発揮した。右足も左足も等しく使う、言ってみれば両利きだ。欧州一に輝いたパリ・サンジェスマンのウスマン・デンベレ系の選手。現在の日本代表においては貴重なタイプだ。次回は左でプレーする姿が見たい。
右のシャドーとして先発した鈴木唯人も何度か目を見張るプレーを見せた。次がありそうな可能性を感じさせたが、周囲とのコンビネーションには難があった。久保の投入を機に左に回ったが、うまくハマったとは言い難い。これは選手の問題というよりベンチの問題である。あらためて念を押しておきたい。
この0−1の敗戦は、FIFAランクに悪い影響を及ぼす敗戦だろう。山本NDはどう見るのか。
だが、それ以上に大きな問題は、68.3%も支配しながら、チャンスらしいチャンスがなかったことだ。格下に対して、いわゆる決定機はゼロ。W杯の抽選会で晴れて(上から2番目の)第2ポットに入れても、互角ないし少し落ちる相手に対し、いまの森保式サッカーでは苦戦必至である。
2022年カタールW杯のコスタリカ戦を彷彿させるような、今回のオーストラリア戦だった。