
ダイヤモンドリーグは単日開催(最終戦のみ2日間)では世界最高レベルの陸上競技会で、今年は4月16日の厦門(中国)大会から8月27〜28日のチューリッヒ(スイス)大会まで15大会が開催される。4〜5月には厦門、上海紹興(中国・5月3日)、ドーハ(カタール・5月16日)、ラバト(モロッコ・5月25日)の4大会が行われた。世界記録保持者やオリンピック&世界陸上の金メダリスト、日本のトップ選手たちが、東京2025世界陸上に向けてどんなスタートを切ったのだろうか。
【一覧】9月13日開幕『東京2025世界陸上』日程&出場選手
デュプランティスは「東京世界陸上に向けてハードトレーニング」いきなり全開というわけではないが、世界記録保持者たちが4〜5月のダイヤモンドリーグで元気な姿を見せた。
棒高跳世界記録保持者のアーマンド・デュプランティス(25、スウェーデン)が厦門大会5m92、上海紹興大会6m11と2連勝した。20年2月の6m17から今年2月の6m27まで、世界記録を1cm刻みで11回更新してきた選手。上海紹興の6m11はパリ五輪の銀メダル記録(5m95)を大きく上回るが、デュプランティスは自身の跳躍に「踏み切りも助走も、あまり良い感触ではありませんでした」と課題を感じた。
「ベストコンディションでないことを考えれば、良い試技だったかもしれません。スピードの向上に引き続き取り組み、今後1か月は試合出場を控え、強めのトレーニングをします。そうすることで9月の東京世界陸上に向けて、ケガなく良いシーズンの流れにできると確信しています」
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400mハードルで世界で唯一45秒台(45秒94)を持つカルステン・ワーホルム(29、ノルウェー)は、厦門大会300mハードルで33秒05の世界記録をマーク。上海紹興では47秒28の今季世界最高記録で優勝した。
「(上海紹興は)何台かハードルにぶつける混乱したレースでした。その中で47秒28は悪くないし、自分のポテンシャルを示すことができた」
国立競技場は21年東京五輪で、ワーホルムが45秒94をマークしたトラック。今年最大のターゲットは同じ会場で行われる東京2025世界陸上だ。上海紹興大会のレース後には「拠点に戻ってトレーニングをする」と、デュプランティスと同じコメントをして帰国した。
2人の他にも世界記録保持者たちが4〜5月のダイヤモンドリーグに出場した。女子10000mで唯一の28分台(28分54秒14)を持つベアトリス・チェベト(25、ケニア)は厦門大会5000mに14分27秒12で優勝。上海紹興大会3000mでは世界歴代2位の8分11秒56と、過去32年間では最高タイムで走った。
女子走高跳で2m10の世界記録を持つヤロスラワ・マフチク(23、ウクライナ)は厦門大会1m97、上海紹興大会2m00と2連勝。ダイヤモンドリーグではないが、5月9日にドーハで2m02もクリア。同18日のゴールデングランプリ(以下GGP)にも1m96で優勝した。
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女子100mハードル世界記録(12秒12)保持者のトビ・アムサン(28、ナイジェリア)は、ラバト大会に12秒45(+1.2m)で優勝。厦門大会、上海紹興大会は連続4位だったが、ダイヤモンドリーグ3試合目で立て直した。世界記録を出した22年オレゴン世界陸上は快勝したが、23年ブダペスト世界陸上は6位、昨年のパリ五輪は準決勝止まりだった。東京世界陸上では世界記録保持者の真の力を見せたい。
女子100mジャマイカの双子姉妹がドーハ大会でワンツー「レースではライバル」ドーハ大会では2人が90mスローの応酬を見せた男子やり投と、双子姉妹がワンツーフィニッシュを飾った女子100mが話題となった。
男子やり投はユリアン・ベーバー(30、ドイツ)が91m06で優勝した。べーバーは21年東京五輪、22年オレゴン世界陸上、23年ブダペスト世界陸上と3大会連続4位の選手。昨年のパリ五輪も6位だった。東京世界陸上で悲願のメダル獲得に挑む。
90m23で2位のニーラジ・チョプラ(27、インド)も、自身初の90m台だった。だがベーバーとは対照的に、21年東京五輪、23年ブダペスト世界陸上と金メダルを獲得。22年オレゴン世界陸上、昨年のパリ五輪も銀メダルと、4年連続2位以内を続けている。ゲンの良い国立競技場で、再び世界一の座を目指す。
ドーハ大会女子100mはティア・クレイトン(20、ジャマイカ)が10秒92(+2.0m)で優勝。双子の妹のティナ・クレイトン(20、ジャマイカ)が11秒02で続いた。
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姉のティアは昨年のパリ五輪で、19歳ながら7位に入賞した。自己記録は10秒86で24年世界6位記録。東京2025世界陸上ではメダルを狙う力がありそうだ。昨年のジャマイカ選手権2位だったティアに対し、妹のティナは同大会で準決勝止まり。ティナの成長が、東京世界陸上姉妹代表のカギを握りそうだ。
ティナはドーハで、今季への意気込みと姉との関係に言及した。
「姉の次の2位になれたことは最高の気分です。一緒にトレーニングをしていますが、レースになったら姉妹ではなくライバルになります。今年は順調に来ています。25年の大きな目標は姉と一緒に東京世界陸上の代表になることです」
それが実現すれば国立競技場で、4×100mリレーでの双子姉妹バトンパスも実現するかもしれない。
男子110mH・村竹ラシッドが2戦連続2位の快進撃日本選手では110mハードルの村竹ラシッド(23、JAL)が厦門、上海紹興と2戦連続で2位、走高跳の赤松諒一(30、SEIBU PRINCE)もドーハ大会2位と好成績を収めた。2人ともパリ五輪5位入賞の力をしっかりと示した。
日本陸連の世界陸上選考規定で、パリ五輪入賞者は今年に入ってからの世界陸上参加標準記録突破で代表に内定する。村竹は13秒27の標準記録を、3000m障害の三浦龍司(23、SUBARU)も8分15秒00の標準記録を厦門大会で突破。すでに代表に決まっていた女子やり投の北口榛花(27、JAL)に続き、トラック&フィールド種目では2、3人目の代表入りを果たした。
村竹は5月18日のGGPにも13秒16(-1.1m)で優勝、同29日のアジア選手権(韓国クミ)でも13秒22(+0.7m)で優勝と、国際大会で結果を出し続けている。まだ記録には表れていないが、今季の目標である「東京世界陸上でのメダルと12秒台」に向けて、しっかりと進んでいることをダイヤモンドリーグでも示した。
三浦はエントリーしていた上海紹興大会を右脚のコンディション不良で回避したが、GGPは8分18秒96で優勝し、ラバト大会にも急きょ参戦した。厦門大会で出した8分10秒11は自身の日本記録に0.19秒と迫るタイムで、4〜5月の間に出したタイムでは自己最高記録。順大で同学年だった村竹と同様、東京世界陸上での「メダル獲得」という目標に向かって進んで行く。
意外だったのが北口の上海紹興大会4位である。ダイヤモンドリーグで3位以内を逃したのは2回目。安定感のある北口にとって、珍しい負け方だった。ダイヤモンドリーグの最終試技の6回目は、上位3人しか投げることができない。上海紹興大会から帰国した際、「5本中1本も真っ直ぐに投げられませんでした」と問題点を自己分析した。「真っ直ぐに投げられれば62〜63mは普通に飛んでいたと思います。(原因は)体の横回転が速すぎて、おそらく手が遠くを通っています。その分、やりが振り回されてしまっている」
ゴールデングランプリでは64m16で優勝。立て直すことに成功していたが、出場予定だったラバト大会を「コンディション不良」(チームがSNSで発表)で欠場した。
豊田兼(22、トヨタ自動車)は厦門大会で1秒07差の3位とワーホルムに食い下がったが、アジア選手権を「腰背部の違和感」のため欠場。サニブラウン アブデルハキーム(26、東レ)、佐藤圭汰(21、駒大4年)、ディーン元気(33、ミズノ)もダイヤモンドリーグは良くなかった。世界陸上本番が9月と、例年より1か月準備期間が取れることを活用し、焦らずに立て直して欲しい。
全員が好成績を残せたわけではないが、これだけの種目でシーズン序盤から日本選手がダイヤモンドリーグに出場することは、以前では考えられなかった。近年の日本のレベルアップを示していると言えるだろう。
【日本選手の4〜5月のダイヤモンドリーグ戦績】
◆厦門大会(4月16日)
■サニブラウン(東レ)
男子100m:10位・10秒42(+0.2m)
■村竹ラシッド(JAL)
男子110mハードル:2位・13秒14(+0.3m)
■泉谷駿介(住友電工)
男子110mハードル:8位・13秒39(+0.3m)
■豊田兼(トヨタ自動車)
男子300mハードル:3位・34秒22
■三浦龍司(SUBARU)
男子3000m障害:6位・8分10秒11
◆上海紹興大会(5月3日)
■佐藤圭汰(駒大4年)
男子5000m:12位・13分19秒58
■村竹ラシッド(JAL)
男子110mハードル:2位・13秒10(+0.6m)
■北口榛花(JAL)
女子やり投:4位・60m88
◆ドーハ大会(5月16日)
■赤松諒一(SEIBU PRINCE)
男子走高跳:2位タイ・2m23
■ディーン元気(ミズノ)
男子やり投:10位・76m49
◆ラバト大会(5月25日)
■三浦龍司(SUBARU)
男子3000m障害:13位・8分13秒39
(TEXT by 寺田辰朗 /フリーライター)