シャープは、ミッドハイでシリーズの標準モデルとなる「AQUOS R10」と、エントリーモデルの「AQUOS wish5」の2機種を発表した。AQUOS R10は、2024年のフルモデルチェンジを受け、開発された後継機。カメラに、「AQUOS R9 Pro」譲りの「14chスペクトルセンサー」を搭載した他、最大輝度を3000ニトまで向上させたディスプレイや音圧、ひずみを改善したスピーカーを搭載する。
対するAQUOS wish5は、3万円台の価格を維持しながらタフネス性能を向上させ、新たに「IPX9」に対応した。これによって、高温高圧の水流にも耐えられるようになった。また、子どもの利用シーンンも想定して、端末を振ると保護者に電話がかかり、位置情報を知らせる機能も搭載した。スペック面では、ディスプレイが120Hzのリフレッシュレートに対応しており、エントリーモデルながら残像感が少なく、滑らかなスクロールをすることが可能になっている。
2機種を見ると、特にAQUOS wish5を強化している印象が強いが、ここには「入口」や「海外」を押さえていきたいシャープの狙いがあった。対するAQUOS R10は、好調だった前モデルの路線から、エコシステムを引き継ぎつつ価格を維持。ハイエンドの資産も流用することで激戦になっている「10万円前後」の市場で勝負に挑む。そんなシャープの戦略に迫った。
●120Hz駆動にIPX9の防水対応と大きく進化したAQUOS wish5
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新モデルとして登場したAQUOS R10、AQUOS wish5だが、どちらかといえば、後者の方が前モデルからの進化の幅が大きい。AQUOS wish4で搭載した6.6型のディスプレイサイズはそのままに、プロセッサをMediaTekの「Dimensity 6300」にリニューアル。処理能力を向上させつつ、ディスプレイも120Hzのリフレッシュレートに対応し、スクロールのガタつきを抑えた。実機に触れてみると分かるが、エントリーモデルとは思えないほど、操作感は向上している。
子どもや法人など、幅広いユーザーが利用するエントリーモデルなだけに、耐久性を上げているのも評価できるポイントといえる。同機は、MIL規格に準拠しており、1.22mの高さからコンクリートに落下させる試験もクリアしている。防水・防塵(じん)の保護等級はIPX9に上がっており、高温、高圧での噴射にも耐えられるようになった。処理能力を底上げしつつ、耐久性も増したというわけだ。
シャープの通信事業本部長を務める中江優晃氏も、AQUOS wish5は「めちゃくちゃ強化している」としながら、「スクロール性能がエントリーモデルとは思えないぐらい滑らか。エントリーモデルで、カクつかない120HzのスクロールができるのはAQUOS wish5ぐらいではないか」と話す。Dimensity 6300はエントリー向けのプロセッサだが、「ディスプレイと中身の制御をがんばって実現した」(同)という。
また、子どもが防犯の用途で使えるよう、新たに「防犯アラート」機能に対応。スマホを強く振ると、大音量のアラームが鳴り、位置情報を保護者などに自動で共有できる。子ども向けの携帯電話などには引き出すことで動作する防犯ブザーが搭載されているが、それをセンサーとソフトウェアで実装したような機能だ。パーソナル通信事業部長を務める川井健氏は、「ファーストスマホとして買われるお客さまを考えて搭載した」とその目的を語る。
シャープは、2024年にAQUOSシリーズのラインアップをフルモデルチェンジしており、デザインにmiyake designの三宅一成氏を起用。人との関わりや空間との調和をテーマに、よりガジェット感を薄めた柔らかな外観を採用した。これは、同シリーズの裾野をより広くするためだ。AQUOS R10とAQUOS wish5でも、このデザインは踏襲している。
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●AQUOS wish5は、若年層の攻略や海外への拡大を狙う役割も
フルモデルチェンジの結果として、AQUOS R9はその前の「AQUOS R8」と比べて「3倍売れた」(中江氏)という。シャープは、AQUOS R9の投入にあたって、Snapdragon 8シリーズの採用をやめ、ハイエンドからミッドハイにカテゴリーを変更することで価格を落としているため、純粋な比較は難しいが、「pro」まで含めた場合でも「1.4倍ぐらいだった」(同)といい、販売数の増加に貢献した。
数だけでなく、ユーザーの中身も少しずつ変わっているようだ。中江氏は、「デザイン単体での評価はなかなか難しい」と前置きしつつも、「分かりやすいところでは、女性比率が少し上がった」と話す。男女比だけでなく、「若干だけ若い、30代のユーザーが取れるようになっている」(同)という変化もあった。
一方で、「僕らの『若い』の定義は少し違う」ともいう。これは、「20代がほとんどiPhone」だからだ。「思っているよりもコミュニティーが狭く、なかなかそこにアプローチするのが難しい」(同)という。実際、学生の間ではiPhoneのシェアが突出して高いというデータもあり、シャープもこの世代の攻略には苦戦している。
対策としてAndroid陣営のメーカーが取り組んでいるのが、「そこより下の層を狙いにいくこと」(川井氏)。最初のスマホとして親に買ってもらい、「そっち(iPhone)に切り替わらないようにする」(同)という地道な戦略だ。より下の年代に普及させることで、時間の経過とともにiPhoneのシェアを崩そうとしているといえる。AQUOS wish5に、ファーストスマホとしての機能を盛り込んできたのは、そのためだ。
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もう1つの市場としてAQUOS wishシリーズで重視しているのが、海外だ。AQUOS wish4でディスプレイを6.6型まで大型化したのは、海外市場の動向を踏まえてのこと。海外では、「大きい画面の方がいい」(パーソナル通信事業部 商品企画部 清水寛幸氏)傾向があるからだ。実際、AQUOS wish4を6.6型にしたことで、「グローバルで受け入れられている」(同)という。
リフレッシュレートの向上など、ディスプレイの強化を図った背景にはこうした市場で優位性を保つ狙いもあるといえる。また、AQUOS wish5とAQUOS R10は、内蔵されるフォントを刷新。日本語に、モリサワの「UD学参丸ゴシック」を採用しているだけでなく、中国語の繁体字フォントも「文鼎UD晶熙黒體」に変えている。ここにも、ファーストスマホや海外への拡大を狙うシャープの意図が込められている。
●スペック向上ではなく中身を磨いたAQUOS R10、チャレンジはproで
性能を底上げし、耐久性も強化したAQUOS wish5に対し、AQUOS R10は、AQUOS R9のマイナーアップデートにも見える。プロセッサを「Snapdragon 7+ Gen 3」に据え置いたことは、こうした見方をする一因といえる。一方で、これは「お客さまがそんなに意識していない」(中江氏)からだという。特に10万円前後のミッドハイにカテゴライズされる端末では、「そこが勝負ではなくなっている」(同)という。
ユーザーが端末を購入する際、「今までAQUOSを使っていたユーザーは、まずAQUOSが選択肢になる」(同)。次に重視されるのは、「今だとカメラ」(同)だ。一定程度の性能になると、「100%の性能を使い続けられるシーンはほぼなく、プロセッサは抑え気味にしているほど」(同)になる。
そのため、AQUOS R10では、冷却を担う「ベイパーチャンバーに力を入れ、プロセッサを変えなくても性能が上がるようにした」(同)。マーケティング的な観点でプロセッサを刷新するのではなく、その性能を引き出せるようなアップデートを図ったというわけだ。
また、カメラもサイズこそ1/1.55型と変わっていないが、センサー自体は一新。AQUOS R9 proに搭載していた、周囲の光を測定する14chスペクトルセンサーを備え、より肉眼に近い色合いで撮れるようになった。また、このモデルも引き続きカメラはライカが監修しており、ミッドハイモデルながら、高い画質を実現している。
逆に、プロセッサだけでなく、あえて本体もAQUOS R9とサイズをそろえた。中江氏によると、「カメラ周りのサイズもそのままで、過去のカラーバリエーション用に出したケースを合わせて使えるようにして、(組み合わせを)より楽しめるようにした」という。
シャープ自身も海外進出はしているものの、上位のグローバルメーカーと比べると販売数は少ないため、ケースのバリエーションも乏しくなる。iPhoneと比べ、どうしても見劣りする部分だ。Androidでも、海外も含めた母数が多いと、海外にある豊富なケースを輸入すれば済むため、品ぞろえは有利になる。こうした弱点を補うため、シャープは2機種のサイズをそろえて母数を増やす手を打ったといえる。
先に挙げたように、AQUOS R9でのリニューアルは成功し、売れ行きも上向いた。この成功事例を踏襲するため、「社内外で評判がいい」(同)デザインをあえて残した側面もある。「デザインは一緒で、中身を進化させ、完成度を上げる方向にした」(同)というわけだ。
やや保守的な姿勢にも感じるが、こうした戦術を取れるのは、「社内的にワクワク枠と呼んでいる」(同)という「pro」モデルがあるからだろう。AQUOS R9 proではカメラに特化した端末に仕上げたが、カメラに限らず、「チャレンジ枠としてお客さまを驚かせるように作る」(同)ことをコンセプトにしているという。ラインアップの構成を見直したことで、冒険する端末と、堅実に進化さて確実に売る端末のメリハリがより強くなった。リニューアル2年目に登場するAQUOS R10は、その試金石になりうる1台といえそうだ。
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iPhoneマイナカードでできること(写真:ITmedia NEWS)50
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