
試合が勝負事である以上、勝つに越したことはないのは当然である。
だが、無敗だの、世界最速だのと、ことさらに結果ばかりが強調されると、もっと他にこだわるべきことがあるのではないかと言いたくなる。たとえ、ひとつやふたつの負けがあったとしても、だ。
日本代表がオーストラリアに0−1で敗れ、今回のワールドカップ最終予選では初めてとなる黒星を喫した。
内容に照らせば、オーストラリアの堅守を崩しきれないまでも、引き分けで終わらなければならなかった試合である。0−0で迎えた試合終盤、守備での拙い対応が重なり、相手に決勝点を与えてしまったことは、反省すべきだ。
しかし、たとえこのような結果になったとしても、最終予選中にもっとこうした試合、すなわち、新戦力の登用を図る試合があってもよかったのではないか。そんなことをあらためて感じさせられた試合でもある。
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この試合の日本の先発メンバー11人には、これが日本代表(A代表)デビュー戦となった3人を筆頭に、日本代表経験の少ない顔ぶれが数多く並んだ。
だが、それでも彼らは、わずか3日ほどの準備を経て、チームとしてそれなりに機能していた。今回の日本代表が1.5軍であるか、2軍であるか、その表現はともかく、1試合のほとんどの時間で、オーストラリアの1軍に手も足も出させなかったことは確かだ。
なかでも好印象を残したのは、ともにこれが日本代表デビュー戦となった、平河悠と関根大輝である。
まずは大前提として、ふたりが個人の特長を発揮していたことは言うまでもない。
右ウイングバックに入った平河は、得意のドリブルで縦への仕掛けを何度も見せただけでなく、守備でも球際の強さを発揮。労を惜しまないプレスバックにより、高い位置で相手ボールを奪い返すシーンは多かった。
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また、3バックの右を務めた関根も、相手が狙うカウンターの芽を摘むのはもちろん、状況に応じた的確なポジショニングで攻撃への高い貢献度を示していた。
しかし、彼らふたりの存在が目を引いたのは、それぞれのよさが見られたからというだけでなく、右サイドでの互いのコンビネーションがよく、しかも、その連係のなかに3人目、4人目も円滑に取り込むことができていたからだ。
そもそもふたりは、そろってパリ五輪に出場した同世代の選手である。パリ五輪最終予選(U−23アジアカップ)や五輪本大会などを通じて、すでにコンビネーションの素地はできていた、という面はあっただろう。
だが、同じパリ世代の藤田譲瑠チマや鈴木唯人だけでなく、交代出場で入った久保建英とも良好な関係を築き、工夫をこらしながらオーストラリアの堅牢をこじ開けようとしていたことは、彼らの柔軟性や適応能力の高さをうかがわせた。
関根は3バックにも、4バックにも対応でき、平河は左右どちらのサイドでもプレーできる。いずれも汎用性の高い選手だけに、本来なら継続的にチャンスを与えて、さまざまな形でのテストを重ねたいところである。
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わかりやすく言えば、もし南野拓実や堂安律、あるいは守田英正といった主力選手に囲まれていたら、どんなコンビネーションが生まれただろうか――。
そんな楽しみが膨らんだのだ。
しかしながら、あいにくオーストラリア戦に出場した選手のうち、日本代表の主力と呼べるのは、鎌田大地と久保くらい。ほとんどが新顔だったため、森保一監督が「壁は厚い」と語る主力組のなかに加わって、彼らがどれだけのプレーができるかを、この試合だけで判断するのは難しい。
だからこそ、全10試合あった最終予選を有効活用し、段階的に新戦力をテストし、取り込む作業をすべきだったと思うのだが、森保監督は常にベストメンバーを編成することにこだわってきた。
その間、主力選手が負傷離脱することはあっても、新戦力の台頭は起こらなかったゆえんである。
思えば、2020年東京五輪(実際の開催は1年延期の2021年)から2022年ワールドカップにかけて、盛んに使われた「1チーム2カテゴリー」(U−23代表とA代表を合わせてひとつのチームの意)という言葉も、今ではすっかり聞かれなくなった。
有り体に言って、前回のワールドカップ以降は、単に「2チーム」が存在しただけ。パリ五輪を戦ったU−23代表とA代表は別ものであり、実際、パリ世代の登用はほとんど進まないまま、ここまで来てしまっている。
はたして、ようやくパリ世代に巡ってきた"受験機会"。これを受けて、"二次選考"はいつどのような形で行なわれるのか。あるいは、合否以前に行なわれることすらないのか。
今後が楽しみでもあり、心配でもある。