レアアースをめぐる米中の攻防激化、日欧にも既に影響【播摩卓士の経済コラム】

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2025年06月07日 14:09  TBS NEWS DIG

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電気自動車(EV)などハイテク製品に欠かせない希少鉱物のレアアース(希土類)をめぐる米中の攻防が激しくなっています。供給が中国に偏っていることから、中国政府が輸出規制を強化し、アメリカだけでなく、日本やヨーロッパにも揺さぶりをかけているからです。すでに各国では、自動車や自動車部品の生産にも影響が出始めています。

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米中首脳電話会談でも中心議題に

アメリカのトランプ大統領と中国の習近平国家主席は、5日、再び悪化の兆しが見えていた米中関係をめぐって電話首脳会談を1時間半にわたって行いました。会談後、トランプ大統領は、「とても良い会談だった」とした上で、レアアースなどこれまでの合意を改めて整理したことを明らかにしました。またアメリカが課している関税をめぐる協議も継続していくことで一致しました。第2期トランプ政権が誕生して以来、アメリカ政府が米中首脳の電話会談の内容を公式に説明するのは初めてのことで、対立を沈静化させたいとの思惑がうかがえます。

5月の米中合意の決め手はレアアース

米中両国は5月にジュネーブで行われた閣僚級協議で、互いに追加関税を一気に115%引き下げると共に、関税をめぐる協議を継続することで合意していました。第2期トランプ政権発足後、様々な名目でアメリカは対中国関税を145%に、その報復措置として中国は対米関税を125%にまで引き上げ、ベッセント財務長官が「事実上の禁輸措置だ」と嘆くほどの事態に陥りました。

アメリカ国内では高関税が課せられた中国製品の在庫がなくなり、大衆向けの量販チェーンの店頭では、おもちゃやサンダルの商品が少なくなり、いよいよ高関税での輸入による大幅値上げを余儀なくされる寸前まで至っていました。そうしたタイミングで行われたジュネーブでの閣僚協議が合意に至った決め手は、中国側が4月に決めたレアアースの輸出規制を緩和することを約束したためだとされています。合意文書には「中国の貿易制限措置を停止または解除」と書かれています。

中国はレアアース7種を輸出規制

これより先の4月、中国政府はアメリカとの対立激化を受けて、レアアース7種の輸出規制に踏み切りました。7種類とは、テルビウム、ジスプロシウム、サマリウム、ガドリニウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウムです。

これらは電気自動車(EV)が搭載する高性能磁石などに使用される他、風力発電やスマートフォンなどにも不可欠なものだそうです。レアアースは中国に遍在するものが多い上に、精錬、加工の技術や場所で中国が優位にあることから、現在レアアースの7割が中国産です。いわばハイテク製品のチョークポイント(戦略箇所)を中国に抑えられた格好になっているのです。現に5月末にフォードのシカゴ工場でSUV車エクスプローラーの生産がレアアースを使った部品の不足から、一時停止に追い込まれる事態になりました。

トランプ政権には、ジュネーブの閣僚交渉で輸出規制解除を約束したのにレアアースが依然滞っているとの不満が募っていたのです。閣僚レベルでは規制措置停止と言いながら、実際の輸出許可は品目や地方ごとの審査が複雑で、意図的に許可を遅らせているという不満でした。

米だけでなく欧州、日本でも生産停止などの影響

中国の輸出規制の影響はアメリカだけに留まりません。どうやら欧州や日本に対しても輸出許可が遅れる事態になっているようです。欧州自動車部品工業会は、4日、中国政府による輸出規制で部品メーカーの工場が操業停止に追い込まれたことを明らかにしました。工業会によれば、会員企業からの申請の25%しか輸出が許可されていないと言います。

また日本国内でもレアアースを使う部品の調達が滞っていることから、スズキの人気小型車スイフトの生産ラインが停止したと報じられています。スイフトには簡易型ハイブリッドを搭載した車があり、ハイブリッドシステムにもレアアースが不可欠だからです。

中国が対立の本丸であるアメリカだけでなく、欧州や日本をも、事実上ターゲットにするのはなぜなのか。輸出許可審査と言う複雑な仕組みと通じた、いわば「さじ加減」によって米欧、日米の間にくさびを打ち込もうと揺さぶりをかけていると指摘する専門家もいます。米中対立の中でこちらに来れば、輸出を認めますよ、という中国側のサインだと言うのです。

レアアースでの協力は日米協議でも焦点

ハイテク製品のチョークポイントでありながら中国依存の大きなレアアースを、どう確保していくかは、西側諸国の経済安全保障にとって、極めて大きな問題です。そこで日米関税協議でも、日米が今後どのように協力していくかが大きな焦点の1つとなっています。

もちろん、日本にレアアースがあるわけではありませんが、西側諸国内での供給網整備や精錬加工技術での協力、さらには日本が得意とする使用量節減や代替品開発などの分野で日米協力が期待されています。

もっともレアアースの問題はセンシティブです。表立って「中国依存脱却で対米協力」などと言えば、中国はより態度を硬化させ供給を絞ってくるかもしれません。民間企業にとっては、より機微に触れる問題です。どの社の、どの部品の調達が苦しいのかがわかるだけで、他社はもちろん、中国側にも、自らの弱みという「秘密」をみすみす教えてしまうことにもなりかねないからです。

レアアースをめぐる攻防は、通商問題の核心として、今後ますます激しさを増すことになりそうです。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)

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