「薪窯の魅力を知って」 京都の陶芸家が薪窯の新造プロジェクトを開始

0

2025年06月08日 16:10  まいどなニュース

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

まいどなニュース

大量の薪を必要とする薪窯(亀岡市・ウリズン、福井さん提供)

 京都市の陶芸関係者らが、若手のための薪(まき)窯造りの計画を進めている。薪窯は、くべられた木の灰が自然の釉薬(ゆうやく)となって、人の作為を超える美しさを生むと言われる。一方、労力や経費は多大で、若手が薪窯を新造して作品を作るハードルは高いため、薪窯で焼いた経験が乏しい人は少なくない。開かれた「シェア薪窯」で炎の神秘を感じてもらい、薪窯による陶芸を次世代に残したいという。

【写真】紡窯プロジェクトを進める福井さん(左)と八木さん

 「紡(つむぐ)窯プロジェクト」。東山区の古川町商店街陶器市実行委員会や、各種イベントを手がける同区の「たんきゅうサロン」、陶芸家らを支援する亀岡市のNPO法人「ウリズン」が手を携える。

 薪窯と電気窯の双方で制作している暁(あかつき)窯(左京区)の八木暁(さとし)さん(45)や、同サロンの福井翼さん(42)によると、今の主流はヒーターの熱で焼く電気窯。煙が出ず、温度調節が容易で、仕上がりのばらつきを抑えやすいという。

 薪窯は大量の薪がいる。複数の番を付けて数日にわたって薪をくべる必要もある。電気窯より、燃料代もはるかにかかる。大量の煙が出るため、住宅街で焼くのも難しい。

 一方で固有の特色も多い。くべた赤松などが燃え、灰が陶器に降りかかることで釉薬となり、唯一無二の表情をもたらす。赤松の質や湿度、炎の具合、窯のどこにどう陶器を置くかなどで、できあがりは千変万化する。八木さんは「窯や自然に委ねる感じが好き」と口にする。薪窯による陶器は使うほどに味わいを増すという。

 薪窯での焼成には温度調整などに独自のノウハウが詰まっており、「閉ざされた世界」(福井さん)と言われる。限られた同人で共同使用するケースはあるが、第三者の借用は困難という。

 紡窯は、意欲ある若手が使える開かれた窯にする。ウリズン代表で陶芸家出口鯉太郎さんの快諾を得て、5月からウリズンの敷地に造成。約1500個の耐火れんがを積み、幅約1・2メートル、奥行き約2メートルの窯を造る。小ぶりで焼く日数も短期。八木さんは「ライトな感覚で参加できる窯にしたい」と言う。

 備前焼で初の人間国宝となった故金重陶陽さんの孫で陶芸家の剛さん(56)=岡山県=らが技術面の助言もする。剛さんは「神秘的な炎の働きは想像を超える」とし、積極的に利用してほしいとする。大勢が集うことで陶芸家のネットワークも生まれ、切磋琢磨(せっさたくま)が期待される。プロジェクトに携わる宋永窯(亀岡市)の森本眞二さん(61)は「薪窯のシェアは、これからの方向性ではないか」と語る。

 秋に初の作品を焼く。活動への寄付を募っており、既に目標を20万円上回る50万円が寄せられた。引き続き応援を呼びかけている。

 八木さんは20歳の時に信楽焼の薪窯を手伝ったのが、作陶の道へ入るきっかけとなった。八木さんは「1200度に近づくと炎は黄金のような色になる。なんてすごいんだろうと思った。迫力があり、薪窯のエネルギーを感じた」とかつての興奮を思い起こす。紡窯を通じ、「陶芸家だからこそ見られる景色を体感してほしい」と願う。福井さんは「力を合わせて作品を作る薪窯には人の思いが詰まっている。薪窯の魅力を知ってもらう契機にしたい」と意気込む。支援の問い合わせなどは同サロンのインスタグラムへ。

(まいどなニュース/京都新聞・陰山 篤志)

動画・画像が表示されない場合はこちら

    ランキングトレンド

    前日のランキングへ

    ニュース設定