サッカー日本代表はなぜゴールを奪えなかったのか 佐藤寿人「守備ブロックを動かす作業は9番の仕事ではない」

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2025年06月08日 18:10  webスポルティーバ

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 すでに2026年ワールドカップの本大会出場を決めている日本代表は、アジア最終予選の残り2試合でようやく次のフェーズに移ることができた。そこでやるべきことはもちろん、代表経験の少ない選手を招集して実践でテストすることだ。

 特にオーストラリア戦は、アウェーという環境なだけに注目すべき点も多かった。果たして、どこまで自分たちのサッカーを貫いてゴールを奪えるのか、と。

 しかし結果は、終了間際にゴールを許して0-1の完封負け。日本は高いボール支配率を残しながら、最後までゴールを奪えなかった。なぜ、日本のゴールは遠かったのか。Jリーグ通算最多ゴール記録を保持する佐藤寿人氏に話を聞いた。

   ※   ※   ※   ※   ※

 今回のオーストラリア戦もDAZNのピッチレポーターとして現地に赴き、練習も含めて日本代表の活動を取材しました。

 招集メンバーが大幅に入れ替わったとはいえ、スタメンをあれだけ変えてくるとは、正直、驚きでした。鎌田大地と町田浩樹を除けば、ほとんどが代表経験の少ない選手たちでしたから。

<オーストラリア戦のスタメン>
GK:谷晃生(FC町田ゼルビア)、DF:関根大輝(スタッド・ランス)、渡辺剛(ヘント)、町田浩樹(ユニオン・サンジロワーズ)、MF:佐野海舟(マインツ)、藤田譲瑠チマ(シント・トロイデン)、鈴木唯人(ブレンビー)、平河悠(ブリストル・シティ)、鎌田大地(クリスタル・パレス)、俵積田晃太(FC東京)、FW:大橋祐紀(ブラックバーン・ローバーズ)

 ただ、試合後の森保一監督の会見でのコメントを聞き、その意図を理解できました。コアメンバーに依存せず、あえて難しい状況のなかで新戦力を試したのは、森保さんらしいやり方だったと思います。

 一方で、オーストラリアは勝ち点3を取りにくるだろうと思っていたのですが、日本での対戦時(2024年10月15日@埼玉スタジアム)と同じように5-4-1の布陣でミドルブロックを作りながら、隙をうかがうという戦い方でした。

【右サイドはスムーズに機能】

 最低でも勝ち点1、あわよくば勝ち点3をつかみ取る──。結果的に、オーストラリアの思惑どおりの試合となってしまいました。

 オーストラリアがあそこまで守備的にくるとは、日本の選手たちも予想していなかったと思います。やりづらさもあったでしょう。それでもボールを保持する展開となるなかで、チャンスを与えられた選手たちは、まずまずのパフォーマンスを見せられていたのではないでしょうか。

 もちろん、ほとんど準備の時間がないなかで、連係面で難しい部分はあったと思います。そのなかでも、たとえばパリ五輪世代の鈴木唯人と平河悠が形成した右サイドは、比較的スムーズに機能していました。

 また、経験値の高い鎌田の存在も大きかったですね。彼が立ち位置を変えながら、ボールを引き出し、相手を動かす役割を担っていたので、あれだけ押し込むことができたのだと思います。

 当然、勝つことが大前提のテーマとしてありましたが、鈴木や平河をはじめピッチに立った選手たちからは「与えられたチャンスのなかで、自分には何ができるか」をアピールしたいという思いが強く感じられました。実際に何人かの選手は、特長を出せていたのではないでしょうか。

 ただ、そうした収穫もある一方で、課題も見えました。0-0で終わるより0-1で敗れたほうがよかったとまでは言いませんが、その悔しさが今後へのエネルギーにつながるのではないかなと思っています。

 ストライカー視点でオーストラリア戦を振り返れば、スタメンとしてピッチに立った大橋祐紀にとっては難しい試合になったと思います。

 スペースが限られていたのに加え、周囲と連動してボールを呼び込むシーンも、あまり作ることができませんでした。

 そもそも、相手が(最終ラインに)5枚並べてスペースを埋めてきたなかで、その5枚の距離感を広げる作業は9番がやる仕事ではないんですよ。やはり9番は、最終的にボックス内で仕上げ役を担うのが理想なんです。だけど、大橋は(相手DFの守備)ブロックを動かす仕事にパワーを削がれていた印象です。

【どこまで上田に迫っていけるか】

 本来、ブロックを動かしてギャップを生み出す作業は、ユニットで目線を揃えていくべきです。しかし、連係を構築する時間がなかった以上は、個々の力でやっていくしかない。アバウトなボールに反応して(相手DFラインを)裏返すシーンもありましたけど、なかなかオーストラリアのブロックが崩れなかった。そのために、ゴールに向かってプレーするシーンはそれほど多く訪れませんでした。

 これは大橋個人の問題ではなく、チームとしてゴールへの道筋を作ることができなかったということ。その意味では、この1試合で大橋を評価することは難しいと思います。

 大橋に代わってピッチに立った町野修斗(ホルシュタイン・キール)も含め、ボールを呼び込むことができなかったのは、やはり「急造チーム」だったことに起因するでしょう。

 森保監督はこれまで、上田綺世(フェイエノールト)をこのチームのFWの軸に置いてきました。なぜ彼が重宝されているか──それは、もちろん得点を取ることが一番のタスクですが、必ずしもそれが絶対ではない、ということです。

 たとえば、相手の最終ラインを押し下げる作業であったり、ボールを収めることもそう。2列目と関わりながら、安定してボールを前に運んでいく部分で、動き出しと収める能力をかなり求められていると思います。

 森保ジャパンの立ち上げ(2018年7月)から振り返ると、当初は大迫勇也(ヴィッセル神戸)がその役割を担っていて、それは上田に継承されていきました。

 上田は決してポストプレーヤーではないですが、9番の能力をオールラウンドに備えていますし、守備のスイッチの入れ方やセットプレーの守備でも重要な存在です。それらをトータルで考えれば、今の代表のなかでは抜きん出た存在だと思います。

 ただ、大橋にしても町野にしても、今回は呼ばれていませんが小川航基(NECナイメヘン)にしても、上田に共通した能力を持っていると思います。チームのためにハードワークできますし、ユニホームを汚すことをいとわない選手たちですから。ワールドカップまでの1年で、どこまで上田に迫っていけるか──。ヨーロッパで研鑽を積む彼らの成長に期待したいですね。

【インドネシア戦での期待は細谷真大】

 一方で、これからは対アジアではなく、対世界に目を向けなくてはいけません。アジアと比べて、相手の立ち位置が高くなることを考えれば、前回のワールドカップのように背後を突くことも重要になってくると思います。

 その意味では浅野拓磨(マジョルカ)であったり、フランスでは苦しみましたが古橋亨梧(レンヌ)であったり、前田大然(セルティック)のようなモビリティに優れるタイプを1トップに置くことも考えられます。

 次のワールドカップは出場枠が増えたことで、対戦相手にもいろんなタイプの国がいると思います。日本がボールを持てる試合もあれば、守りに徹しなければいけない試合もあるかもしれません。

 その意味では、戦い方の引き出しを増やさなければいけないですし、前線の手札もさまざまなタイプを用意しないといけない。あらゆる状況にアジャストできるようなスカッドを作っていかなければいけないので、いろんな選手にチャンスが与えられる可能性はありそうですね。

 もちろん、ここから新戦力が組み込まれるのはイメージしにくいですし、森保監督は日常の強度を重視しているので、選択肢は限られているとは思います。

 5大リーグでプレーする選手がほとんどとなったなかで、今の代表にはより強度の高いところで日常を過ごしている選手たちが多く集まってきています。その人数が圧倒的に増えてきているからこそ、代表が強くなってきたのは紛れもない事実です。

 だからといって、Jリーグでプレーする選手にもチャンスがないわけではありません。その意味で、次のインドネシア戦で期待したいのは細谷真大(柏レイソル)です。

 今季はクラブでも苦しい時期を過ごしていましたが、ポジションを奪い返して、代表にも久しぶりに戻ってきました。

 おそらく、スタートは町野修斗になるのかなと思いますが、細谷はモビリティもありますし、フィジカルを生かして前に出る強さも備えています。強度の高い日常を過ごしている選手に囲まれるなかで、彼がどこまで存在感を放てるか。インドネシア戦ではそこに注目したいですね。


【profile】
佐藤寿人(さとう・ひさと)
1982年3月12日生まれ、埼玉県春日部市出身。兄・勇人とそろってジェフユナイテッド市原(現・千葉)ジュニアユースに入団し、ユースを経て2000年にトップ昇格。その後、セレッソ大阪→ベガルタ仙台でプレーし、2005年から12年間サンフレッチェ広島に在籍。2012年にはJリーグMVPに輝く。2017年に名古屋グランパス、2019年に古巣のジェフ千葉に移籍し、2020年に現役を引退。Jリーグ通算220得点は歴代1位。日本代表・通算31試合4得点。ポジション=FW。身長170cm、体重71kg。

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  • サッカー日本代表はなぜゴールを奪えなかったのか←そんなの分かりきっているじゃん!弱いからだろ?あたり前田の〇〇〇〇ーだ!
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