
かつてウイングと言えば、縦へのドリブル突破で敵陣深くまで攻め入り、センターフォワードにクロス(当時はセンタリングと言うのが一般的だった)を送る。それが彼らの役割だった。
だが、時代は流れ、ボールポゼッションが重視されるにつれ、右サイドには左利きを、左サイドには右利きを、いわゆる"逆足"のアタッカーを両ウイングに配するチームが多くなった。
逆足の選手のほうが、体をピッチの内側に向けやすく、ボール保持には適しているからだ。と同時に、カットインから利き足でシュートを打てる点も大きな魅力だった。すなわち、より得点に直結しやすいプレーができるのである。
日本代表を見ても、久保建英、堂安律と左利きの選手が、右サイドでのプレーを得意としているのは、現代サッカーの潮流に沿ったものだと言える。
しかしその一方で、逆足ゆえに攻撃を停滞させてしまう危険性もある。彼らの存在がボールの動きを中央に集めてしまうことにつながり、攻撃が狭くなってしまうからだ。
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攻撃が中央に偏り、ただただ強引に狭いエリアへと突っ込んでいくだけ。これでは人数をかけて守備を固める相手の思うつぼである。
それゆえ、今ではむしろ希少な存在となった、"順足"のウイングが価値を持つ。日本代表で多くのチャンスを作り出してきた、伊東純也がその好例だ。
たとえば、現在の日本代表のフォーメーション、3−4−2−1で考えたとき、右ウイングバックに堂安が、右シャドーに久保が入ると、どうしても攻撃ルートが中央へ向かいがちになり、攻撃が滞ってしまうことがある。
そんなとき、伊東が代わって右ウイングバックに入ると、攻撃ルートが内と縦の2方向に生まれ、流れが円滑になるばかりか、攻撃全体に幅が生まれ、ニアゾーンも使いやすくなることがあるのだ。
だが、貴重な人材である伊東も、すでに32歳。残念ながら、まだまだ伸び盛りという選手ではない。
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だからこそ期待したいのが、次なる"右利きの右ウイング"の登場である。
幸いにして、日本代表の次代を担うパリ世代には、その候補がふたりもいる。
平河悠と三戸舜介である。
平河はイングランド2部(チャンピオンシップ)のブリストル・シティ、三戸はオランダ1部のスパルタ・ロッテルダムでプレーしており、ともにまだ5大リーグの手前にいる選手ではある。キャリアにおいて、現在の日本代表の主力選手たちに見劣ることは否定できない。
それでも彼らは、ヨーロッパへ渡ってまだ1年ほど。いずれも昨季は、日本とは異なる環境でも力を発揮し、次なるステップへと進む可能性があることを示すシーズンを過ごした。
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ワールドカップまで、残り1年。その間に大きく化ける可能性は十分にある。
平河は右サイドに加えて、左サイドも遜色なくこなせるし、三戸は両サイドだけでなく、トップ下やインサイドMFでもプレーできる。平河も三戸も、右サイドのスペシャリストというわけではない。
だが、彼らは"右もできるが、本当は左が得意"という選手ではない。
実際、左サイドでのカットインを得意とする右利きの選手にありがちな、右サイドに入ると行き場を失ってノッキングしてしまう、という現象は見られない。
彼らがJリーグでプレーしていた時代を振り返っても、台頭のきっかけとなったポジションは右サイド。右利きの右ウイングらしく、縦方向への推進力を生み出せる選手なのだ。
ふたりがそろって出場したパリ五輪では、初戦のケガで不完全燃焼に終わった平河はもちろん、三戸にしても初戦で2ゴールを決めながら、その後はやや尻すぼみに終わった感がある。
結局、チームはグループリーグを首位通過しながら、準々決勝でスペインに0−3の完敗。その悔しさを次なる大舞台で晴らしたい気持ちは強いに違いない。
平河は、すでに先日のオーストラリア戦でA代表デビューを果たし、上々の活躍を見せた。その試合でピッチに立った新戦力候補たちのなかでも、次への期待を大きく高めたひとりと言っていい。
一方の三戸には、残念ながら出場機会が訪れなかったが、スピード、テクニック、アジリティといった要素が、海外勢相手にも十分通用することはパリ五輪で証明済み。A代表でのデビューが待たれるところだ。
右利きの右ウイング。偶然にも同世代に現われたふたりの"希少種"を、日本代表で生かしたい。