「新車を買うくらいの感覚」遥か遠い限界集落の“450万円物件”を購入→家族で移住した“その後”

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2025年06月09日 09:20  女子SPA!

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古民家はリフォームの多くを近藤さんたちの手でおこなった
 こんにちは、コラムニストのおおしまりえです。

「地方移住」と聞いて、皆さんはどんなイメージが浮かびますか?

「自然の中でゆったり暮らす」「時間にゆとりが生まれそう」などなど、素敵なスローライフが想像できる一方で、「縁もゆかりも無い地方で、本当に暮らしていけるの?」「移住にはお金がかかるのではないか?」そんな不安もあるはずです。

 本記事では、当時2歳の子を育てながら、石川県加賀市にあるわずか10世帯の限界集落「今立町」へと移住した近藤さん一家にお話を聞いています。

 近藤さん一家は2023年に限界集落へと移住し、現在は限界集落で第二子を出産、子育てをしながら、家族で自然体験型の古民家宿「古民家ゆうなぎ」と乳幼児から小中学生向けの自然学校「かが杜の学び舎ゆうなぎ」の運営、地域コミュニティづくりに取り組んでいます。

 前回の記事では、夫・裕佑さん、妻・なぎ沙さんの2人に、キャリアや移住決意の背景を聞きました。今回は、具体的な移住や古民家運営の準備について聞いていきます。

◆2年かけて進めた現実的な「移住準備」

 近藤さん一家の移住の準備の期間は、2年だったといいます。2年という時間は、当初の予定よりも時間がかかったとのこと。もっとも大変だったことや、具体的に何を準備していったのか聞きました。

裕佑さん「移住に2年かかったのは、僕の仕事の調整が難しかったのが理由です。僕は移住前は中学校の社会科教諭をしていましたが、教諭という仕事は、どうしても転職時期が限られるんです。

計画の1年目は、中学3年生のクラスを持っていました。気持ち的にも卒業まで見届けてから、移住を決行したいと思っていたので、当時は移住先を加賀市と決め、その子達の卒業と同時に自分も転職や移住をしたいと思っていました。しかし現実はそう上手くいかないもので、当時は転職先が決まらず、移住を決行できませんでした」

 こうして、移住計画が2年目へ突入することになった近藤さん。そこから、どういった流れで、移住を決行できたのでしょう。

裕佑さん「計画2年目、2022年4月頃に今住んでいる家が空き家として売りに出ているのを見つけ、興味を持ち購入することにしたのが大きな転機でした。価格は450万円で、僕らの理想とする古民家でした。

6月には購入しようと夫婦で意見が一致しており、結局そこから購入、掃除、修繕と、2か月に1回くらい荷物を運び、最終的には、移住計画の2年目が終わる頃に、引っ越す準備は概ね整っていましたね。仕事がその時も決まっておらずでしたが、家もあるし『失業してもいいから、移住をしよう』となり退職しました」

 職を持たずに移住するのは、なんとも不安が募りそうです。ただ1年計画を引き伸ばしたり家を購入したりしたことで、現地では知り合いができ、移住コーディネーター(移住希望者と地域の橋渡しの役割を担う相談役。移住推進のために自治体が配置)の方が、いろんな方と引き合わせてくれたのだそう。

 最終的に、そのご縁から最初の就職も決まり、移住がスムーズにスタートできたと言います。

◆「山・川・海・雪」すべてを満たす場所を探して

 移住までは2年を要しましたが、移住の候補地選びは最初の数か月で決まっていたとのこと。ちなみに石川県加賀市は、近藤さん一家にとって、縁もゆかりも無い土地です。

 田舎暮らしの経験がない筆者的には、場所選びは「インフラ以外にどんな観点があるのか?」と想像がつきにくい部分ではあります。近藤さんに、候補地選定の方法を具体的に教えていただきました。

裕佑さん「候補地の選定にあたって、僕たちは事前に“自然の4要素”を条件にして、探していました。

1.標高の高い山が近くにある
2.渓流魚がいるようなきれいな川がある
3.シュノーケリングができるきれいな海へアクセスできる
4.雪遊びができるほど雪が積もる地域である

この4つを生活圏内で満たす場所を、Google Earthで探していきました。もともと千葉に住んでいたので、最初は千葉の海沿いから探しました。しかし、意外とこの条件をすべて満たす場所って少ないんです。

続いて関東近郊を見てみましたが、まず長野や群馬は海がないし、静岡は雪が降りません。さらに範囲を広げてみたものの、新潟は雪が降りすぎてしまうし、富山は平野部が多く、川遊びに適している場所が見つけられませんでした。さらに西側へとエリアを広げ、ようやくたどり着いたのが石川県加賀市でした」

なぎ沙さん「今の住まいは川まで徒歩5分、海まで車で30分、雪も降るし近くには高い山があります。インフラ面でも、このエリアは新幹線へのアクセスも良く、また近隣の病院やスーパー、将来的な小学校通学も問題なさそうでした。限界集落とはいえ、自然豊かだけどアクセスの利便性が良い点は、最終的な決め手になったと思っています」

◆古民家を450万円で購入。決断の裏にあった想い

 移住が計画を始めて2年目に決まった要因のひとつは、家を買ったことも大きいといいます。

 現在の住まいは、重要伝統的建造物群保存地区にある古民家で、価格は450万円とのこと。何回か下見はしていたとはいえ、住んだこともない場所にいきなり家を買うのは、不安ではなかったのでしょうか。

裕佑さん「購入価格は約450万円の家だったので、家と言っても、新車を買うくらいの感覚だったと記憶しています。『万が一ダメだったら売ればいいし、築100年ほどの古民家なので住み続けても逆に価値は下がらないだろう』と思えたのが大きかったです。とはいえ、購入資金は妻の貯金から出してもらいました。僕は行動力はあるけど、資金力はないタイプで(笑)」

なぎ沙さん「正直、購入することに不安な気持ちもありました。でも、夫を信頼して『今しかできない経験かも』と思い決断しました。今となっては、すごく良い選択だったなと感じています。家さがしに終止符が打たれた近藤さん一家。一つひとつ課題をクリアしていく中で、準備でもっとも大変だったことを聞くと、引っ越しを自分たちで実行したエピソードを語ってくれました」

裕佑さん「引っ越しは業者に頼まずに自分たちでやったので、本当に大変でした。僕は大型免許を持っているので、レンタルトラックを借りて家具や道具を積み入れて運ぶことにしましたが、結局4往復もしました(笑)」

なぎ沙さん「なぜこんな大変な引っ越しになったのかというと、引っ越し前からフリマサイトで、古民家に合う古い家具やテーブルを集めていたんです。引っ越し前にいろいろ入手していたらどんどん荷物が増えてしまい……最終的に、3人暮らしとは思えない家財量になっていました。

例えば、耕運機も引っ越し前に購入していて、千葉の団地暮らしじゃ絶対使わないものが、ありましたね。最終的に、友人や移住コーディネーターさんにも手伝ってもらいながら、なんとかやり遂げました」

◆生きている実感が得られる生活

 こうして引っ越しも終え、新生活をスタートさせた近藤さん一家。仕事、家、引っ越しと、着実に歩みを進めて今に至りますが、現在の生活は『生きている実感がすごく得られる生活』だと話します。

なぎ沙さん「今の暮らしは、季節の移ろいを肌で感じることができる点が、素晴らしいなと思います。季節は春・夏・秋・冬の4つと言われますが、昔は72(※)に分けられるとされていました。その言葉の通り、今の生活では毎日違う花が咲き、森から聞こえる鳥の声や見かける虫も変わります。一歩外に出れば季節を感じることができ、生きていることを実感でき、移住してよかったなと感じています」

※中国の暦法に由来し、日本では江戸時代に広まった「七十二候」のこと。1年を二十四節気(春分、夏至など)に分け、それぞれをさらに約5日ずつの3つに細分化して、合計72の季節の変化として捉える。

 大変だった準備期間を乗り越え、自分たちらしい新たな生活をスタートさせた近藤さん一家。現在は、新たな課題とも向き合いつつ、子どもを自然とともに育てている点に、良さを実感していると言います。

【近藤裕佑】
赤ちゃんから楽しめる一棟貸しの宿「古民家ゆうなぎ」・自然体験活動団体「かが杜の学び舎ゆうなぎ」代表。自然体験活動指導者や教員としての経験を活かし、「原点教育(人間の古くからの生活や自然に触れ、これからの生き方を考える教育)」を主軸に自然・文化体験活動を提供する。YouTube:@kont_juniorhighschool_societyでは歴史の講義通しての知識面からの原点教育を試みる。

【近藤なぎ沙】
「古民家ゆうなぎ」「かが杜の学び舎ゆうなぎ」副代表。元学童保育支援員。保育士・幼稚園・小学校教諭免許を活かし「つながる子育て」をモットーに、自然・母親・親子がつながる居場所づくりや、「親子向け里山里海ステイ」の受け入れも構想中。木育インストラクター、おもちゃコンサルタントとしても、木のおもちゃの魅力発信や木育活動を行う。

<取材・文/おおしまりえ>

【おおしまりえ】
コラムニスト・恋愛ジャーナリスト・キャリアコンサルタント。「働き方と愛し方を知る者は豊かな人生を送ることができる」をモットーに、女性の働き方と幸せな恋愛を主なテーマに発信を行う。2024年からオンラインの恋愛コーチングサービスも展開中。X:@utena0518

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