「客単価2000円」であれば、多少広い席でも許してもらえそうではある子どもの頃、祖父母が米を送ってくれたため、「ご飯を残すこと」は何よりも許されないことだと思っていた。それなのに、ファミリーレストランでハンバーググリルのライスセットを頼むと、どうしても最後まで米が食べられない。
大人向けのメニューなのだから当然といえば当然なのだが、とてつもなく罪悪感を感じていた。「次こそは食べ切ろう」と決意し、半分残しから三分の一残しへと、徐々に残す量を減らしていき、10歳くらいの頃にはついに完食できるようになった。その結果、見事な肥満児となった。
◆30代に突入してから食欲が止まらない
それから20年。「30歳を過ぎると食欲が落ちて少食になる」とよく言われるが、筆者の食欲は止まることを知らない。いまだにご飯の量が選べるなら大盛りにし、ラーメンも替え玉をする。回転寿司に行けば20皿以上は平気で平らげてしまうため、ひとりで会計が1万円を超えたこともある。
このままでは食費で破綻してしまう……。自炊すればよいのだが、この国の外食チェーンはどこも美味しい。それに比べると自分で作った食事なんてカスだ。おまけに、時間と労力とお金をかけた割に、ほんの少ししか作れない。
そのため外食という選択肢を選んでいるが、さすがに毎日際限なく食べていると、食後に大きな不安が襲ってくる。
そこで最近は「2000円まで」というルールを設けた。「量を減らせ」と思うかもしれないが、一度食事をすると満腹にならなければ気が済まないのだ。
ただ、値段の上限を設けることで、組み合わせに創意工夫が生まれ、ひとりの食事でも食欲も楽しみも満たされる。そんなわけで、2000円という縛りを設けて、さまざまな外食チェーンで欲望のままに飯を食らいたい。
◆2000円で大満足の組み合わせ
筆者が住む吉祥寺は、意外と夜に空いている店が少ない。ちなみに、ここでいう「夜」とは22時過ぎを指す。
そんな中、夜更かしの人間たちの食欲を満たしているのが日高屋である。メニューが豊富なこの店で2000円を使い切るのは非常に難しい。主食を2つ選ぶか、おつまみを多く注文するかで悩んでしまう。もし、値段の縛りを設けていなければ、ひとりでも5000円は軽く超えるだろう。
そんな同店で、筆者が考える2000円の使い方が、生姜焼き定食(850円)、汁なしラーメン(640円)、やきとり(220円)、皮付きポテトフライ(290円)の4品だ。これでちょうど2000円(税込)。
◆「日高屋で一番美味しいメニュー」を実食
まず、日高屋で一番美味しいのは生姜焼き定食で間違いない。生姜の辛さは感じず、甘だれが肉全体を包み込んでいるため、それだけで米が進む。本来は付け合わせのキャベツのためのマヨネーズも絡めば、さらに濃厚な味わいとなる。マカロニも良いアクセントだ。
米はそれだけでも進むのだが、やきとりもおかずとしての役割をきちんと果たしている。おつまみメニューのため、酒があればそれだけでジョッキ2杯は飲み干せるが、筆者は29歳のときに酒の飲みすぎで、肝臓の数値であるγ-GTPが「2410(通常は40〜60)」を叩き出してしまい、アルコールが飲めなくなった。そのため今は、おかずとして食べている。
濃い味付けの肉料理が2つもあると、もう1杯ご飯をお代わりしたくなるところだが、せっかくならさまざまな食感を味わいたい。そこで汁なしラーメンが活きてくる。
◆“外食時ならでは”のラーメンを選ぶべき
日高屋にはさまざまなラーメンがあるが、言ってしまえばシンプルなラーメンなら家でも作れる。だったら、普段家では作れないラーメンを選ぶべきだ。
近い値段で「野菜たっぷりタンメン」という選択肢もある。しかし、わざわざ外食で野菜を食べたいわけではない。そこで汁なしラーメンを選ぶのだ。
量が多く、味付けはシンプルなため、米だけでは吸収できなかった生姜焼き、やきとり、そして濃すぎるスープとザーサイをつまみに麺をすする。
そもそも米と麺の両方を一気に食べる罪悪感はあるが、平らげたときには「よく食べたな」という多幸感で満たされる。
◆ダメ押しのポテトフライがキく
そして最後は揚げ物、皮付きポテトフライである。今回のメニューを同時にタブレットで注文した場合、提供順はやきとり、生姜焼き、汁なしラーメン、皮付きポテトフライになる。
通常、ポテトフライは前菜として機能するが、揚げ物のため、ほかのメニューを食べている途中で提供されることが多い。しかし、それがいいのだ。
これは誰しも経験があると思うが、定食とラーメンを平らげたあと、「もうちょっとだけ食べたいな」と思うこともあるだろう。その欲を皮付きポテトフライが満たしてくれる。
提供された直後は揚げたてで熱すぎて食べにくいが、少し冷ませば食べごろになる。また、ケチャップも考えられないほど濃い味なので、箸が止まらない。
ここまで生姜焼きと汁なしラーメンを食べてきたため、口は和食と中華の状態になっている。それを一気に変えてくれるのが、このポテトフライ。「バリエーション豊かな食事だ」と脳が判断し、満足感と残りの食欲を満たしてくれるのだ。
◆2000円分注文するときの注意点は…
言ってしまえば2人前食べたわけだが、これだけ食べて2000円というのは驚くほどリーズナブルだ。
もし昼に食べるのであれば、汁なしラーメンはやめて、そら豆(220円)とイワシフライ(280円)という選択肢もありだ。
日高屋のそら豆は笑ってしまうほど味が濃いため、おかずになるし、イワシフライはとにかく大きい。正直、ご飯1杯では足りないくらいだ。
注意点としては、カウンター席や2人がけのテーブル席だと、これだけ頼むとテーブルからはみ出してしまうことだ。できれば入店の際に「たくさん食べます」と事前に伝えて、広めの席に通してもらおう。
そんな筆者は現在172センチの93キロ。健康診断には4年ほど行っていない……。次は、どのお店に行こうか。
<TEXT/千駄木雄大>
【千駄木雄大】
編集者/ライター。1993年、福岡県生まれ。出版社に勤務する傍ら、「ARBAN」や「ギター・マガジン」(リットーミュージック)などで執筆活動中。著書に『奨学金、借りたら人生こうなった』(扶桑社新書)がある