「天才少年」の物語から「タヌキ×野球」まで。2025年版「この野球マンガがすごい!」BEST3

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2025年06月09日 16:31  日刊SPA!

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『フロウ・ブルーで待ってる』既刊2巻 江田糸図(講談社)
今年で10年目を迎えた「この野球マンガがすごい!」。現在進行形で、いま読むべき野球マンガをランキング形式でご紹介します! 業界の最新事情&ニュースも網羅。まるッとサクッとわかります。選者は、野球マンガ評論家のツクイヨシヒサと、スポーツサブカルの伝道者ことオグマナオト。リアル球界よりも熱い、野球マンガ最前線について今回も語ります。
◆祝・10周年!第1回受賞作品は、野球マンガ界の柱を担う存在に

ツクイヨシヒサ(以下、ツクイ) この企画、どうやら10周年らしいですよ。

オグマナオト(以下、オグマ) 驚きますね。

ツクイ 確認してみたら、第1回のランキングトップは『BUNGO ─ブンゴ─』(二宮裕次/集英社)でした。

オグマ その『BUNGO ─ブンゴ─』が今年発売のコミックス41巻で、ついに中学生編が終了。新たに高校生編が描かれることが、正式に発表されました。

ツクイ 10年ですっかり野球マンガ界の柱を担う存在となって…時の流れを感じます。

オグマ 話の途中から主人公のブンゴを含め、登場キャラクターたちの野球レベルが上がり過ぎてしまったので、この後どうするのかなと思っていたんですけど。

ツクイ 高校へは進学せずに渡米してメジャーリーグの下部組織に入るとか、「そして3年後──」でドラフトをすぐに描くとか、イレギュラーな展開も考えられましたけどね。ブンゴはもともと、ひとりの壁当てに何年ものめり込むといった、モノマニアな性質が特徴ですから、いきなり突拍子もないことを言い出す可能性も最後まで消せなかった。東南アジアへ武者修行の旅に出るとか、ドバイの富豪をスポンサーにつけるとか(笑)。

オグマ 素直に高校野球生活が描かれていくのかは始まってみないとわからないですけど、とりあえず連載再開を期待して待ちたいですね。

ツクイ では、あまり寄り道をせずに、ランキングを発表しましょうか。

オグマ ええ、お願いします。

◆2025年の第1位は『フロウ・ブルーで待ってる』

<あらすじ『フロウ・ブルーで待ってる』>
体力にも学力にもルックスにも秀でた小学4年生の幾間余波(いくま なごり)は、退屈な日々を送っていた。自分に「ライバル」はいないのか……。そんなある日、転校生の百合元ゲンジが現れる。余波に匹敵する運動能力を持つ彼は、生粋の野球少年だった。ゲンジとの出会いにより、余波の日常が変わっていく。

ツクイ 2025年の第1位は『フロウ・ブルーで待ってる』に決定します!

オグマ 本気で競い合える相手、打ち込めるスポーツが見つからない「天才」の物語……ということで、誰もが昨年の大ヒット作『ダイヤモンドの功罪』(平井大橋/集英社)を重ね合わせる作品です。でも読み進めていくと、こちらはだいぶ感触の異なる内容だと気づいてきます。

ツクイ いい意味で「少年らしさ」が残っているんですよね。『ダイヤモンドの功罪』は確かに突出した傑作だけど、主人公の綾瀬川次郎に関しては「現実にこんな子、存在するかな?」という疑念が常につきまとう。あまりに現代的過ぎるんです。男の子って元来、「相手に勝ちたい」「負けたくない」という気持ちを本能的に持っている生き物なのでは……という違和感が拭いきれない。『フロウ・ブルーで待ってる』はその点において、野球マンガのカタルシスである達成感や共鳴感に優れていると思うんですよね。

オグマ 2巻で主人公の天才小学生・幾間余波に対して、チームメイトたちが「勝たせたいよなあ いいピッチャーって そー思わせるんだ」って感じるシーンがあるんですけど、彼の少年らしさは仲間にプラスの影響をもたらしていく。そこが素晴らしい。近年、性格があちこちヒン曲がった主人公が多いなか、余波は珍しいくらい真っ直ぐな男の子だと思います。

ツクイ 『〜の功罪』の綾瀬川くんが、少なくとも現状、様々なものを「喪失していくストーリー」を辿っているのに対して、余波は野球と仲間に出会ったことにより、生きる喜びを見つけ出す方向へ人生が進んでいる。大きな違いですよね。

オグマ つまり「天才」の物語という冒頭の切り口は、あくまで流行りを意識した取っ掛かりでしかなく、作者の江田糸図先生が本当に描きたいのは少年たちによる成長譚のほうのはず。今後はむしろ、『H2』(あだち充/小学館)や『BUNGO ─ブンゴ─』(前出)のような、王道のライバル物語に期待できそうかなと。

ツクイ 個人的な願望をいうなら、あまり子どもっぽいやり取りに流れないでほしいかな。大人から見た可愛らしさを描こうとすると、現実の子どもたちから簡単に見透かされてしまうから。どうせなら子どもたちの心へ響いて、野球を好きになってくれるような作品として残ってもらいたいです。

オグマ 僕は現状でも、先をグイグイと読ませる力はスゴイなと思っているんですけど、できれば野球描写ももう少し伴ってもらえると嬉しい。あとは「タイトル問題」ですよねぇ……。

ツクイ パッと聞いて、野球マンガだと判別しにくいのはもったいない。後々に判明するのかもしれないけど、「フロウ・ブルー」っていう単語の意味すらよくわからないっていう(笑)。

オグマ 今年の大河ドラマ『べらぼう』同様、中身が面白くてもタイトルがわかりにくいと、魅力が認知されるまでに時間がかかりますからね。早く多くの人に見つけてもらいたいです。

◆昭和の香りが染みる!懐かしさ満点の『バックホームブルース』

<『バックホームブルース』あらすじ>
プロ野球にしがみつく中年シングルファーザー、青空柑次郎は時代錯誤のイカれた野郎。またの名をロンリーブルース。ホームラン208mの球界最長記録以外は、汚点しか見当たらないこの男と、可愛い3人の子どもたちに幸せな未来は訪れるのか。規格外でハートフルな野球人生を描いた、令和のホームコメディ開幕。

ツクイ 続いて2位の発表。長尾謙一郎先生の『バックホームブルース』です。

オグマ 「時代遅れのポンコツ」と呼ばれるプロ野球選手が巻き起こす、騒動と笑いを描いた作品です。僕のなかで長尾先生といえば、不条理ギャグの『ギャラクシー銀座』というイメージなので、思いのほかキチンとした野球マンガが出てきて驚きました。

ツクイ むしろ昭和の香りが漂う、古くささを持った作品ですからね。でも、そこがいい。映画『男はつらいよ』のような型にハマらない男らしさと、ドラマ『寺内貫太郎一家』のようなドタバタ人情劇の融合。こちらの体調がどんなときに読んでも、ホッと染み込んでいく、ナゾの安心感がある(笑)。

オグマ プレーシーンについても、序盤は野球らしい野球をしていなかったのに、公式戦が始まったらちゃんといい試合が描かれている。マンガ家としてのスキルが高いですよね。

ツクイ 『フロウ・ブルーで〜』が将来性の評価なら、こちらは信頼性で勝ち得た結果。破天荒な父親が、プロ野球の浪漫を追い求めつつ、子どもたちへ不器用な愛情を注ぐ……もう間違えようがない。

オグマ 主人公の青空柑次郎は、今の洗練されたプロ野球には存在不可能な人物像なのかもしれませんけど、彼みたいな選手ばかりを集めた球団があってもいいと思うんですよ。作中でも柑次郎は、決して口先だけではなく、攻守でいいプレーを見せていますしね。

ツクイ 僕は「プロは結果がすべて」という考え方が、そもそも苦手なんです。結果だけで許されるのはアマチュアだけ。プロなら、グラウンドでの立ち居振る舞いやお立ち台でのコメント、プライベートの生き様まで含めて、ファンが憧れる存在であってほしいなと。そういう意味で、柑次郎のような80年代パ・リーグを彷彿とさせる選手は大好物なんですよね。

オグマ 「努力ってもんは、わざわざアピールするこっちゃねー」「(プロの自覚を)他人に悟られたらおしまいよぉっ」という柑次郎の哲学からは、往年の落合博満感すら受けます。

ツクイ 掲載誌が『ビッグコミックオリジナル』であることからも、ミドルエイジ以上を狙った作品なんでしょうけど、時代が一周まわって、間違えて若い世代にも刺さらないかなーと、ほのかな期待も寄せているところです。

◆タヌキ×青春×野球!?『狸田先輩の青春になりたい』

<『狸田先輩の青春になりたい』あらすじ>

オグマ ではトップスリーのラスト、第3位をお願いします。

ツクイ 大島いと先生による『狸田先輩の青春になりたい』を挙げたいと思います。

オグマ 最後は「イロモノ」枠で落ち着きました。甲子園を沸かせたイケメン投手が、じつはタヌキが化けた姿だったという驚きの設定。彼を一番近くで応援すべく、野球部の後輩マネージャーとなった女の子が主人公です。

ツクイ 僕も長い間、野球マンガを読んできましたけど、タヌキと野球を結びつける発想自体が皆無だったので、いい意味で「バカなんじゃないか」と思いました。

オグマ 「いい意味で」をつければ、何をいってもいいと思っていませんか(笑)。

ツクイ イケメンの正体がタヌキだったという話も、1985年の映画『CHECKERS in TAN TAN たぬき』以来で見ました。

オグマ 藤井フミヤたちが山奥から来たタヌキだったという……わからない人は検索してください。

ツクイ マジメな話をすると、大島先生の描くタヌキがとても愛らしいし、主人公のツッコミも面白いし、楽しんで読める作品ですよ。タヌキの歩く擬音に「たぬ…たぬ…」と描いてあって、天才の所業だなと思いました。最高に可愛いです。

オグマ もっとタヌキ描写があってもいいぐらいですよね。タヌキの生態や食文化、身体能力などのアニマルな方面を深掘りしながら、たまに野球をやるぐらいのバランスのほうが、より多くのファンを獲得できそうな気もします。今後はタヌキの家族や、キツネのライバルが登場するといった展開も考えられますよね。

ツクイ この作品は『別冊フレンド』で連載されているんですけど、「好きな人と秘密を共有して急接近する」というのは少女マンガの王道ストーリー。その点では押さえるべきところを押さえているので、話は広がりやすいかと思います。

オグマ かなりこじつけ感のある話を付け加えると、群馬県館林市にあった野球場「分福球場跡」には、タヌキの石碑が建てられているんです。同市の茂林寺が、昔話「分福茶釜」にゆかりの深い場所だからです。「分福球場跡」は、野球の聖地・名所150選にも選ばれている、由緒ある場所。タヌキと野球は、歴史的にも縁のある組み合わせといえるんじゃないでしょうか。

ツクイ 茂林寺のタヌキは、どちらというと徳川家康や吉田茂などに近いイメージですけどね。こっちは「あらいぐまラスカル」みたいな、アライグマ寄りのタヌキですから。

◆野球マンガ界、近況報告とアニメ盛況の兆し

オグマ 野球マンガ界の近況についても話しておきましょう。

ツクイ 『ボールパークでつかまえて!』(須賀達郎/講談社)が、今年の4月期からアニメ化されて、まずまずの評価を得られたことはよかったと思います。原作はずっと面白いんですけど、野球ファンを描いた、いわゆる「観客席もの」はどうしても絵面が地味になりがちなので、どこまで受け入れられるかが心配でした。

オグマ 千葉県にある球団がメインに据えられているということで、千葉ロッテマリーンズとコラボしたイベントも開催されました。この辺り、あらかじめ関係者同士で想定していたように思います。

ツクイ 確かに。講談社は昔からコラボに積極的な印象がありますしね。

オグマ ロッテ以外の本拠地でも、例えば「神宮球場でつかまえて!」とか「東京ドームでつかまえて!」などもやればいい。主人公のルリコにあやかって、各球場のビールの売り子さんを対象にした「ルリコを探せ!」みたいなイベントもできると思いますし。

ツクイ 昔、フジテレビでやっていた「南ちゃんを探せ!」企画を思い出しますね。アニメといえば、『忘却バッテリー』(みかわ絵子/集英社)の2期も決定しました。今は地上波だけでなく、ネット配信などでも気軽にアニメが観られる時代ですから、野球マンガと出会う機会が増えるのはとてもいいことだなと感じています。

◆新連載の注目株『サンキューピッチ』&『スルガメテオ』

オグマ 新しく始まった連載のなかで、何か気になる作品はありますか?

ツクイ 巷間でよく耳にするのは、「少年ジャンプ+」連載の『サンキューピッチ』でしょう。

オグマ 1日3球しか投げられない怪物投手が、高校の野球部に入る話ですね。無料で読める「少年ジャンプ+」は、読者の間口が広いので、話題に上がりやすい印象です。

ツクイ 主人公の必殺パワーに厳しい制限を設けるというのは、少年マンガにおけるイロハの「イ」ですから、3球勝負はアリだと思うんです。『ドラゴンボール』の元気玉がいつでも100発まで打てたり、『NARUTO ─ナルト─』の九尾の力が最初から自由自在に使えたりしたら、面白味がなくなっちゃいますから。問題は、3球だけの投手を使ったネタをどこまで用意できるのか、という点ですよね。

オグマ バリエーションが限られてしまうんじゃないかと?

ツクイ 場面の見せ方と、ノリの濃さで押し切るのにも限界がありますから。独自のルートを開拓して、大化けしてほしいです。

オグマ 今回のランキングでは、コミックス1巻の発売日が選考条件に間に合わなかったため、入りませんでしたけど、『週刊少年マガジン』で連載している『スルガメテオ』(田中ドリル/講談社)はどうでしょう?

ツクイ あれは、だいぶ中身の濃い良作だと思いますよ。都内のバッティングセンターに、160km/hを計測するスルガメテオというマシンがあり……というのは、あくまで導入のつかみ。スルガメテオも作品の内容も、正体は「純粋な野球好き」そのものですよ。田中ドリル先生の野球愛が、随所に伝わるマンガになっていると思います。

オグマ 今後も続いてほしい作品のひとつですね。

ツクイ 別ジャンルのマンガにもかかわらず、野球ネタを取り上げていて面白かったのが、『カモのネギには毒がある 加茂教授の人間経済学講義』(甲斐谷忍、夏原武・原案/集英社)。甲斐谷先生は、野球マンガ『ONE OUTS』を描かれていたことでも有名です。『カモネギ』は経済学の話なんですけど、7巻〜9巻ぐらいまで大学の名門野球部に蔓延る利権構造を描いていて痛快でした。

オグマ 野球マンガではない作品だからこそ描けた、闇の部分かもしれませんね。

ツクイ 意表を突くところだと、中年の金欠ライフを描いた『こづかい万歳』(吉本浩二/講談社)の8巻。年2回の甲子園にかける「開会式感涙おじさん」が登場し、ネットを中心に話題を呼びました。

オグマ ニッチなネタでは、昨年の戦隊ヒーロー『爆上戦隊ブンブンジャー』の23話で、島本和彦先生の『逆境ナイン』パロディが放映された事件を挙げておきたいです。サブタイトルもズバリ、「炎の逆境野球」。島本先生本人も、SNSで感想をアップするほどの完成度でした。

ツクイ 子どもたちに伝わらないと承知で、全力投球してしまうスタッフに「男球」スピリットを感じますね。次世代にもぜひ、島本DNAを受け継いでもらいたいです。

オグマ 以上のようなところで、今年はまとめておきましょうか。どうもお疲れさまでした。

ツクイ ありがとうございました。

<『サンキューピッチ』あらすじ>
神奈川県横浜市周辺では、夜間に現れる「野球部狩り」がウワサになっていた。「3球勝負」無敗といわれる彼の正体は、横浜霜葩高3年生の桐山不折。真実を知った野球部主将の小堀へいたは、ケガで「1日3球まで」の投球制限がある桐山をチームの秘密兵器として勧誘する。高校生活の終了間際に始まった、逆転劇の行方を刮目せよ!

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  • 「戦隊ヒーロー『爆上戦隊ブンブンジャー』の23話」→キャラクターデザイン をした島本和彦先生の繋がりって感じある。
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