GBA野球ゲーム史上最高のグラフィックを実現させた『グレイテストナイン』【プロ野球ゲーム遊戯】

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2025年06月09日 17:31  ベースボールキング

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◆ 野球ゲームの移り変わりから見るプロ野球史〜第45回:『グレイテストナイン』



 35年前、メガドライブで時代を先取りし過ぎた野球ゲームが存在した。



 平成が始まったばかりの1990年、電話回線とメガモデム(メガドライブ専用モデム)を利用した「テルモード」で通信対戦ができた『TEL・TELスタジアム』(サンソフト)である。ジャンルは野球シミュレーションゲームで、試合はコマンド入力式で進行。なお、バッテリーバックアップ機能搭載で32人分もの対戦相手の電話番号を登録できた。ちなみに説明書にはこんな注意書きがある。



「電話回線を使用する為、対戦中は、その回線の電話が使えません。家の方の迷惑にならないように注意しましょう」



 いや携帯電話とか一般家庭には普及してないしどう考えても迷惑なんじゃ……と思わなくもないが、長時間遊ぶと莫大な電話料金が請求されてママに激怒されるところまでがセットである。当時のセガはとことん攻めていた。『THEプロ野球91’』(セガ)のパッケージキャラクターには最強西武ライオンズの象徴・清原和博や秋山幸二ではなく、最多犠打の平野謙をチョイス。メガドライブからダイヤルQ2を介して、「電話1本。プロ野球情報を画像で瞬時にキャッチ!!」を売り文句に現在の速報アプリのようにリアルタイムで一球速報を配信した、『日刊スポーツプロ野球VAN』の発売もなんと1991年だ。







 そして、90年代中盤の32ビットゲーム機戦争の渦中にセガサターンでリリースされたのが、リアル系野球ゲームの先駆者といっても過言ではない『完全中継プロ野球グレイテストナイン』だった。まだ『プロスピ』が存在しなかった1995年5月末、ファミコンショップの試遊機でグレイテストナインを見た時の衝撃は忘れられない。実写取り込みとポリゴンで表現されたグラフィックは美しく、操作はオーソドックスな野球ゲームだったが、応援声援モードで「関東」「名古屋」「関西」「広島」「博多」と各地の方言が楽しめるセガの遊び心も忘れていない。だがサターン本体が4万4800円、ソフトは5800円と計5万円超えの大人のゲーム機は地方の中・高校生にはなかなか手が届かない高嶺の花だった。



 グレイテストナインはセガサターンで6作品続く毎年恒例の人気シリーズとなったが、2002年8月8日に任天堂のゲームボーイアドバンス(GAME BOY ADVANCE)用ソフト『グレイテストナイン』がリリースされた。なお、同じくセガのスマイルビット開発ソフト『プロ野球チームをつくろう! アドバンス』と同日発売である。



 容量の関係で名物の雨天中止はなく、使用できるのは実在4球場のみ。それでも2002年開幕時データなので、日本ラストイヤーの松井秀喜(巨人)がしっかり収録されている。このGBA版も遊び方はいたってシンプルだが、打撃はAボタンを押しっぱなしにしてタイミングを測り、コースを合わせてボタンを離すという仕様なので慣れるまでに少し時間が掛かる。投球は方向キーに割り当てられた球種を入力するパワプロ風で、守備・走塁の操作はおなじみの往年のファミスタ風だ。



 本作最大のウリはそのグラフィックだろう。GBAのリアル系野球ゲーム自体が珍しく、その限られた同機のスペックでも、しっかりと選手の特徴を捉えたグラフィックを実現している。逆指名ドラフトでしのぎを削った、長嶋巨人や王ダイエーの重量打線はもちろん、パ・リーグの目玉対決、西武の松坂大輔vs.大阪近鉄の中村紀洋やタフィ・ローズの固有フォームも再現できてしまう。







 当時、世の中はサッカーの日韓W杯で盛り上がっていたが、グレイテストナインユーザーはアルゼンチン代表の点取り屋エルナン・クレスポより、巨人でマルちゃんの背番号48を継承したフェリペ・クレスポに夢中になった。なお、哀しみの打率.122に終わり1年で解雇されたクレスポだが、本作でDH起用してリベンジに燃えたG党も数多い。



 それにしてもオールスターモードの豪華メンバーは、当時を知るファンにはたまらない。金本知憲、ゴジラ松井、ペタジーニ、清原和博、高橋由伸が並ぶ全セのバッテリーは上原浩治と古田敦也。全パも負けじとこの年トリプルスリーを達成する松井稼頭央から始まり、谷佳知、ローズ、中村、カブレラ、小笠原道大、井口資仁らビッグネームがズラリと顔を揃える。



 懐かしい2002年のプロ野球を代表する男たち。なお、時代を象徴するSMAPの名曲『世界に一つだけの花』が収録されたアルバムが発売されたのは、2002年7月24日のことだ。確かにグレイテストナインシリーズは、ファミスタやパワプロのようにナンバーワンの売上げを記録したソフトではなかった。ただ、21世紀初頭のこの時期、携帯ゲーム機の国産リアル系プロ野球ゲームは他になく、ゲームボーイアドバンスの『グレイテストナイン』は、まさにオンリーワンの存在だったのである。







文=中溝康隆(なかみぞ・やすたか)

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