
シャッターが半分閉まった薄暗い飲食店の中、Aさんはカウンターに積まれた段ボール箱をぼんやりと眺めていました。3年前に脱サラし、飲食店のフランチャイズオーナーとして独立した当初の希望に満ちた表情は、もうどこにもありません。顔には深い疲労の色が刻まれ、肩は力なく落ちています。
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開店当初の1年間は、まさに順風満帆でした。会社員時代に培った接客スキルと、目新しさも手伝って、店内は連日賑わいを見せていたのです。しかしその勢いは長く続かず、2年目に入ると客足は徐々に遠のき、売上は右肩下がりになっていきます。
契約書には経験豊富なエリアマネージャーが定期的に店舗を訪れ、経営指導や販促支援をおこなうと書かれていました。しかし初期研修こそあったもののエリアマネージャーが店に顔を出したのは最初の数回だけです。売上が下がってきて本部に問い合わせても、店舗に来る気配もなく具体的な改善策の提案もありませんでした。
それでもAさんは、毎月定められたロイヤリティを本部に支払い続けてきました。契約している者の義務だと考えていたからです。しかし義務を果たしているにも関わらず、契約にあったはずのサポートという権利は、全く享受できていません。経営の悪化が続き、Aさんは店舗を閉じるという決断を下さざるを得ませんでした。
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Aさんのように、契約書に書かれているはずのサポートが受けられなかった場合、本部に何かしらの罰則を与えることはできないのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに聞きました。
過去には損害賠償になった事例も
ー十分な支援が受けられない場合、ロイヤリティの支払いは拒否できますか?
一方的なロイヤリティの支払い拒否は避けたほうがいいでしょう。
フランチャイズ契約において、加盟店は本部の商標や経営ノウハウを使用する対価としてロイヤリティを支払う義務を負っています。同時に本部は、契約に基づき加盟店に対して適切な指導や援助をおこなう義務(指導援助義務)を負っているのが一般的です。
仮に加盟店側が一方的に支払いを停止すると、「ロイヤリティ支払い義務の不履行」という契約違反状態に陥る可能性が高いため、本部から契約解除や違約金、遅延損害金などを請求されかねません。くれぐれも自己判断での支払い停止は避けるべきです。
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ー過去に何か判例はありますか?
過去に、本部の指導援助義務違反を認めた判例があります。たとえば東京高裁2009年(平成21年)12月25日判決では、スーパーバイザーによる訪問回数が十分でなく、スキルも不十分であったことから具体的な改善指導がなされなかったと指摘されました。結果的に本部は債務不履行(指導援助義務違反)を認め、損害賠償請求を認容しています。
判例ではスーパーバイザーが置かれているにも関わらず、指導の質や頻度、具体性、継続性に問題があるとしています。Aさんのケースのように、実質的な指導が長期間おこなわれていない状況は、これらの判例に照らしても問題視される可能性があります。
自身で出来る対策はまず義務を果たすこと
ー契約不履行とならないために気を付けることは何ですか
加盟店側が本部の「指導援助義務違反」を追及する際に、逆に加盟店自身の契約違反を指摘されないように注意しましょう。ロイヤリティの支払いをはじめとする、ご自身の契約上の義務は履行し続けてください。
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契約内容を正確に把握し、支援が不十分だと感じたら、具体的にどのような支援をいつまでに実施してほしいのかを書面で本部に要求しましょう。経営努力の記録を残しておけば、「経営不振は加盟店自身の努力不足」という反論に対抗できる材料となります。
Aさんの場合、長期間にわたり実質的なサポートがないままロイヤリティを支払い続けているため、諦めてしまう前に弁護士などに相談し、法的な観点からの検討をおこなうことをおすすめします。
◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士 「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないといわれる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)
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