これまでITを活用した企業の変革を表すキーワードとして使われてきたDX(デジタルトランスフォーメーション)。バズワードとしての存在感はこのところAIにすっかり奪われたが、そのAIもDXを推進するテクノロジーの一つであることは間違いない。では話題のAIエージェントは、企業のDXにどのような影響を与えるものなのか。
アクセンチュアが説く「AIエージェントはDXの進め方をどう変えるか」
アクセンチュアが2025年6月4日に開催した、同社の年次レポート「テクノロジービジョン 2025」に関する記者説明会の内容を紹介しつつ考察する。
●AIにフォーカスするアクセンチュアの年次レポート
同レポートは今後数年間で企業が注目すべきテクノロジートレンドをまとめたもので、2025年版は「AIの自律性が切り開く未来」に焦点を当てている。米Accentureが2025年1月に発表した英語版を、日本法人が日本語版としてまとめたのを機に会見を開いた。会見では、アクセンチュアの山根圭輔氏(執行役員 テクノロジーコンサルティング本部 チーフ・テクノロジー・アーキテクト シニア・マネジング・ディレクター)が説明役を務めた。
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「AIエージェントと共に働き、生きることが常態となる世界が間近に迫っている。一方で、AIエージェントを自律させてよいのか、人間にとって不利益にならないのか、との不安もある。そうした中で、これから企業でAIエージェントを生かすためには『信頼』がカギを握ることになる」
同レポートからAIエージェントにフォーカスして説明して山根氏は、こう切り出した。その上で、「自律して任せることをどうやって、信頼するか。人ではないものを信頼するには深く知り、理解することが必要だ」とも述べた(図1)。
同レポートの内容については発表資料をご覧いただくとして、ここでは先に述べたように、AIエージェントが企業のDXにどのような影響を与えるのかを取り上げる。
同氏は「企業はAIの技術革新の恩恵を受け、AIエージェントの活用を前提とした新たなテクノロジーパラダイムへ移行しつつある」と説いた(図2)。
これまでは生成AIを使ったアプリが人間の作業を支援してきたが、これからは特定のタスクを自律的にこなすAIエージェントを活用するようになる。その先にはAIエージェント同士が対話しながら人間を支援する「マルチエージェント」の時代が来る。こうした流れの中で、同氏は「AIエージェントがもたらすのは(企業のAI活用における)まさしく時代の転換期だ」と強調した。
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その例として、ソフトウェア業界の動きを挙げた。「AIエージェントの一般的な利用が進むソフトウェア業界では、生成AIによる産業構造の変化が顕在化している」と指摘した同氏は、さまざまな報道から「Googleで新たに導入されるコードの25%以上をAIが生成」「プログラマーの62%が『AIを日常的に活用している』と回答」「プログラミングの仕事の4分の1以上がこの2年で消滅」「プログラマーの雇用はドットコムブーム期の半分ほどに減少」といった動きを紹介した(図3)。
●AIエージェントの活用が企業のDX推進の大本命
「AIと人間が信頼関係を築ければ、AIを使い倒して爆発的な効果を生むことができる。そのためにも、どこまでをAIに任せてどこから人間がやるべきか、その境界線を見定めることが大事だ」
山根氏は、AIと人間の関係について、改めてこう強調した(図4)。
こうした関係作りの先進的な取り組みとして、アクセンチュアが支援している明治安田生命保険の事例を挙げた。
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同社は保険営業の高度化を図る目的で、生成AIを活用してさまざまなアウトプットの創出やデジタル人材の育成に取り組んでいる。アウトプットの一例としては、営業活動を支援するAIエージェントの「デジタル秘書」を約3万6000人の営業職員に展開している(図5)。
さらに詳しい内容は発表資料をご覧いただくとして、同氏は「この取り組みが進むと、AIエージェントによってそれぞれの業務が自動化されるという話にとどまらず、企業全体がデジタル化されることになる」と述べた。
山根氏はこうした説明をした上で、AIエージェントが企業のDXに与える影響について、「AIエージェントが人間(従業員)と行動を共にして、現場のアナログ情報を自律的にデジタル化する。そのデジタル化した情報を基に、AIエージェントがDX化を自律的に推し進めると共に、さらに賢くなって活躍の場を拡大する」と説明した(図6)。
今回は、この図6をぜひとも紹介したいと思った。特にステップ3に描かれているように、AIエージェントの自律的行動によるDX化が企業全体のDXへと広がるというのが、アクセンチュアが訴求したいメッセージだと受け取った。
●AIエージェントが必ずしも企業の活力を増強できるとは限らない
筆者も取材を重ねる中で、AIエージェントの活用が企業のDX推進の大本命だと見ている。そうするとAIエージェントと同様、DX推進のキーワードにも「信頼」が挙げられるだろう。考えてみると、信頼はビジネスおよびマネジメント、そしてそれらを合わせた経営そのもののキーワードでもある。つまり、DXはAIエージェントの活用によってまさしく経営改革に取り組むことを意味するのである。
ただ、AIエージェントは業務の生産性向上に有効だが、必ずしも企業の活力を増強できるとは限らない。それは、AIエージェントを活用したDXを進めることによってどのような企業像を目指すのか、それを従業員が理解してモチベーションを高められるかどうか、といったテクノロジーではない人間の意気に関わるところがあるからだ。
それこそ、経営者の出番であり、だからこそ経営改革になり得るのである。この点も取材を重ねるたびに強く感じるようになってきたので、一言付け加えておきたい。
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