キッチン・水回りは重点的に毒餌を置くべき気温と湿度が上がる季節、「G」の気配が心配になってくる。清潔な部屋を心がけていても、いつの間にか台所の隅に……そんな悪夢を防ぐには、その生態を知ることが肝心だ。
“ゴキブリ博士”としてYouTubeでの情報発信も積極的に行っている、害虫駆除会社「クリーンライフ」の大野宗社長に自宅で有効なG対策を聞いた。
◆ゴキブリ駆除技術日本一の社長
脱サラしてG駆除事業を1997年に立ち上げた大野氏。大手チェーンから個人店まで、北海道から沖縄まで2000店舗の飲食店と契約し、99.5%のお店で完全駆除を実現している。
「国内の飲食などでG駆除を行なっている会社は現在約5000社。その多くは毎月1回の駆除作業を行う契約が主流ですが、我々は年2回の駆除作業が基本です。
その間にGが発生した場合は追加作業を無償で行う保証をつけており、1000店舗以上を担当する規模の駆除会社の実績としては日本一を自負しています」(大野氏、以下同)
◆日本3大ゴキブリの特徴
世界に3000〜4000種類が存在するとされるGだが、日本の屋内環境で繁殖できる種類は7種類。その中で主に問題になるのは「クロゴキブリ」「チャバネゴキブリ」「ワモンゴキブリ」の3種類だ。
「家庭用ゴキブリと呼んでいる『クロ』は、もともと日本の自然界にいたGです。石の下などで冬を越します。『チャバネ』は熱帯性の外来種で、寒い環境では生き残れず、9割型は年中暖かい環境の飲食店に出るため、業務用ゴキブリと呼んでいます。
最近は気密性の高い築浅の住環境などにも住みつき、YouTuber・最強ちゃんの汚部屋にも湧いているヤツです」
大野氏のもとには北海道の飲食店からもG駆除の依頼があるそうだ。屋外や一般家庭ではGを見かけることはまずない地域でも、フードコートや地下街など気候の影響を受けにくい場所には「チャバネ」も繁殖するという。
「沖縄の自然にいた熱帯性のGが『ワモン』で、近年は生息地域が北上しています。私が見た中では茨城県が最北ですが、北海道にも出るという話も聞きますね。『ワモン』は東京だと下水管の中や汚水槽、ビルの地下室などに多く、下水管などを上がって住居に侵入する場合もあります」
◆戦わずして勝てる?Gの侵入経路を解説
大野氏がGの主な侵入経路のひとつとして指摘するのが床下換気口だ。床下は湿度が高く、Gが寄り付きやすい場所のひとつだという。
「最近の家は床下の地面がコンクリートの『ベタ基礎』で、ひと昔前から換気口の形も変わっていますが、それでもGは自由に出入りできます。
和室などがあって、隙間の多いつくりの家だと、簡単に床下から床上へと上がってくるので、やはり古いタイプの物件ほどGは室内に出やすいです」
戸建ての駆除依頼では、メッシュ状のカバーで床下換気口を覆うだけでも大きな効果が確認される事例もあるそうだ。
◆住宅と屋外をつなげる穴を要チェック
また、排水管と排水口も要チェック。排水管や排水口は、下水から臭いや害虫が上がってこないように水を溜めて蓋をする仕組みになっているが、数ヶ月単位で留守にしていた部屋などでは、これが上手く機能しなくなっている場合がある。
「長く買い手のつかない空室で、水の蓋が干上がって『ワモン』が隣の部屋まで広がっていたケースもありました。
加えて、古いワンルーム物件などに多い水回りの手抜き工事にも注意が必要です。シンク下のホースと下水管へとつながる塩ビ管の接続部分の隙間を埋めず、ほったらかしの業者がたまにいます。シンク下の扉を開けて下水臭がしたら、このパターンを疑ってください」
同様にエアコンの冷媒ホースなどを外へ通す穴に隙間ができている場合もあるという。
「一般家庭ではどんなに気をつけていても、とくに『クロ』の侵入を完全に防ぐには限界があります。
『クロ』の飛翔能力は高くないので、戸建てより集合住宅で階数が上の部屋ほど室内に現れる確率は下がりますが、壁や排水管を伝ってベランダなどに迷い込むことも考えられます」
◆1回の交尾で一生分の卵を産む可能性も
「Gのメスは1回交尾したらオスの精子を溜め込んで一生分の卵を産むことができます。昔、水と髪の毛一本だけで『クロ』が何日生きられるか実験したら、飼育ケースにメス1匹しか入れていないのにどんどん卵を産んでいました」
「クロ」はひとつの卵鞘(らんしょう、卵の集合体)から通常15〜28匹、「チャバネ」はひとつの卵鞘で30〜40匹が生まれるという。知れば知るほど厄介な虫だ。なぜ飲食店での完全駆除は可能なのか?
「脱皮を繰り返して成長するGは、幼虫も成虫も生息場所や餌も変わらないので、駆除業者からすると同じ方法で駆除できます。
また、『チャバネ』は寒い外では生きられず、とくに卵を持つメスや生まれたての幼虫はほとんど動かず、独身のオスでも建物を変えるほど行動範囲は広くない。Gが住み着きにくい環境なら、わざわざ隣の建物などから移り住むようなこともあまりありません」
◆蒸散殺虫剤タイプはG駆除に不向き
ただ、隣の物件で蒸散殺虫剤を使われたときなどは、住処を移すこともあるようだ。
「蒸散タイプは空間にガスを充満させるので、空間を飛翔しているハエや蚊には有効ですが、そもそもGは空間にいるのではなく、家具の裏などに潜んでいます。
問題は床下や冷蔵庫の裏など隙間の奥にいるGで、そこまで致死濃度のガスが瞬時に行き渡らなければ逃げるだけ。しかも、換気するとガスの効果は無くなります」
つまり、これら蒸散させている時しか効果はなく、換気後に侵入してくるGに対しての抑止力にはならないということだ。
最近発売された「電気で加熱して常時薄いガスを出し続ける蒸散剤」は上記のタイプと異なり、Gがあらたに侵入してくるのを防げるが、Gを死滅させるほどの効果はないという。
大野氏が推奨しているのは“毒餌タイプ”だ。
「当社も含めて、多くの駆除業者はベイト剤と数ヶ月間効果が持続する有機リン系の液体タイプの薬剤などを組み合わせて使っていますが、一般家庭ではベイト剤だけで十分です。
業者が使うベイト剤も市販商品の“毒餌タイプの薬剤”と中身は似ています。1回の駆除作業を徹底的に行えば、年2回の作業でも完全駆除は可能です。逆に1箇所でもコロニーを見逃すと、すぐにGは増えてしまいます」
◆G駆除の2大ポイント
基本的なことだが、ゴミやモノが多いとGが好んで隠れられる場所が増えるため、部屋を片付けて衛生的な状態を保つことは大切だ。
「『チャバネ』は5mm、『クロ』は1cmほどの隙間が一番落ち着く。飲食店の場合、厨房機器の下周りと、厨房機器と壁の隙間にゴミが多く、すべて除去する必要があります。そのゴミ掃除だけで3時間くらい掛かることもあります。
すべてのゴミをかき出さないとGをすべて殺し切れないし、新たな個体が入り込んですぐに数を増やしてしまいます」
毒餌を置く際はいかにGが毒餌に巡り合うかがポイント。多ければ多いほど効果的だが、侵入経路や習性を踏まえて設置することも大切だ。Gは空気が澱んでいて、暖かくジメジメした暗い場所、触角が2つの面に当たる隙間などを好み、移動時も隅を歩く習性があるという。
「飲食店の駆除作業では毒餌を1000か所に打ち付けることもありますが、一般家庭では数個から10個もあればいいと思います。Gは脱皮に油分が必要で、水も生息の絶対条件ですが、油分でベタベタした面や埃の上は脚を取られるので意外と歩きたがりません。Gの気持ちになって部屋の四隅や壁・床の隙間、冷蔵庫や水回りの付近などにも置きましょう」
毒餌がGを誘き寄せられる範囲は製品状態や設置場所によって異なるが、20cm程度を目安に考えておいた方がいいそうだ。その効果は開封直後が最も強く、1ヶ月もすると誘き寄せるための臭いが薄れてしまう。
「基本的に毒餌タイプならどのメーカーでも構いません。ただ、毒餌の中には乾燥で硬くならないようにグリセリン入りのタイプもあるんですが、グリセリンに忌避性を示す個体もいる点は留意すべきかもしれません」
◆Gにまつわる都市伝説は本当か
「“毒餌を置くと外のGまで引き寄せてしまう”という都市伝説がありますが、そこまで強い誘引効果はないです。それくらい誘き寄せてくれるなら、我々も苦労しませんよ」
ちなみにGは部屋などが暗くなって1時間後が最も活動的になる習性もあるという。就寝中に口の中へ入り込んでくるなんて話もあるが……。
「確率はゼロではありませんが、そんな大胆な行動をする個体は極めて稀でしょう。服にくっついて部屋に侵入するといったことも考えにくい。ただ、飲食店で従業員の鞄の中などに入り込むことはあり得ますね」
Gの習性を頭に叩き込んで夏に備えたい。
<取材・文/伊藤綾>
【伊藤綾】
1988年生まれ道東出身、大学でミニコミ誌や商業誌のライターに。SPA! やサイゾー、キャリコネニュース、マイナビニュース、東洋経済オンラインなどでも執筆中。いろんな識者のお話をうかがったり、イベントにお邪魔したりするのが好き。毎月1日どこかで誰かと何かしら映画を観て飲む集会を開催。X(旧Twitter):@tsuitachiii