写真はイメージです―[FIRE投資家が教える「お金・投資」の本質]―
東京23区の中古ワンルームマンション中心に不動産投資を展開。現在、37戸の物件を所有し、時価資産額約10億円、年間家賃収入約4000万円の個人投資家・村野博基氏。投資において「未来を予測し賭けてはいけない」と村野氏は言います。そして、未来は「最高」と「最悪」の間のどこかに着地しするもので、どのような未来でもその“次の”選択肢を持つことが大切と力説します。その真意とは。
◆株式投資だけでなく「そもそも未来は読めない」
みなさんは「投資」と聞いたとき、どんな印象を持つでしょうか。多くの方にとっては資産を増やすべく、「値上がりするモノ」を安く買うこと。つまりは「未来を当てる」ゲームになっているのではと私は思います。
株式投資の場合には、さまざまなストーリーを考えて「これからヒットする商品」「業績が良くなる企業」「業界のプレゼンスが伸びる企業」などを探し出すのかもしれません。または有事の「金」も変わらず人気ですし、将来性を見越して「暗号資産」の値上がりに賭ける選択もあるでしょう。
しかし、株式投資に限らず多くの投資では「未来は読めない」という大きな壁が存在します。
そもそも企業業績はそのときのビジネス環境によって変わります。「今、〇〇が流行っているから、このペースでいけばもっと増えるはず」と予測したとして、それが「必ず当たる!」と断言できる方はそうはいないでしょう。飲食業などは特に流行り廃りが早い業態です。2020年代を振り返ると、唐揚げの持ち帰りチェーン店やタピオカ屋、高級食パン屋などが流行りましたが、その後大きく数を減らしています。コロナ禍を経て大きく変化したビジネス環境に翻弄された例と言えます。
全体を見ても日本株の場合には2012年のアベノミクス以降、株式相場は堅調に推移しています。2015年のチャイナショック、2020年のコロナ禍ショックなどがあっても、日経平均株価は高値を更新し続け、結果的に多くのプレイヤーが資産を増やしている状況です。
◆未来予測で資金を投下するのは「投機」
しかしさらに振り返ると、2008年のリーマンショック直後はバブル崩壊後最安値の6994円を記録、2011年の東日本大震災の直後も日経平均株価は1万円を割れるなど散々たる状態でした。今だからこそ「当時は株価が安かった」と言えますが、当時「15年後には日経平均株価は4万円を越える」と断言できる人はいなかったでしょう。
未来は読めないもの。その時に選んだ選択肢が「良かったのか? 悪かったのか?」は後の”未来”にならないと分からないものなのです。
未来の出来事はそもそも最高と最悪の間のどこかにあるもの。ですが、得てして人は「聞きたいことを聞き、見たいものを見る」という傾向があります。すると将来どうなるかを考える際に自然と「最高の未来」を予測してしまいがちですが……。本来は「未来はこうなる」と決めるのではなく、「こんな未来もあるかも? いや、違う未来もあるかも?」と想像して楽しむのが良いのでは、と思うのです。
そして「未来は分からない」という事実を前提に考えると、その未来予測をベースにして資金を投下するのは、結局のところ精度の差はあるにせよ「投機」です。「上がるのか? 下がるのか?」を当て続けるのはやはりどうしても難しいものではないでしょうか。
では、投資はどうするのがよいのでしょう? 私は投資とは「常に選択ができる状態を維持する事」だと考えています。私はどんな未来が来ても「負けない」ための選択肢を残すことを是として、投資を行っています。
◆負けない投資とは何か
投資において負けない状態とは……。コイントスの話を例にして説明します。
コインを投げて表が出れば掛金が2倍になり、裏が出れば掛金は没収されるゲームがあるとします。これまで5回連続で「表」が出ていて、チップを300枚持っているとします。みなさんなら次、どちらに何枚かけるでしょうか?
予測の仕方はさまざまです。「5回連続で表なら、そろそろ確率的には『裏』。だから、裏に100枚!」「表がずっと出ているならば流れは『表』。次も表に200枚!!」と予測する方もいるでしょう。しかし、この予測は結局、博打の域を出ません。
では、このゲームを「投資」にする場合にはどのように考えるか? まず私は「表に1枚賭ける」でしょう。もしも裏が出て負けた場合に、次は表に2枚、さらに裏が出て負けたら、倍の4枚を表に掛けます。負けても倍々でコインの枚数を増やす方法です。前の倍を賭けるのですから、賭けるコインの枚数は1、2、4、8、16、32、64、128と増えていきます。ここまで合計で256枚ですから、300枚あれば8回勝負ができる計算です。そして、最大8回の内1回でも表が出れば損はしません。8回全てが裏になる確率は1/2の8乗で1/256なので、255/256の確率で負けない勝負になるのです。
つまり投資として考えた場合、これは「表か裏か」を当てるゲームではありません。どれだけチップを事前に準備できるかという「資金力」と、1回の勝負ではなく計8回の勝負という「時間」のゲームであると考え方を変えること。それによってほぼ負けない”投資”に変えられるのです。
ちなみにこれはマーチンゲール法(倍賭け法)と呼ばれるカジノの「必勝法」です。ただ、私から言わせるとマーチンゲール法は「勝つための方法」ではなく「負けないための方法」です。何を目的にカジノに行くかは人それぞれですが……。せっかく行くのであれば、ちまちまと負けない方法を選ぶのではなく、「未来はどうなるか!?」というドキドキを味わうべきかもしれません(笑)。
◆最悪の未来を予測して回避する
最高の未来と最悪の未来、結局その間のどこかに未来は着地します。コイントスのゲームの場合、最高の未来は「勝つこと」であり、最悪の未来は「手持ちがすっからかんになること」です。最悪の未来に至るまでには必ずステップとして「どちらに賭けるか、何枚賭けるか」を決める選択肢が存在します。それぞれの選択肢において、回避するための打ち手となる「倍賭け」があり、事前に「チップをより多く用意する」という準備ができると「投資である」と考えています。
もしコイントスのゲームで、潤沢なチップがなければ……。そもそも回避するための打ち手が機能しません。だとしたら、それは最初から手を出してはいけないか、諦めて博打の勝負をするしかないのです。
大事なことは未来を予測して「一つに絞る」のではなく、複数の未来を想像し、それぞれに対する打ち手を用意して選択肢を途切れさせないこと。そしてその打ち手を機能させる準備を現在の時点ですること。これらこそが「投機」から「投資」に変える方法ではないかと思っています。
<構成/上野 智(まてい社)>
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【村野博基】
1976年生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、大手通信会社に勤務。社会人になると同時期に投資に目覚め、外国債・新規上場株式など金融投資を始める。その投資の担保として不動産に着目し、やがて不動産が投資商品として有効であることに気づき、以後、積極的に不動産投資を始める。東京23区のワンルーム中古市場で不動産投資を展開し、2019年に20年間勤めた会社をアーリーリタイア。現在、自身の所有する会社を経営しつつ、東京23区のうち19区に計38戸の物件を所有。さらにマンション管理組合事業など不動産投資に関連して多方面で活躍する。著書に『43歳で「FIRE」を実現したボクの“無敵"不動産投資法』(アーク出版)