オリックス・麦谷祐介インタビュー(前編)
ルーキーの活躍が目立つ2025年のプロ野球。左翼・西川龍馬、中堅・中川圭太、右翼・杉本裕太郎とキャリア十分のレギュラーが君臨するオリックス外野陣にあって、ドラフト1位ルーキーの麦谷祐介(富士大)も抜群の存在感を放っていた。
麦谷は開幕一軍入りを果たすと、4月29日のロッテ戦ではサヨナラ適時打を放つなど印象的な活躍を見せた。走塁面ではチームトップ(6月19日現在)の8盗塁(2盗塁刺)と貢献している。
そこで、麦谷のことを富士大時代から取材していたライターが、本人を直撃した。大学時代には「球場の全員がオレのことを見てるだろと思ってプレーしています」と語っていたこともある麦谷は、プロ野球選手になった今、どんな思いでグラウンドに立っているのだろうか。
インタビュー後に左手薬指の骨折で戦線離脱したものの、麦谷が近未来のオリックスを背負って立つ可能性は十分にある。その強烈な個性が滲む言葉をお届けしよう。
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【ファンを喜ばせたら勝ち】
── ここまで数字以上に存在感のある活躍を見せています。本人の実感はどうですか?
麦谷 いろんな感情はありますけど、結果だけを見ると「もっとやらないと」と感じます。ただ、プロとして仕事で野球ができているということは、幸せだなと思います。
── 1年前の春に取材した際には、「自分が本当にプロに行けるのか?」と不安を吐露していました。
麦谷 そうですね。内心ではドラフトにあまり期待をしていなかったので。
── どうしてですか?
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麦谷 富士大の先輩の金村尚真さん(日本ハム)はプロに行きましたけど、山城響さん(JFE東日本)はあれだけ打ってもプロには行けませんでした。「あの選手が行けないんだ?」というケースをいろいろと見てきたので。
── 麦谷選手を巡っては、ドラフト前に内面的な資質を危惧する声も聞こえてきました。当然、本人の耳にも入ったことだろうと想像します。
麦谷 それはそうですね。
── 麦谷選手のプレーや練習する姿を1日でも見たら、誤解は解けただろうと感じます。当時は相当な悔しさを感じていたのでは?
麦谷 悔しさというよりも、面倒くさいなという思いはありましたけど(笑)。ただ、いろんな人が僕のことを気にしてくれているんだと前向きにとらえていました。あとは「結果で黙らせてやろう」としか思っていません。
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── 実際に大学4年秋には、リーグ戦10試合で打率.381、3本塁打、10打点、15盗塁の大暴れでした。
麦谷 キャリアハイでしたからね。でも、ネットでいろいろと書き込んでいる人も、実際に対面しちゃえばいい人だろうと思うんです。プロに入ってからはアンチと言われるような方から何か言われることもなく、たくさんのファンの方々に応援いただいています。ただ、プロに入って、心ない声が飛ぶ場面を目にしたこともあります。それも現実だとは思うんですけど、僕は「ファンを喜ばせたら勝ち」と思っています。
【兄貴分と慕う西川龍馬の存在】
── オリックスはリーグ3連覇を成し遂げたあと、昨年は5位と失速しました。前任の中嶋聡監督がチーム内の約束事だった全力疾走が徹底できなかったことについて、「慣れ」と発言したことも話題になりました。オリックスが麦谷選手をドラフト1位で指名した背景には、球団が起爆剤として期待している部分も大きいと想像します。
麦谷 それは自分でも感じています。とにかく元気にプレーして、チームにいい影響を与えられたらと考えています。岸田(護)監督からも「試合に入っても萎縮することなく、ルーキーらしくアグレッシブにやってほしい」と言われています。
── 実際にプロに入ってみて、驚いたことはありますか?
麦谷 ミスショットが少ないことですね。センターの守備位置から見ていても、プロのバッターは甘いボールを1球で仕留めてくる。打席に入ってみても、ピッチャーもコントロールがよくて、甘い球が1打席で1球くるかどうか。甘い球を仕留められなければ、負け。食うか食われるかの世界だと痛感しました。
── プロ入り後の発言を聞く限り、西川龍馬選手を兄貴分と慕っているようですね。
麦谷 いろんな先輩にお世話になっているんですけど、とくに龍馬さんとは野球の話をさせてもらっています。とくにメンタル面の話になります。
── 麦谷選手はよくも悪くも、いい時と悪い時の波が激しかった印象です。
麦谷 おっしゃるとおりです(笑)。大学の時から、悪い時はとことん悪いので。でも、プロは毎日試合があって、いつも同じメンタルを保つことが大事だと龍馬さんから言われています。
── (取材時は)先発出場する試合もあれば、途中出場する試合も多くて、準備は大変ではないですか?
麦谷 僕は与えられた場所で、仕事をまっとうするだけです。みんな、そうですよね。先発だろうとベンチだろうと、同じ気持ちで1回から試合に入っています。常に準備はできていますし、全力を尽くすだけです。
── とはいえ、大学では1年春からレギュラーでしたし、途中出場の経験はなかったですよね。気持ちのつくり方は難しかったのでは?
麦谷 大学では経験がなかったので、最初は難しかったです。でも、チームにはいい先輩がいるので。どうやって準備しているのか、背中を見て学んでいます。
【対戦して驚いた投手は?】
── プロで対戦して、驚いた投手はいましたか?
麦谷 今井達也さん(西武)はすごいなと感じました。ここまで全部打ち取られているので。ストレートもスライダーも、すべてのボールがすごかったです。
── 名前が挙がる気がしていました。今井投手とは、ここまで6打数0安打3三振と抑え込まれています。
麦谷 でも、ああいうピッチャーを打たないと、一流にはなれませんから。今後も対戦することがあるでしょうし、もっと練習して打てるようになっていきたいです。
── 大学時代は150キロ級のストレートを得意にしていましたが、プロはやはりレベルが違いますか?
麦谷 数字の上では同じ150キロでも、プロのボールは全然違います。横の変化にしても、縦の変化にしてもそうです。そもそも僕らがやっていた北東北リーグは、世間的に注目されていないリーグなので......(笑)。やっぱり大学時代とはギャップがあるんですけど、キャンプの時に(廣岡)大志さんから言われたんです。「まあ、慣れだよって」。もっと打席で球を見て、練習からいろんなことを意識してやっていきたいです。
つづく
麦谷祐介(むぎたに・ゆうすけ)/2002年7月27日生まれ、宮城県出身。大崎中央高から富士大に進み、1年春からベンチ入り。4年秋のリーグ戦では本塁打王、打点王、盗塁王のタイトルを獲得し、優秀選手賞、ベストナインにも選ばれた。24年のドラフトでオリックスから1位指名され入団。プロ1年目の今季、開幕一軍を果たした