
攻撃の応酬が始まってから1週間、現地の日本人の退避が始まりました。攻撃が続く中、今後の鍵を握っているのがイランへの攻撃計画を「承認した」と報じられたトランプ大統領です。「期限の1秒前に最終決定を下したい」と話しています。
イスラエル・イラン応酬 1週間 ミサイルが病院を直撃轟音と共に夜空に打ちあがる赤い光。イランがイスラエルに向けて発射したとみられるミサイルです。
両国の攻撃の応酬が始まってから1週間。イスラエル市民は、シェルターに避難する日々が続いています。
避難した市民
「こんな生活を送るなんてあり得ない。毎日が辛くて安全な場所がどこにもない」
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外では、街の景色が一変。ミサイルは病院にも直撃しました。
病院長
「建物のダメージは深刻で、病院の敷地内が広く被害を受けてました。(被害は)ほかの病棟にも及んでいます」
イスラエル政府によりますと、これまでに各地で合わせて24人が死亡、830人以上が負傷しました。
「被害が拡大しているような印象」日本人の国外退避 始まる増尾聡 記者
「退避を希望する日本人がヨルダンに退避します。バスに乗り込み、まもなく出発します」
イスラエルにいる日本人の退避も始まりました。隣国のヨルダンへ移動するということです。
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出張でイスラエルに滞在
「今朝もテルアビブ市内で着弾があった。被害が拡大しているような印象もあったので、移動を決めました」
イスラエルでは民間航空機の運航が停止していることから、船でギリシャやキプロスを目指す人々が増えています。
ギリシャに避難する人
「衝突が理由で、ここを去ります」
一方、イスラエルもイランへの攻撃を続けていて、イランでは、これまでに600人以上が死亡。外務省によりますと、イランの在留日本人らも19日、テヘランを出発し、隣国のアゼルバイジャンに向けて陸路で移動を始めたということです。
イスラエルとイランで応酬が続く中、注目されているのが、この人。
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――アメリカがイランの核施設を攻撃する可能性は?
トランプ大統領
「やるかもしれないし、やらないかもしれない。私が何をするのか誰にも分からない」
アメリカがイランへの攻撃に踏み切るのかが焦点となる中、WSJによると「トランプ大統領がイラン攻撃計画を承認した」との報道が。
ただ、イランに核開発を放棄する意思があるかどうかを見極めるため、最終的な命令は保留していて、攻撃参加の可能性を示すことでイランに譲歩を迫る狙いがあるということです。
トランプ大統領
「やるべきことは考えているが、期限の1秒前に最終決定を下したい。状況は変化するからだ」
こうした中、19日午後、中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領が電話会談し、イランの核開発問題について対話を通じて解決すべきだとする考えで一致しました。
また、ドイツ、フランス、イギリスの外相が20日、スイスでイランのアラグチ外相と核問題について協議を行うということで、ギリギリの外交努力が続けられています。
軍事介入は?トランプ氏の“狙い”小川彩佳キャスター:
イランとイスラエルの攻撃がエスカレートしています。なぜ、このような状況になったのか。それぞれの立場からひも解いていきます。
藤森祥平キャスター:
まずはアメリカから。イランに対する攻撃計画を承認したというトランプ大統領の「やるかもしれないし、やらないかもしれない」という発言。今後、アメリカは攻撃に加わる?
23ジャーナリスト 須賀川拓さん:
トランプ大統領としては「態度を変えろ」というイランへのメッセージでもあるが、ギリギリの寸止め状態。トランプ氏は危険な賭けに出ていると感じる。
小川キャスター:
中室さんはこの状況をどうみていますか?
教育経済学者 中室牧子さん:
2つ懸念していることがあって、一つは周辺国へ飛び火をすることで、長期化するんじゃないかということ。それから原油価格が高騰するんじゃないかということですね。こうなると日本経済への影響も避けられないのではないかなと思う。
小川キャスター:
長い歴史があるわけですが、そもそも対立はいつから始まったのか?
須賀川さん:
実は数十年前にさかのぼると、イスラエルとアメリカとイランは、大の仲良しだった。なんならイランの兵器のほとんどはアメリカ製だったくらい。ところが1979年にイラン革命が起きたことでイスラム体制となり、イランは反米に。親米のイスラエルはそれだけでも敵国扱いだが、聖地エルサレムを占領しているということでイランにとって悪の象徴となった。
小川キャスター:
今回、イスラエルが先制攻撃をした理由としているのは「イランの核の脅威」。これも今に始まったわけではない?
須賀川さん:
そうなんです、13年前のネタニヤフ首相の発言がこちらです。
ネタニヤフ首相(2012年9月 国連総会)
「レッドラインはまさにここに引くべきです。イランが核兵器製造に必要な濃縮ウランを数か月、あるいは数週間で蓄積できる段階に達する前に」
ネタニヤフ首相は10年以上前から同じことを言い続けている。今回の攻撃直前にも、同じようなことを言っている。確かに核開発をめぐってイランはルールを破ってきたが、だからといってイスラエルの先制攻撃を正当化することはできない。
「核開発」双方の立場は藤森キャスター:
今の話からすると、ルールを守らず、国際社会に反対されながらも、核開発をやめなかったイランに対する懸念や問題があるのでは?
須賀川さん:
外形的事実をおさらいすると、非常に興味深い。
核兵器を保有しているかどうか。イランはまさに今、開発中。イスラエルに関しては公表していない。ただ、否定もしていない。国際的にも保有していること自体、公然の秘密となっている。
NPT(核不拡散条約)。イランは加盟している。イスラエルは加盟していない。
IAEA(国際原子力機関)の査察をイランは受け入れている。イスラエルは国連安保理から査察の要請を以前受けているが、これを拒否している。
この状況をみたら、あれって思う方がいるかもしれないが、そもそもイランは核開発の約束事、ルールブックを持ちながら、ルールを破っている状態。イスラエルは、ルールブックそのものをほっぽり出している。
小川キャスター:
どこに軸足を置くかで見方もがらっとかわってきますけども、中室さんいかがですか?
中室牧子さん:
かねてからIAEAの査察や監視がうまく機能していないと感じてきましたが、その点はいかがですか?
須賀川さん:
非常にいいポイント。IAEAは完璧な機関ではない。これまでもたくさんの穴はあった。だが、限界があるとは言え、この限界もイスラエル側は主張している。IAEAは原子力施設を監視できる唯一の国際機関なので、それを無視してしまうと、国際基準、国際秩序そのものが崩れかねない。
パレスチナでも同じことが起きている。どういうことかというと、様々な国がイスラエルのパレスチナやガザへの攻撃に違法性をとなえているが、「悪の基準は自分が決める」というイスラエルのスタンスと、それをコントロールできない国際社会は自ら民主主義の根幹を揺るがしてしまっているともいえる。
ガザではきのうも144人が殺害された。5万5000人以上の死者全員が、イスラエルの言う「テロリスト」なのか。ここは問い続けなければいけない。
藤森キャスター:
こうした状況で国際社会はG7サミット、たとえばこの間、共同声明が採択されました。「我々は、イスラエルは自国を守る権利を有することを確認する」と、この点で言えばイスラエル寄りなんですよね。
須賀川さん:
その通りなんですよ。主権国家としてイスラエルの自衛する権利は認められるべき。賛成です。ならば、先制攻撃された主権国家イランの自衛権はどこにいったの?このあたりもしっかり考えていかなくてはいけないし、問い続けなければいけないと思う。
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<プロフィール>
須賀川 拓
23ジャーナリスト 前JNN中東支局長
ガザやアフガンなど取材
「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞
中室 牧子さん
教育経済学者 教育をデータで分析
著書「科学的根拠で子育て」