
会社員のAさんは同僚がFX(外国為替証拠金取引)で副収入を得ているという話を聞き、自分も試しにやってみようと考えていました。スマートフォン1つで取引できる手軽さもあり、少額から取引をスタートしたところ、ビギナーズラックもあったのかトントン拍子で利益が積み重なります。
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しかし順風満帆な日々は長くは続きません。日々報じられる経済ニュースに影響され、為替レートは気まぐれに乱高下します。その結果、Aさんが大切に築き上げてきた利益は一瞬にして消え去り、大損失を被ってしまったのです。
大損失のショックを抱えながら確定申告の時期を迎えたAさんは、「利益は全く出ていないのだから、確定申告など必要ないだろう」と自己判断し、申告をおこないませんでした。
その後もFXをやり続けたAさんは、少しずつですが確実に利益を出し続け、遂には以前と同等の利益を取り戻します。そして気づけば、また確定申告の時期。Aさんは意気揚々と確定申告をするために役所へ赴き、相談員に声を掛けます。
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これまでのいきさつや、過去の損失の話を相談員にしたところ「確定申告で損失の繰越控除の手続きをしていれば、節税できたかもしれませんね」と言われます。損失の繰越控除の存在自体を知らなかったAさんは、昨年の自分を思い返し、またもショックを受けるのでした。
Aさんは損失が出た時点で、どのように対応するべきだったのでしょう。正木税理士事務所の正木由紀さんに話を聞きました。
損失があっても“未申告”でかえって損することも…
ーFXで損失が出た場合の確定申告は必須なのでしょうか。
FX取引で損失が出たというだけでは確定申告は必須ではありません。所得税の確定申告は、基本的に所得(利益)が発生した場合に、その所得に対する税金を計算し納付するためにおこなう手続きです。
したがって、ほかに申告すべき所得がなく年間のFX取引を通算して損失で終わった場合は、納めるべき税金が発生しないため申告の義務も生じないということになります。
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ー損失が出ているのに、あえて確定申告をするメリットは何ですか?
義務ではないにも関わらず、FXで損失が出た場合に確定申告をすることで「損失の繰越控除」が受けられ、将来の税負担を軽減できる大きなメリットが存在します。FX取引で生じた損失は、確定申告をおこなうことで、翌年以降3年間にわたって繰り越すことができます。
仮に今年100万円の損失を出した場合、翌年以降に出た利益と差し引いて、プラスの部分だけに税金がかかるようになります。税率が20%(所得税15%+住民税5%)だとすると、100万円が控除されれば約20万円の税金が節約できるのです。ただし差し引きできる利益は、FXを含む「先物取引に係る雑所得等の金額」に限ります。
Aさんは「損失の繰越控除」を知らず手続きもおこなっていなかったので、翌年に軽減できたはずの税金を支払うことになったのです。FXに限らず投資をおこなう際は、どのような控除が発生する可能性があるのか、税理士などの専門家に聞いてみることをおすすめします。
◆正木由紀(まさき・ゆき)/税理士 10年以上の税理士事務所勤務を経て令和5年1月に独立。これまで数多くの法人・個人の税務を担当。現在は、社労士や司法書士ともチームを組み、「クライアントの生活をより充実したものに」をモットーに活動している。私生活では2児の母として子育てに奮闘中。
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(まいどなニュース特約・八幡 康二)
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