6月24日、テレビ放送(日本テレビ系)で最終話を迎える 『機動戦士Gundam GQuuuuuuX(ジークアクス)』は、今年1月に劇場で一部エピソードが先行公開されて以降、アニメファンのみならず、『機動戦士ガンダム』(1979〜80年放映)に並々ならぬ思いを抱くガンダムファン(敬愛を込めて「ガンダムおじさん」と呼びたい)の話題をかっさらった。
彼らがジークアクスについて、ガンダムに詳しくない人をやや置いてけぼりにしつつ語り合う、それが本特集の趣旨です。ネタバレ注意!
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■不遇をかこった男のまさかの捲土重来
ここは新宿区歌舞伎町の某喫茶店、夜な夜な集まるガンダムおじさんたち(ひとり除く)が、「ジークアクスの何が俺たちに刺さった」のかを語り合っています。ちょっと聞き耳を立ててみることにしましょう。
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ヤノ・アツ(以下、ヤノ) 最近、テレビアニメ『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』(以下、ジークアクス)がやたら話題ですよね。最新話が放映されるたびにSNSが沸き立っていますよ。ガンダムに明るくない僕に、ジークアクスの面白さを教えてくれますか?
オ・ターニ(以下、オタニ) いいだろう、解説しよう。本作はテレビアニメ『機動戦士ガンダム』(以下、ファーストガンダム)の約5年後、宇宙世紀0085年が舞台なのだが、この世界はひと味違う。
ファーストガンダムで敗北していたはずのジオン公国側が勝利した世界線だったのだ。すなわち、ジークアクスはガンダムの「歴史のイフ」が描かれているというわけだ。
その別の世界線で活躍するキャラクターたちが胸アツなんだな。ジオン軍のエースパイロット「赤い彗星」ことシャア・アズナブルは、正史では主人公アムロ・レイが乗るはずのモビルスーツ「ガンダム」を強奪し、自ら操縦してしまう。
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テレビ版のファーストガンダム第1話でアムロが言ったセリフ「(コックピットの計器を見ながら)5倍以上のエネルギーゲインがある......!」をシャアが言ったり、第1話のアムロとまったく同じ戦法で敵を撃破したりもする。
ナ・オーイ(以下、ナオイ) 予想外だったのが、物語のキーを握る重要人物がシャリア・ブルだったことだね。
彼はファーストガンダムの第39話に出てきたキャラで、シャアに次ぐジオン軍のニュータイプとして活躍を期待されていたんだけど、その回のうちにアムロに撃墜されて戦死してしまう。ファーストガンダム劇場版三部作では存在すらカットされていた。それがジークアクスの世界では生き残り、ジオンの中佐として大活躍しているんだ。
不遇をかこった実力者が、長い時を超えて、その真の力をついに発揮する......こっちも胸アツじゃん!
■世代を超えて楽しめる作品に
オタニ それだけじゃない。ジオン軍の「黒い三連星」、キシリア・ザビ、ギレン・ザビ、アムロとシャアの思い人であるララァ・スン、さらにファーストガンダムの続編『機動戦士Zガンダム』のバスク・オムなど、旧作ファン垂涎のキャラが次々と登場する。
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ナオイ ガンダムならではのメカ要素もあるよ。ザクやドム、ビグ・ザム、エルメスなど旧作に登場するモビルスーツやモビルアーマーが現代的にリファインされて出てくるんだ。こんなんガンプラ(ガンダムのプラモデル)が発売されたら買うに決まってんだろ!
オタニ 戦闘中のBGMもヤバかった。シャアがガンダムに乗って戦い始めると、ファーストガンダムの劇伴がかかるんだよ。これに興奮するなってほうが無理な話!
ヤノ 話を聞いていると、ジークアクスは旧作ありきの作品のようですね。『シン・ゴジラ』ならぬ「シン・ガンダム」的な?
オタニ そういう要素もなくはない。ジークアクスは『新世紀エヴァンゲリオン』(以下、エヴァ)の総監督、庵野秀明氏が率いる「スタジオカラー」、ガンダムの制作会社「サンライズ」の共同制作だから。ただ、本作の監督は、庵野監督の弟子筋にあたる鶴巻和哉氏。庵野氏は脚本の一部、ご意見番として存在しているだけ。
事実、ジークアクスは庵野作品によくある鬱展開は控えめだ。
ナオイ キャラはどんどん死ぬけどね。
ヤノ ところでオタニさんはガンダムの原作・総監督、富野由悠季氏の信者ですよね。富野監督が作ったシャアなどのキャラを二次創作的に使うのはいかがなものか、みたいな気持ちは?
オタニ 最初はあったさ。ガンダムの小ネタの引用であおっている感も否めないともうっすら思っていた。でも、鶴巻監督は僕よりもはるかに筋金入りのガンダムオタク。そんな人が作っているんだからハズレなわけがない、そう信じてみることにしたんだ。
今のところこの期待を超える物語を楽しめているよ。詳しくはネタバレになるから言えないけどね!
ヤノ 状況は理解できました。でも、聞けば聞くほどハードルが高いですね。初心者には難しそう。
オカ・ムラサメ(以下、オカ) そういう人々への導線もしっかり用意されていますよ。ジークアクスの主役は旧作のキャラじゃない。主人公は新規キャラ。女子高生のアマテ・ユズリハ(通称マチュ)です。赤髪ショートカットで、背は小さいけど胸はけっこうあります!
そんな彼女がモビルスーツ、ジークアクスに乗りつつ、三角関係で恋と友情に悩んだりもする。明らかにライト層への訴求を狙ってますね。本作はガンダムおじさん世代と非ガンダム世代が同時に楽しめるものになっている気がします。
ナオイ 実際うちはそんな感じだよ。俺は中学生の息子と配信で一緒に見てるんだけど、わからない設定が出てくると「お父さん、これってどういう意味?」って質問してくるよ。それに答えるのが楽しくてね。ジークアクスが親子のコミュニケーションツールになっているね。
■SNSを中心に考察が盛り上がる
ヤノ 最初にも言いましたが、本作はSNSを中心に話題になっていますね。
オタニ テレビ放送をリアルタイム(日テレ系、毎週火曜24時29分〜)で見ながらSNSを眺めていると、視聴者の過熱ぶりがすごい。実況している人もいるし、物語の裏設定や次回の展開を考察する人もたくさんいる。放送翌日には視聴者による感想と考察動画がYouTubeに大量にアップされている。
ナオイ その考察も玄人っぽいのが多いんだよ。例えばジオン勝利の世界線という設定は、アメリカのSF作家フィリップ・K・ディックの小説『高い城の男』(ハヤカワ文庫)にそっくりだという指摘があったね。
同作は第2次世界大戦で枢軸国(日本、ドイツ、イタリア)が勝利した世界線のお話。ジークアクスの鶴巻監督はガチのSFマニアでもあるから『高い城の男』を参考にしていてもおかしくないって。
あと、1998年発売のガンダムのビデオゲーム『機動戦士ガンダム ギレンの野望』(バンダイ、現バンダイナムコエンターテインメント)ではジオンが勝利する世界線をプレイすることができた。シャアが乗る赤いガンダムも登場している。このゲームの影響もかなり強いんじゃないかな。
オタニ こんな考察もあった。本作の設定のいくつかは富野監督が執筆した小説版『機動戦士ガンダム』、小説『密会〜アムロとララァ』(どちらも角川スニーカー文庫)が基になっているらしい。この説がSNS上で拡散した結果、先の小説が増刷されるという事態まで引き起こしている。スゴイな。
オカ あと、本作のスタッフはエヴァに関わった人が多いせいか、同作を連想させるシーンが多いです。モビルスーツ「ジフレド」は配色がエヴァ初号機にそっくり。シャリア・ブルの部屋は『シン・エヴァンゲリオン劇場版』に出てくる葛城ミサトの艦長室とまったく同じ間取りでした。
まあ、こんな感じでジークアクスは誰かと語りたくなる要素が満載なんです。作品そのものだけでなく、誰かと内容を共有したり、ネットの考察も楽しんだりできるのが特徴ですね。
オタニ この状況、1995年のテレビ版『新世紀エヴァンゲリオン』放映時と似ている気がする。当時SNSはなかったけど、ニフティサーブ掲示板や野良掲示板ではエヴァについて侃々諤々の議論が繰り返されていた。それが結果的にエヴァを社会現象にまで押し上げる一因になった。
ジークアクスがきっかけとなって、ファーストガンダムはもちろん、これまでのガンダムシリーズ全体も再び盛り上がりを見せるはず。こんなにうれしいことはない。
ヤノ ちなみに、オタニさんはジークアクスとファーストガンダム以外で、ガンダム素人が見るべき作品はなんだと思いますか?
オタニ ......(3分経過)。すまん! 今は答えを出せない。しっかり考えてから作品を選ぶから、あと1週間待ってくれないか!?
ヤノ めんどくさ!
取材・文/尾谷幸憲 撮影/榊智朗 イラスト/服部元信 写真/産経新聞社